夏の歌声

たんぜべ なた。

蝉時雨

 夜明け告げる一番鶏の鳴き声が聞こえました。


 ゆっくりと寝所から起き上がり、朝食の準備を始めましょう。

 熱帯夜からも開放され、今朝は清々しい朝になりました。


 スズメ達の囀りを聞きながら、ご飯を炊き、みそ汁の具材を吟味します。

 作業の途中、耳に飛び込んでくるのは、ラジオ体操へ向かう子供達の声。

 今朝の朝食のおかずは、昨夜の夕食の残り物。


 食台にご飯とみそ汁、おかずを並べ席に座ると

「ジィ~~~~~ジリジリジリジリジリジリ」

 アブラゼミの鳴き声が聞こえ始める。

 いよいよ暑い一日が幕を開けるのです。


 朝食を済ませ、食器を洗い場まで持ってくると

「シャーシャーシャーショワショワショワ」

 クマゼミも鳴き出し始め、その鳴き声はアブラゼミのお株を奪う勢いです。


 職場から電話がかかってきたので、受話器を取りますが

「シャーシャーシャーショワショワショワ」

 と、クマゼミの鳴き声で相手の声は一向に聞こえません。


 セミの鳴き声で会話が聞こえないことを伝えても、相手は不思議がるばかり…

 どうやら電話機にはセミの声を無効化する機能があるようですね。


 さて、午前中の仕事を済ませ、昼食を準備する頃には、お陽様も中天に差しかかります。

 あまりの暑さにアブラゼミとクマゼミは小休止を決め込んだように鳴くのを止めます。


 出来合いの材料で昼食の準備を始めます。

 仕事部屋こそエアコンをつけていますが、台所には換気扇と小窓しか付いていません。

 汗を拭きながらソウメンを湯がく為のお湯を準備していると

「ミ~ン、ミンミンミンミンミンミィ~~ン」

 とミンミンゼミのけたたましい鳴き声が飛び込んできます。

『夏最高っ!』

 と暑さに負けずに大盛りあがり…私は暑さと鳴き声で辟易してしまいます。


 無事にソウメンも湯がき終わり、氷を浮かべ昼食の準備が整う頃

「オ~~シ、ツクツクオ~シ、ツクツクオ~シ」

 ツクツクボウシも鳴き合戦に参加してきます。


 クマゼミ独唱による鳴き声大会とは異なり、三つのセミの大合唱!

 まさに『蝉時雨』とは言い得て妙なりです。


 昼食を済ませ、午後の仕事が始まっても大合唱は終わる気配がありません。

 しかし、こちらも仕事の大詰めを迎えますので、必死に作業へ取り組みます。


 三時のおやつを迎え、台所に戻ると

「オ~~シ、ツクツクオ~シ、ツクツクオ~シ」

 ツクツクボウシが一人頑張って鳴き続けていますが、ミンミンゼミとアブラゼミは小休止といったところでしょうか。

 コーヒーを準備し、大詰めを乗り越えた仕事の後処理を始めます。


 傾いた夕焼けの光が、室内を眩しく照らす頃

「カナカナカナカナカナカナカナ」

 ヒグラシの鳴き声が聞こえてきます。


 どうやら夕立が降ったようで、三時頃まで暑かった屋外も、すっかり涼しくなっています。

「カナカナカナカナカナカナカナ」

 窓を開け、涼しい風を部屋に取り込むと、ヒグラシの鳴き声と共に、そっと秋が忍び寄ってきます。


 ヒグラシの鳴き声を聞くと、秋の到来を実感してしまいます。


 私達は、セミの鳴き声を『言葉』のように聞いているそうです。

 ひょっとすると、ヒグラシは『秋が来たよ!』と語りかけているのかもしれません。


 翻って考えれば

 暑い一日の幕開けを告げるアブラゼミの鳴き声

 暑い一日を乗り切ろうと応援するクマゼミの鳴き声

 暑さにうんざりしている日中に、『ガンバレ!ガンバレ!』と大合唱で応援してくれるミンミンゼミとツクツクボウシの鳴き声


 セミ達は今日も明日も一生懸命歌い上げるのです。

『さぁ、暑い夏の一日が始まるよ!』と。

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夏の歌声 たんぜべ なた。 @nabedon2022

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