8怪獣騒ぎ

怪獣!? 閑静な住宅地に怪しい影?


○○県○○市三川ニュータウンにある貯水池では地域住民から未確認生物の目撃が続いている。その貯水池は、今年5月に少女が一時行方不明になった同じ場所で、その事件との関連性については今の所取材中である。弊社に匿名で送られてきた写真は、この貯水池で撮影されたと思われるもので興味深いものが写されていた。


送られてきた写真には、貯水池の岸付近に生き物のような影が写っている。体の半分は繁盛する水草で隠れているが、その隙間から四肢のようなものも確認できる。


5月に発生した行方不明事件も、少女の発見により事件は収束していると警察から発表があったが、その際受けた心的ショックにより少女は市内の病院に入院しており、取材は難しく警察関係者も慎重な対応が必要と述べている。


ネス湖の怪獣ならぬ貯水池の怪獣の出現に、地元ではちょっとした怪獣フィーバーが巻き起こっている。


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小さな地方紙に載せられた記事の影響で、小学校はちょっとした騒ぎになっていた。生徒たちは自分も見たと言い出すものや、そもそも怪獣など最初からいなかったなど、それぞれ言いたいことを言い争っていた。先生たちはこの混乱を鑑みて、帰りの会では今日の部活動を中止し、集団下校することが告げられた。皆が帰り支度をしている時、ナオトは境先生に呼ばれ一人残るように言われた。


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白鳥巡査は下校する生徒たちに声をかけていた。今は高学年の生徒たちがちらほら歩いている程度で、少し前にキョウコとマサルに会って事情を聞いたばかりだった。新聞社に送られてきた写真のことは知っていたが、例の写真は見ようと思えば怪獣のように見える程度の、ピントの甘い素人の写真だった。白鳥巡査は日頃のナオトのことをよく知っていたので、新聞の写真は他の者の仕業だと考えていた。


何人かの生徒を見送った後、白鳥巡査は自分が立つ反対側の歩道に少し早足で歩くナオトの姿を見つけた。4号棟のキョウコの家で待つマサルを迎えに行くため、先に道路を横断していたのだ。声をかけたがナオトはそのまま歩いて行ってしまった。その横顔はどこか怒っているようで、そんな表情は今まで見たことがないと白鳥巡査は思った。


キョウコの家に着いたナオトはインタホンを押した。ガチャリと鉄製の重い扉が開きキョウコが迎えてくれた。


「遅くなってごめん、マサルどうしてる」


「今寝てるわ。さっき迄起きてたんだけど」


そう言うと部屋に上がるよう促された。キョウコの母親は今日は書道教室で家には子供だけだった。クーラーの効いたダイニングルームでは仰向けで寝ているマサルにタオルケットがかけられていた。テーブルには折り紙が散らばり、鶴が何羽も折られていた。


「マサル君鶴が折れるようになったのよ」


そう言ってマサルの折ったちょっとよれた鶴をつまんでナオトに渡した。


「すごいな、鶴折るの結構難しいよ」


そう言うと手のひらの上で弟の折った鶴をくるくる回した。


「先生から何か言われた?」


「沼に行ったか聞かれたよ」


「なんて答えたの」


「行ってないって答えた」


散らかった折り紙を片付けながら、キョウコは聞いている。その表情には僅かに悲しみが帯びているように見えた。


「ねえ、なんで沼に行く必要があったの?新聞に載った写真と関係あるの?」


ナオトはキョウコも巻き込んでしまったことに責任を感じていた。誠実なキョウコには話してもいいだろう。ミカとの秘密を。






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