第5話 始動
この世のすべてを手に入れた私、ドライ=アムガミスタ。
私が死に際に放った沈黙は、人々を私のものへと変えさせた。
「…………………………………………」
人々は亡き私を求め、世界へと踊り出す。
世はまさに、私一色の
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
タンタンタン
見つけた あの森のなかに
ずっと 探してた タンタンタタタン
君が 落とした
星の カケラ ソウソウソウソウソウ
いまさら ごめんね
駆け抜けた 心の階段 トゥルルルルンチ
射抜きたい その笑顔
いまならば できるはず フワフワフワフワフワ
その心に 従うよ☆
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
トゥルルルーントゥートゥルッルッルッールッルッルッー
主題歌 「いくよ!精霊少女ッ」
作 ドライ=アムガミスタ
曲 〃
異世界における少女とは?
――質量保存の法則を無視した力を酷使する、無垢な少女。
異世界における???とは?
――そこに住まう人々を守り、隣人を愛す存在。
つまり、森の精霊。
私はそれになりたくて、それに憧れて。
何十年も彷徨っていた。そして……
前回のあらすじ
メイド服を着せられた私、ドライ=アムガミスタ。
痛い名前とは裏腹に、性能だけは飛び抜けていて……
どうにも反応に困るわね☆
こんな姿で外に出るなんて、恥ずかしすぎるけど、せいぜい頑張るはっ
【ドライ1000年・キャスター島】
「では、そろそろ行くぞ」
父が引いてきたのは、汎用籠型決戦兵器”カエル君2号”。
黒い外角に覆われた、漆黒のゆりかご。
通気性や耐久性に優れ、あらゆる環境に適応できるよう設計。
安定性と歩行に合わせた速度を実現し、その歩みは息を呑むほどに優雅。
外角を完全に閉じることで、紫外線を完全に遮断すると同時に常に25度程度を保つことさえ可能。
簡単に言えばベビーカーなのだが、私からすればかなりのオーバーテクノロジーに思える。
しかし一番の驚きは、これらは一切の魔術的動作を行わずに実現できるということだ。
つまり、魔術を一切使っていない。ということ。
それの何が良いのかと言えば、維持にお金が掛からず、かなり気軽に使えるということがあげられる。
これら全てが工夫の賜物だと思うと、思わず涙が出る。
ありがたく、使わせてもらうわ。
「う……うn」
なんてさわり心地……オーマイゴット。
思わず私は、溜息を零してしまう。
セシルの名残惜しそうな手が離れ、私は余裕を持って籠に収まる。
「さあ、出発ですわ。」
母の可愛らしい声で、ベビーカーが動き出した。
私が暮らしているのは一階で、正面扉から考えると左最奥の部屋だ。
その隣がセシルや使用人の部屋で、厨房やその他の施設なども揃えられている。
そしてそれらは一本の廊下で繋がっていて、何処からでも行き来できる。
自室の扉を抜け、廊下を進む。
私が住んでいた頃と何ら変わりないように思える調度の数々。
それも超えて、大扉の前に着く。
父は悠然とした立ち振舞でゆっくりと進んでいるが、内心おっかなびっくりになっていることは、言うまでもない。
そして、大扉が開けられる。
ベビーカーの外殻が開けっ放しだったからか、生の光が私に当たる。
まぶしくて、あたたかくて。
窓越しの光よりも、強烈に感じる。
つんと、鼻にかかる不思議な香り。
光が開けるよりも先に、私に伝わる。
そして風が吹き抜けると、花びらが、雨のように中を舞う。
【ドライ1000年・キャスター島】
この世界には魔法がある。
またその体系は、魔術とは異なる。
魔法と魔術の違いとは何か?
――不可能を可能にするか否か。
魔術とは理論であり、学問であり、全て紙の上で説明することが出来る。
触媒と数多の要素を積み重ね、望む結果を得る。
それが、魔術。
では、魔法とは?
…………。
意味不明、理解不能、証明不可。
あらゆる要素を持たず、太古から存在する奇跡。
無から有、0から100を生み出す可能性さえ持つ、怪物。
六大陸の内の一つ、私が住む中立国家ヴェプラムにも、魔法が存在している。
そして、その魔法にはルールが有る。
①魔法は、ひとりひとつ。
②魔法の力には、絶対値が存在する。
③魔法の力は、取り消すことができない。
この3つだ。
一番有名なのは、君主の持つ「
その効果とは……自分の力の及ぶ範囲を改変するというもの。
というシンプルな能力。
この魔法の力は端的に言えば、かなり弱い。
基本的には
能力の使用は1年に1度だし、出来ることも”国民”に少しだけ作用するものだけ。
そう、基本的には。
この能力は、発動した後々が怖いのだ。
例えば戦争、例えば内乱。
その力が一度発動すれば、その時点から一致団結に少しだけ向かう。
それが、自分の力が及ぶ範囲で起こるのだ。
その点で言えば、この能力はどんな能力よりも恐ろしい。
君主が国民を持たぬのはそのためだ。
能力は円卓議会で1年を通して少しずつ話し合われ、
能力発動の一ヶ月前12月1日0時0分に、内容が国民に発表される。
15騎士はそれぞれの判断で、受け入れないか、受け入れるならどの程度受け入れるか選ぶことができる。
国民は自分の判断で、15騎士どれかに属する。
それがこの国、中立国家ヴェプラムの政治体系、騎士君主制。
【ドライ1000年・キャスター島】
「よく来たな、イーデハルト。」
白鳥が飛び立つ瞬間を、透き通る白だけで表現した
青一色に染められた
よりどりみどりの美しさをもつそれらの品は、前の私の時代にはない、全く新しいものだった。
私たちは
大小さまざまな、それこそ国民の生活に寄り添ったものから、騎士家で使われるような美しい調度品まで、
「元気そうだな、ベンギル。」
まるで古い友人とのやり取りの一端。
そう見えるかもしれないがそれは違う。
ここに来るまでの道中、父や母は、まるで友達とか知人くらいに、気軽に接されていた。
ほらまた、気づけば握手してるし。
コミュ力お化けかと思ったよ。
「随分、可愛いのがいるな。」
カウンターからこっちにやってくるベンギル。
近くで腰を下ろすべんギルは、強面で筋肉質、おまけに工房特有のエプロンまでしているのだから、笑えない。
そして、じーと私を見つめる艷やかなクマのような瞳が、めちゃくちゃ怖い。
ここが、私の墓場か。
私は、手で、自分を支えている毛布を掘り掘りしてみた。
しかしその努力も虚しく、毛布は揺れるだけ。
「ちょっと!?1回、1回落ち着かない?」
父は私が泣くのを恐れたのか、外角を下ろす。
そこからの攻防戦は、筆舌に尽くしがたいものだった。
なぜなら、外角が下ろされていて、何も見えないからだ。
なので、ここからは音声だけをお届けする。
「懐かしいな、イー坊。」
恐ろしいくらい淡々と、父のらしいあだ名を呼ぶベンギル。
その顔は、どんな風に皺を作っているのか。
「よしっ私が悪かった。済まない、許してくれ。」
ここまでの出来事を1回振り返ってみてほしいのだが、ベンギルはただ私のことをジーと見つめただけ。
対して私の父は、私が泣くのを恐れるあまり、それにオーバーに返してしまったのだ。
まあ実際、泣きそうなくらいには怖かったが。
「釣れないな、イー坊。」
絶対、目が笑ってない気がする。
「私は、一体どうすれば……」
父がブルブルと震える振動が、よく伝わってくる。
「3650戦1500勝165引き分け1500敗。」
一体、何をしているのか。
「うむむ……ベンギル。」
驚いた、あの太めの父が太いけど筋肉質なベンギル相手に1500勝もしているとは、まあ、大方盤上の遊戯とかそこら辺の勝負だろうけど。
「あれをやる。」
2人の間に、稲妻が走った。
ような、気がする。
「まさか……腕組か?」
父の震えがよりいっそう大きくなった。
[次回予告☆]
とうとう始まったわっ
筋肉と筋肉がぶつかり合う、最高に面白い遊戯。
腕組……腕相撲よっ!
楽しみで楽しみで仕方ないって感じかしら?
じゃあ、今日もお疲れ様っ
次回、「絶望の中で淡く咲く」頑張って父、ふぁいとー!今日も行くわよっサービスサービス!
[次回も見てね☆]
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