7怪しい影
ナオトの考えはこうだった。授業が半日の土曜日にキョウコが学校に残りマサルの注意を惹きつけておく。学校を抜け出す口実は体調不良を言い訳にして、その間に沼に行く手筈だ。マサルはキョウコが家まで送ると言えば境先生も納得するだろう。ナオトの母親は夕方まで帰ってこない。
「そんなに上手くいくかしら、先生に嘘をつくのは気が引けるし」
「なあに大丈夫さ、マサルも君に懐いてることだし」
いつになく楽観的な態度にキョウコは嫌な予感がするのだった。
「でもなんでわざわざ沼に行かなくちゃならないの。細田さんのことと関係あるの」
「確かめたいことが一つあるんだ。危ないことはしないから心配しないで」
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土曜日、ナオトとキョウコの計画は実行に移された。マサルは不安そうな目でナオトのことを見つめていたが、キョウコがなだめて落ち着かせてくれ、今日の部活動は先生と3人で折り紙で遊ぶことになった。
まんまと学校を抜け出したナオトは一旦家に戻り、前日から用意していたリュックサックを背負うと沼へと向かった。沼へと向かう道は以前と変わらず、金網を乗り越え白詰草の野原に着いた。そこには草が踏まれた痕跡がありまだ新しかった。
『タケシたちだな』
ナオトはタケシと鉢合わせしないよう注意深く行動した。野原を抜けると沼が見えた。黒い水面は鏡のように静まりかえりナオトの到着を待っていた。ナオトが目指すのは、西岸にある少し沼側に飛び出た陸地だった。岸側からは大人の背丈ほどの葦がその存在を隠していた。
秘密の場所への入り口が開いているのは予感があった。
『やっぱりミカだ』
葦原には小さな入り口が開いていた。ナオトはそこだけ葦の枝が避けて出来た子供一人通れるトンネルをくぐって行った。トンネルを抜けると沼が見渡せる砂浜に到着した。陸地には朽ちた木舟が半分砂に埋もれかけている。この場所はタケシ達にも知られていない。
岸辺には白詰草の花が並べられていた。萎れた花をつまみくるくると回してみる。間違いなくミカがここに来たとナオトは確信した。それは二人だけがしるサインだった。
『やっぱりミカはここに来たんだ』
しばらくの間沼を眺めた後、白詰草の花をポケットにしまい、沼をあとにした。
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「そうだな、もう帰るか」
タケシはそう言って立ち上がりハルオもそれに従った。最初のうちは冒険の予感にワクワクしていたが、少し大人になったタケシたちは、この幼稚な遊びにシラけてしまっていた。もっと面白いことは沢山あるし、細谷ミカがどんな顔をしていたかもよく覚えていなかった。
「ちょっ…ちょっと待って。今森の中でなんか動いた」
ヤスマサはそう言って皆を引き留めた。
「なんだよ、急に。早く帰んねえと塾に間に合わねえぞ」
「本当なんだって、あそこをよく見ろよ」
ヤスマサの指差す方へ視線を移すと確かに黒い獣のようなものが、木々の間に見え隠れしていた。
「怪獣だよきっと、ねえ、危ないからもう帰ろうよ」
「何言ってんだ。細谷襲ったのはあいつかもしれないぜ。捕まえて警察に渡せば賞金もらえるかもしれないぞ」
全く的外れなことをタケシは言い出した。時々ヤスマサは粗暴で馬鹿なタケシに付き合わされ、うんざりすることがあったが今がまさにそうだった。
「よし、捕まえにいくぞ。お前ら良いな」
まんざらでもない顔をしているハルオを見て、ヤスマサは渋々ついて行くのだった。
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