第12話 浄化槽の魔改造

 町長の屋敷で、下水処理実験が始まった。ウォル=水原は前世の知識を活かして設計図を作成する。


「まず、汚水を集める槽を作ります。そこで大きなゴミを取り除いて…」


「次に、微生物による分解槽ね」リリィが続けた。薬草師として発酵の知識があるため、微生物の働きについても理解が早い。


「問題は、微生物をどうやって培養するかだな」


セオドアが頭をひねった。


「実は、いいアイデアがあります」


ウォル=水原がにやりと笑った。


「この世界には土魔法がありますよね?土の中の微生物を活性化させる魔法があれば…」


「なるほど!土魔法使いを探しましょう」


土魔法使いは水魔法使いより地位が高かった。農業に直結するため、需要が高いのだ。幸い、町には腕利きの土魔法使いが何人かいた。


「下水処理の実験?面白そうじゃないか」


協力してくれたのはドワーフの土魔法使い、グランド・アースシェイカーだった。


「土の中の小さな生き物を元気にする魔法なら得意だぞ」


グランドの魔法により、浄化槽の中の微生物が活性化された。汚水が徐々にきれいになっていく様子を見て、町長は感動した。


「これは…これは革命だ!」


一週間後、実験は大成功を収めた。汚水は透明な水に変わり、悪臭も完全に消えていた。


「すごい!本当にきれいになってる!」


リリィが興奮して叫んだ。


「これで実証できました。下水処理は可能です」


しかし、ここで新たな問題が浮上した。


「ちょっと待てよ」


グランドが困った顔をした。


「この魔法、俺の魔力をかなり消費するんだ。一軒分でもきついのに、町全体となると…」


「そうか、持続可能性の問題ですね」


ウォル=水原は考え込んだ。魔力に頼った処理では、大規模な普及は難しい。


「魔法に頼らない方法を考えないと」


「でも、微生物だけで本当に処理できるの?」


エルナが心配そうに言った。


「できます。前世の…えっと、古い文献で読んだことがあります」


ウォル=水原は慎重に言葉を選んだ。転生のことは仲間にも詳しく話していない。


「適切な環境を整えれば、微生物は自然に汚水を分解してくれます」


「それなら、その環境を魔法で作り出せばいいんじゃない?」


セオドアが提案した。


「一度環境を整えれば、あとは自動的に機能する浄化槽」


「まさに求めていたものです!」


こうして、魔法で環境を整備し、その後は自然の力で動作する浄化槽の開発が始まった。


しかし、この時ウォル=水原たちは知らなかった。彼らの活動が、町の既得権益を脅かし始めていることを。


影では、彼らの成功を快く思わない勢力が動き始めていたのだった。

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