第7話 少女の描く世界

ラヴ天才テンサイ魔法チカラ

この世のすべてを手に入れた私、ドライ=アムガミスタ。

私が死に際に放った沈黙は、人々を私のものへと変えさせた。

「…………………………………………」

人々は亡き私を求め、世界へと踊り出す。

世はまさに、私一色のジダイ


トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー

タンタンタン

見つけた あの森のなかに

ずっと 探してた タンタンタタタン

君が 落とした

星の カケラ ソウソウソウソウソウ

いまさら ごめんね

駆け抜けた 心の階段 トゥルルルルンチ

射抜きたい その笑顔 

いまならば できるはず フワフワフワフワフワ

その心に 従うよ☆

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー

トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー


主題歌 「いくよ!精霊少女ッ」

作 ドライ=アムガミスタ

曲    〃


異世界における少女とは?

――質量保存の法則を無視した力を酷使する、無垢な少女。

異世界における???とは?

――そこに住まう人々を守り、隣人を愛す存在。

つまり、森の精霊。

私はそれになりたくて、それに憧れて。

何十年も彷徨っていた。そして……


【ドライ1000年・キャスター島】


「入るぞ、店主。」

赤、青、黄、緑、紫、薄緑、白銀……

古今東西大小さまざま、濃淡のまるで違う服の数々が部屋を占める。

中程度の大きさの部屋はそれだけで一杯一杯らしく、足の踏み場さえ見当たらない。「いらっしゃい、イーデハルト。」

そんな洋服のジャングルを抜けると、カウンターに腰掛ける一人の人間が見える。

三つ編みを20個程携えた、長身の女。

目元はすらっと冷たく、肌は程よく白い。

何枚も全く違う服を重ね着しているようにも、

服の一部だけを継ぎ接ぎにして肌につけているように見える。

まあ要するに、かなり変な人というところ。

彼女は、この店の店主らしい。

店の正面に大きく掲げられた”ラバーラウンド”という看板は、私の記憶には無い店だ。

彼女の名は……

「相変わらずだな、ミレイ。」

ミレイ・ハーフリフ。

洋服屋ラバーラウンドの店主であり、名のしれた魔術師。

父はわずかに蓄えられたちょび髭を大事そうに撫でながら、ミレイのことを気の抜けた表情で見つめる。

さっきの店と同じく長い年月やっているのかと思いきや、そうでもないらしい。

君主から多大な資金的援助を受けて、つい1年前開業したそうな。

彼女の見た目は本当に若々しくて、確かに長年店を切り盛りしているようには見えない。

けれど、何処か雰囲気のある佇まいが、彼女を店主足らしめている気がする。

「そっちこそ、その子、とっても可愛いじゃない。」

急に矛先を私の方に向けられた。

ビクッと姿勢が直り、雷にでも打たれたようになる。

カウンター越しに軽く屈んで私を見つめるミレイは、きれいに整えられたおでこが妙に綺麗だった。

作業着にも、尖ったゴシック服にも見えるその服は、かなり際どい。

ちょっと警戒心が薄いんじゃないかな、なんて思うが、魔術師だというのなら納得もできる。

この国には騎士と君主が居るが、他にも力を持つ存在はいくらでもいるのだ。

魔術師、拳闘士、宝石商、古物店……等々。

それの一番上、というかそれら大小さまざまな力をある程度まとめるのが騎士の役割でもある。

これがまた、骨が折れるものなのだが。

さらさらと三つ編みが揺れ、そこに施された微細な意匠が鼻に掛かる。

一見、何の変哲もない三つ編みだけれど、なにかがおかしい。

そしてその違和感は、正しかった。

その三つ編みの髪留めを見てみるといい。

底に描かれているのは、魔、物理、炎、水、土、氷、光、闇……意味のわからない位の触媒が、同居している。

「君のおかげだよ、ミレイ。」

まさか……このメイド服を作った張本人バカ

確かに、それなら辻褄が合う。

あの小さな髪留めに、いかれた意匠を施すような酔狂が、他にいるはず無い。

このイカレ具合を説明するのは、それだけで一苦労だ。

通常、耐性なんて代物は付いていないのが当たり前だ。

そんなもの日常的に使うものでは無いし、付けるのがあまりにも難しすぎる。

おまけに時間がかかるとくれば、誰も作りたがらない。

そう、であれば。

外敵が居るならばどうだろう?

超常の力があるならばどうだろう?

安心を求める人々が居ても、不思議がないといえる。

そういった一定数の需要に答えるのが、ミレイのような洋服屋と言うわけだ。

その中でも、ミレイはかなり逸脱した実力者だと言える。

私の着るメイド服ですら2つの耐性を持っているのは、正直異常だ。

耐性を1つ以上付けるという発想は、基本的に無い。

耐性を一人で一つ付けられたら、かなりの実力者だと言えるだろう。

そこから分かる通り、耐性とは複数人で一個付ける場合が多い。

それを一人で、しかも2つ付けられるのなんて、この国では両手で足りる。

そして、彼女の髪留め……あれは、意味不明だ。

形から想定するに、自分の三つ編みを擬似的な触媒として利用しているのだろうが、それにしても凄まじい。

考えうる限り存在する力全てに、対応出来るよう作られている。

私のメイド服がわかりやすい。

この服は耐魔・対物に中程度の耐性を持つ。

2つの耐性を持つがゆえに、一つ一つの耐性は弱くなるのだ。

しかし、あの髪留めは違う。

込められた全ての耐性が、全て等しく作用しているのだ。

耐性同士が打ち消し合う独特の癖のようなものが、全く感じられないのだ。

その効果がどれほどなのか、私には分からない。

今の話にしたって、私の想像の域を出ない。

「まあ、サイズ感だけは心配だったんだけど……」

私が戦慄しているとも知らずに、僅かに目を細めるミレイ。

そこから視線が下にズレていき、やがて息をゆっくりと吐く。

そのままミレイはカウンターに寄り掛かり、うっとりと私を見る。

「うん、良いわ、超可愛い。」

「やはりな、我が娘は可愛すぎる。」

父もミレイも、最終的に出す結論が同じとは……。

馬鹿と天才はなんとやらだろう。

それがなんだか可笑しくて、私はキャッキャと小さく喚く。

部屋に灯された濃い明かりが、服を照らしていくのを見ながら。

父の感想は、一旦置いておこう。

というか、置いたまま拾わなくていいだろう。

服の話なのに、なんで私にまで言及してしまうのだろうか。

「んで、今日はそれだけっ?」

そうだ、父は今日、何のためにここに来たのか。

父はエクスの服を着、私はメイド服を着ている。

別に、新たに服を見繕う必要はないと思うが。

「いや、例のものを頼みたくたくてね。」

パキッと音がした。

そう、音がしただけのはずだ。

この部屋を覆う数多の服は、一つ残らず取り払われ、代わりに、父とそっくりの白いマネキンが、服を着て立っている。

眼の前に広がる空間は、今さっき居た場所とは全く異なるように私には見える。

同じ場所のはずだ……そのはずなのに、頭が追いつかない。

「黒少なめ、インナーも少し薄く。」

神妙な顔で注文を述べる、父の姿があった。

私が状況を飲み込むよりも先に、ミレイが口を開く。

一体、何が。

「了解。これが近いかしら。」

パキッと音がした。

その音の発生源はミレイの右手で、白い手袋の上から指を鳴らしていたのだ。

先程のものよりも白っぽく、少しだけ軽そうな服が現れる。

ありえない。

私はまた、泣きそうになった。


[次回予告☆]


ガラス工房から次に向かった洋服屋。

私は未知の世界に触れ、笑ったり泣いたり。

次回はとうとうお祭りって感じになると思うから、期待していてね!

次回「幼き刃」じゃあ今日も行くわよっサービスサービス!


[次回も見てね☆]




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