~始まりの村~ エンドロール

「そんなこんなで、俺達じゃ無事ヌシ様を助けることができたんです」

「おぬし、最後の所業はマジ不敬だから反省しておけよ?」


 村長が呆れた様子で言う。

 ……もちろん反省しておりますとも。


 俺は今、村長宅にて昨日の調査の報告をしていた。

 今回の件はあまりにも色んな事があり、森への影響も馬鹿にできない程に大きかった。

 高い知能に独自の技術、ヌシ様を一時的にでも暴走し支配できる手段を持った新種のモンスターと遭遇、交戦。それだけでも、この村だけで対応するには手が余る出来事だろう。


 ラピスによると、あのモンスターの名前はゴ=ミらしい。

 何ともヘンテコな名前だが、実際戦ってみると、下手したら1体1体が中堅の冒険者や国の兵士に勝るくらいの強さだった。

 ただ、魔法を秘めた筒型の杖(ラピス曰く電気銃)という武器は警戒する程ではない。精々少しだけ体がピリッとする程度。あのくらいならば動きに支障はないだろう。

 だが、接近されたら脅威だった。実際にハサミによる切りつけをくらった身としては、皮鎧を易々と破損させ、傷を与えて来た攻撃力には目を見張る物がある。

 さらに、やつらの纏うバイオ装甲とかいう代物は……非常に厄介だ。刃物を持っていなければ、ダメージを与えることすら難しいぞ。


 とにかくだ。

 今まで見たことも無い異形が現れたこの件は、もはや俺達の村だけの問題ではなくなった。

 他の場所でも同様の事例が今、水面下で起こっている可能性があるのだ。

 そのため、村長には今後の対応の方針を決めてもらうため、帰って来てすぐに報告しに来たのである。

 俺の話を最後まで聞いた村長は、自分がすべきことを悟ったのか頭を抑えている。

 これから村長に待ち受けている仕事の多さを考えると気の毒に思えるが、こんなこと対応できるのは村長この人だけなので頑張ってもらうしかない。


「しかし……無警戒にヌシ様の傍で寝たおぬしらが無事に帰ってこれたということは、ヌシ様は無事に正気へと戻ってくれたということじゃな」

「はい、朝にヌシ様は目を覚まし、無事正気に戻っていました。しかも、一晩寝たらこれまでの傷や疲労諸々が完治した様子でした。ヌシ様曰く、傷や疲労、後遺症も無い完全回復だそうです」

「凄いな、ヌシ様」

「ええ、流石はBランクモンスターという人間が対応できる限界の存在。人間とは生物としての格が違うと改めて思い知らされましたよ」


 しかし、ヌシ様自身も自身の回復

 ラピスはそのことに驚いておらず、当然だと言わんばかりの態度だったのが少し気になったが………まぁ、そのお陰で村のみんなを安心させることができたわけだ。



 実は俺達は昨日、ヌシ様の住処で一夜を明かし、翌朝になってすぐ村に戻ることができたのだ。

 どうやって俺達が深層域から村まで帰ってこれたか。その理由がヌシ様だ。


 今朝、正気に戻っていたヌシ様は目を覚ましてすぐ、俺達に事情を聴いてきた。

 なんと、ヌシ様は人の言葉を話せたのである。

 何故かその瞬間、カランカラン……というダイスの音と、精神が削られそうになった気配を感じたが無視した。


 ヌシ様が話したことに驚きながらも、タメ口で軽い感じで話すラピスを諫めながら俺は、これまでの経緯、森の異変、ゴ=ミとかいう甲殻類に関することを包み隠さず説明した。

 その結果、事情をすべて知ったヌシ様が頭を下げて感謝と謝罪をくれたのだ。

 それに慌てる俺、助けた報酬を要求しだしたラピスにも温和な対応をしてくれて、さらにお礼を用意してくれることになったのだ。

 この時は、ヌシ様の心の広さに感動すら覚えた。

 俺がこの村で暮らしていてよかったと思えてしまうほどに。


「そのお礼の1つとして、俺達はヌシ様に浅層まで送って貰えました」

「それでこんなに早く帰ってこれたのか。‥…ん?1つとして、ということは他にも貰ったのか」

「はい、物ではないですが、こちらを頂きました」


 俺は右手の甲を……そこに刻まれた白雪色に輝く紋章を見せる。

 今までの俺の手には刻まれていなかった物。それを見た村長は驚愕し、震える声で紋章の名を絞り出す。


「「氷雪の加護」、か……」


 紋章。それは、高位の存在へと至った存在が自分の気に入った相手に送る祝福のような物。

 その恩恵による効果は多種多様で、炎の魔法を使えるようになったり、身体が岩より頑丈になったという話も聞く。

 しかし、高位の存在に気に入られるということは簡単な話ではなく、過酷な試練や大いなる偉業を達成した者でないと彼等の目に留まることすらできない。

 そのため、世間では紋章を英雄の証として認識されており、紋章の持ち主は尊敬と羨望の対象として見られている。

 それを俺達は手に入れることができたのだ。


 俺達がヌシ様から送られた加護は「氷雪の加護」というもの。ラピス曰く、冷気と氷の攻撃に対して強くなるらしい。

 どうしてアイツが加護の効果をしれるんだ?本当は高貴な身分の人間だったり・・・いや、ないか。


「ガンバ、本当によくやった。お前はこの村の誇りじゃ」

「ありがとうございます。ですが、今回の依頼はほぼラピスが解決したようなもので・・・」


 ゴ=ミやヌシ様との戦いではあまり役に立てなかったし。


「それでもじゃ。ところで、今回の報酬についてなのじゃが「大変だ村長!」」


 村長が報酬についての話を始めようとしたとき、部屋に飛び込むように自警団の同僚の1人が飛び込んできた。


「どうした、何があった!」

「バンカもいたのか!なら来てくれ、大変なんだ!!」

「待て待て、ずいぶん慌てているようじゃが、何があった?」

「……村の中に、グレゴリベアが、侵入したんです!!」

「!?」


 息を切らせて入って来たこいつは、とんでもないことを言う。

 本来の住処で見ないと思ったあのモンスターが、どうして村の中に!?

 まさか、新たな異変が起こったのか?それとも、あの甲殻類の仲間がいて、そいつが報復しにきたのか……?

 嫌な予感を浮かべる俺を他所に、村長は同僚を落ち着かせる。

 そうして落ち着きを取り戻した同僚は村長に事情を聴かれ、やがて神妙な顔つきで口を開いた。


「……村共同の畑から、生えてきたんだ」

「またかよ!?」


 この村の畑は生命体の錬金装置でも埋まってんのか!!

 そんな悪態をつきながら、俺は自分の愛剣を持って席を立つ。


「村長!すみません、席を外します」

「お、おぉ、怪我をする出ないぞ」

「お気遣い感謝します。ナガヤ、行くぞ!」

「ああ、早くしないと、足止めしてくれてるラピス様に申し訳が……」

「あいつもいんのかよ!お前らだけで対処しとけよ、役目だろ……!」


 もう1人の恩人にこれ以上、迷惑なんてかけれない。

 そう思った俺とは同僚を連れて、村長の家を飛び出して事件の起こっている畑へと向かうのだった。



「本当に真面目な男じゃ、次の村長はあいつに任せたいのぉ……」




 思えばよくここまで来れたものだ。

 幼い頃にこの村に来た時は、村のみんなからの評価は良くなかった。

 母が死んでからは村のみんなに認められるよう必死に足掻いたっけ。

 そんな俺は今では村の一員として認められて、さらには紋章まで手に入れた。

 本当に未来というものは分からない物だ。


「クッソ、マジでグレゴリベアが畑のど真ん中に!?」

「「「バンカ」」さん!!」

「ガキ共か、何でここにいるのか知らんがとにかくさっさと下がってろ!……そしてラピス、加勢しに来たぞ!!」

「……!バンカか、そこの即落ち2コマした怪我人持ってってくれ!」

「「「お~た~す~け~」」」

「うん、お前らが足引っ張ったことは理解した。普段から鍛錬しっかりとしないからこうなんだギャンカス共!!ナガヤこいつらを連れてけ。俺はラピスに加勢する」

「ちょ、え?」


 俺は倒れていた同僚馬鹿共を押し付けてから、剣を握りしめて突貫する。

 そして……ラピスに注意が行ってる家屋くらいの大きさの熊、グレゴリベアへの首元目掛けて跳躍し、思いっきり剣を横に振るった。


 カランカラン……。

「「「「!?」」」」

「ナイスクリティカル!」


 こうして俺の、少し変で男勝りな性格で不思議な戦友と共にやってきた非日常な日々は続いてくのであった。



 ―――――――――――――――

《これにて今シナリオを終了します。ハッピーエンドです、お疲れさまでした》

《……クリア報酬を獲得しました。まずはSAN値を1D10回復します》SAN35→43

《ハッピーエンド報酬です。名誉村民証を手に入れました。これでこの村の物価が安くなります。揚げ芋食べ放題ですよ、やったね》

《次に、「ヌシ様」救出ボーナス、氷雪の加護を手に入れました。効果は冷気、氷系統に対する耐性+6を得ます。残る紋章の保有限度は1つとなりました。考えて取得していきましょう》

《最後に、装備アイテム、空狐の皮衣を手に入れました。冷気、氷系統に対する装甲+5、それ以外には装甲+1、耐久無限のポンチョです。この時点では本来は入手できない代物ですので大事に使った方がいいですよ。言われなくてもそうすると?そうですか》 

《報酬は以上となります。他の報酬はありませんので、これ以上は欲張らないでください》

《次のシナリオはしばらくすれば開始しますので、それまでは静養することをおススメします。皆さんまた会いましょう》


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異世界TRPG ~命知らずな奴らと行く異世界探索譚~ @7281mo-mu

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