第18話 小さな疑念

 デスクの上においたスマホが鳴った。同期の鈴木だ。


「おう俺だ。今夜、いっぱいどうだ。その後の経過報告も聞きたいしな。」

「ああ。俺も誰かに愚痴を聞いてもらいたい心境だからな。」

「おいおい、その調子だと、前途多難だな。じっくり聞いてやるよ。19時に駅前のバーデンビアハウスでどうだ。」

「分かった。」


 バーデンビアハウスに入った。入社した頃、同期でよく退社後に飲みに来た、思い出深い店だ。同期と飲むときは、大抵、この店だ。

 「こっちだ。」

 呼ばれて―ブルに近づくと、既にソーセージの盛り合わせ、ジャーマンポテトがテーブルで湯気を立て、鈴木の手には、ビールジョッキが。

「生をもう一つ。」

 

 二人でジョッキを合わせる。

「で、どうだ、旅行はうまくいったか。」

「だめだったよ。旅行中部屋は別々。娘の目が気になるって言われてね。」

「それで、ひっこんだのか。それじゃ、完全レスになるのは、間違いなしだぞ。」

「だから、夫婦で愛し合いたいって、はっきり言ったんだよ。」

「おういいぞ。嫁さんの心に届いたか。」

「だめだった、マグロになって『やりたいならどうぞ』だってさ。さすがに俺も、そこまでされて、できなかった。」

 ジョッキのビールを一気に喉に流し込んだ。


「おかしいぞ。それは。」

「何がだ。」

「夫婦仲はよかったんだろ。それなのに、そんだけセックスを拒否するって、嫁さん不倫してるんじゃないか。」

「ま、まさか。瞳にかぎってそんなことは。」

「ないって言いきれるか?何か不倫を感じさせることはないか。スマホをしょっちゅう手放さないとか、旦那の予定をしつこく確認するとか、化粧や下着が派手になるとか・・・。」

「そんな様子はないな。化粧とか変わってないし、スマホだって、リビングのテーブルに置きっぱなしにしてるしな。」

「そうか。まあ、気になることがない方がいいからな。」


 飲みを終えて家に帰る。

「おかえりなさい。パパ。お疲れ様。」

 笑顔で迎えてくれるのは、久しぶりだ。鈴木のやつなにが不倫だ。気を回しすぎだ。

「ねえ。パパ、来月の予定を知りたいんだけど。」

「え。どんな予定?出張とか?」

「ううん。いつの日が遅くなるかとかそういう夜の予定。」

「え?夜の予定?遅くなるって決まってるのは、この日だけど・・・・」

 スマホのカレンダーを見せる。

「ちょっと写真撮るね。」

 スマホで画面を撮影すると、

「あ、お風呂入ってきて。」

 キッチンの奥へ、スマホをもって消えて行った。

 え?鈴木が言ってたのって、これか?


 やったあ~スケジュールゲットした。晴美さんにLIMEした。

「旦那が遅くなる日は、〇日と〇日と〇日・・・・。」

 すぐ返信が来た。

「分りました~。段取りま~す。今、どこにいるか分かる?」

「どこ?」

「太田君とホ♡ル。瞳さんも、もうすぐよ~。」

 もうすぐか・・・。ちょっと胸が高鳴った。



 


 

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