別バージョン!
★リクエストいただきましたので、
エンディングを別バージョンでお送りいたします(*´▽`*)
quinppilla様、いつもありがとうございます★
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「……質問の続きをするわ。あたしをここに呼んだ責任者は誰?」
「もちろんこの私だ。そして、優秀なる我が魔導士たちがキサマを呼び寄せた」
「そう……、わかったわ」
聖女が顔を上げた。
その深紅の瞳が、ゆらりと揺れた。
なんだ……と思う間もなく、ライールと魔導士たちの姿が、炎のような赤い色に包まれた。
「あんたたちを、あたしの職場に送る。あたしの代わりに卵を割りなさい」
「は……?」
まず、ライールの姿が消えた。そして、魔導士たちが、一人、また一人と消えていく。
「体力と根性さえあれば、誰にでもできる簡単な仕事よ」
聖女は、手にしていた木槌を摩りながら、淡々と言った。
***
何が起こったのかわからなかった。
召喚した聖女の、その深紅の瞳がゆらりと揺れ、炎のような赤い色に包まれて……。
なんだこれは……と思っているうちに、城の大広間とは全く異なる、薄暗い場所に立っていた。
「どこだ……、ここは……」
ライールが呆然とつぶやいた。
魔導士たちも、きょろきょろを辺りを見回したり、目を擦ったりしているが、とにかく薄暗いので、周囲の様子がよく分からない。
何やら地面らしき辺りには、ぼおっとほのかに光る丸いものがたくさんあるようにも見えるが……。
まだ、目が慣れない。
しばしの間、ぼんやりしていると、背後から野太い声がした。
「あぁ⁉ お前ら誰だ? ルシアはどこに行った⁉」
声のほうを、ライールたちは見た。
そこにいたのは顔に傷のある大男。腕の太さなど、ライールの腰よりも太く見える。
その傷の男に、別の男が言った。
「ルシアちゃんの姿がぼやーって薄くなって消えたかと思えば、こいつらが現れたんですよ!」
「なんだそりゃあ⁉」
騒ぎを聞きつけたのか、わらわらと、あちらこちらから大勢の男たちがライールたちのほうにやってきた。
皆、汚れたエプロンを身につけ、そして、手には木槌を持っている。
傷の男が、じろりとライールを睨む。
「オレはカイエンだ。ここのダンジョンの責任者と思ってもらえばいい。で、お前らは、一体なんだ?」
傷の男の眼光の鋭さに、ライールは「ひっ!」と短く悲鳴を上げた。
「金髪のにーちゃん、おまえがこいつらの責任者か?」
ライールは「そうだ」とも「違う」とも、言えなかった。
男の眼光が、恐ろしくて。
男は「……まあ、いい。事情は後で聞く。とりあえず、ここにいる以上、お前たちも卵を割れ。誰か、こいつらにも木槌を与えてやれ」
ライールや魔導士たち全員に木槌が配られた。
「何だこれは」
聖女が持っていた木槌と似ている……と、ライールはぼんやりと思った。
「端的に、説明する。ここはダンジョン。魔物の卵が山のようにある。孵化しちまえば、大変だ。その際には戦士職の者たちが魔物を倒すが……。そうならないように、とにかくどんどん卵を割って、どんどん壊せ。いくつ壊したかは、この木槌に自動的に記憶される。たくさん壊せば、賃金アップに、飯のレベルも上がる。休みたけりゃ勝手に休め。だが、卵を壊さないことには飯は出ない。以上だ。飯の時間にでもルシアのことは聞くが。オレ達には休んでいる暇はねえんだ。早くしないとあの辺りの魔物が孵化しちまう」
傷の男も、他の者たちも、皆、茫然としているライールたちを放置して、どんどん卵を割り始めた。
***
「お! 黒フードの兄ちゃんたち、ここの仕事は慣れたかい?」
配給の列に並んでいる黒いフードを被った魔導士が、給仕の者に声を掛けられた。
「ありがとうございます。最初は訳が分からなかったのですが、木槌に魔力を流すと簡単に卵が割れるとわかってからは……だいぶ楽になりました」
黒フードの魔導士の一人がにこやかに返事をした。
「おお、そうか。よかったな。どれどれ、今日壊した卵を計測するから、そこの計器に兄ちゃんの木槌を乗せてくれ」
「はい!」
先頭の黒フードの男の木槌が、計器に乗せられた。
「お! すげえな兄ちゃん! 卵千個に……、孵化した魔物を倒す戦士たちのサポートもしたのか!」
「え、ええ。魔物を倒すことはできないのですが、その、戦士の皆様が魔物に倒されないように、簡易結界で守ることはできますので……」
「こりゃあ、ボーナスもんだ! よっし! 兄ちゃんには今日は焼いた肉とデザートもつけてやろう!」
「あ、ありがとうございます!」
「明日も頑張れよ」
トレーに乗せられた山盛りの食事を、その魔導士は、喜色満面で受け取った。
「じゃあ、次のにーちゃん! お? 卵は五百か……。じゃあ、普通の飯だな。パンが二枚に豆と野菜スープだな」
「……肉のスープになりませんか? もうお腹が空いて……」
「五百じゃなあ……。もう少し頑張らないと」
「はい……」
「ま、明日も頑張れ! 次のにーちゃん、木槌を計器に乗せろや」
次のにーちゃんと呼ばれたのは、ライールだった。
王城でのキラキラしい美貌などは既に見えず、げっそりとした顔つきだ。
「はあ⁉ 卵、十五⁉ お前やる気ねえのか⁉」
「……あんな卵、割れるか! 硬すぎる!」
「だから、木槌に魔力を通せば簡単にサクサク割れるって教えてもらっただろ?」
そう、魔物の卵は木槌に魔力を通せば、簡単に割れる。
だが、魔導士たちはともかく、単なる王子であったライールに魔力などない。
むすっとした顔で「自分は王子なのに……」と思うが、それを口にしても、このダンジョンにいる者たちは、皆、せせら笑うだけだ。
「あのなあ、元の身分がどうとか、ここでは関係ないんだよ。木槌で卵を割れば、飯が上等なものになる。割れないヤツは、それなりの扱いでしかねえの。ルシアちゃんが戻ってくるまで、にーちゃんたちはここで卵を割るしかないんだから、やる気出せよ」
ライールに渡されたのは、野菜スープのみ。
こんなものでやる気など出るか!
そう怒鳴りたい気持ちを、ぐっとこらえる。
「ホントは十五じゃ飯抜きだぞ。お情けでくれてやるから、明日は気持ちを入れ替えて、がんばるんだな」
気のいい給仕の男は、ライールの肩をポンポンと叩いてから「次のにーちゃん、木槌寄越しな!」と叫んだ。
ライールは、スープをちびちびと飲みながら、部下であったはずの魔導士たちを見る。
肉とデザートをもらった魔導士は、ライールの視線などには気がつかないふりで、肉を貪り食っていた。
豆のスープをもらった魔導士も、ライールに背を向けて、スープを咀嚼する。
ここで生き延びるには、魔物の卵を割るか、もしくは、戦士職になって、孵化した魔物をたおすしかない。
魔力のないライールにとって、卵を割るのも戦士になるのもどちらも困難だ。
一つの卵を割るのだって、相当の時間がかかる。
部下であるはずの魔導士たちが、簡単にパリンパリンと割るのを横目に、渾身の力を込めて、木槌で卵を割り続けても……、時間がかかる。
今日、ライールが割った十五の卵。
それだって、渾身の力で木槌を叩き続けてやっとだったのだ。
悔しさで、涙がにじみ出る。
だが、ここでは、そうして生きるしかない。
聖女であるルシアがライールの世界の魔物を殲滅し、そして、こちらの世界に戻り……、ライールたちを元の世界に戻してくれるまで。
歯を食いしばり、泣きながら、ライールは卵を割り続けた。
終わり
聖女召喚と言われても、わたし、今、仕事が繁忙期なんですが 藍銅紅@『前向き令嬢と二度目の恋』発売中 @ranndoukou
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