#3 夕闇に打ち上げ花火
神社近くの公園は、驚くほど人気がなかった。普段から人気のない公園だが、静まりかえった空間は祭りの喧噪とあまりにもかけ離れている。
「藍、今何時?」
由宇の問いかけに答えるため、藍はスマホの画面を確認する。
「今……6時45分」
「打ち上げ花火、7時からだっけ?」
「そうだったと思う」
いつの間にか空気は夕暮れのオレンジから、夕闇に色を変えていた。
公園には申し訳程度の遊具とベンチがあり、藍と由宇は隣り合わせでベンチに腰掛けた。
「ろうそくある?」
「うん、家から持ってきた」
そんな会話をしながら打ち上げ花火が始まるまで、足元に花火の道具を広げていった。
しばらくすると風に乗って打ち上げ花火開始のアナウンスが聞こえてきた。
「もう時間?」
いつの間にかベンチの下にしゃがみ込んでいた由宇が上目遣いに藍を見上げながら聞く。スマホの画面を藍が見るとあとわずかで午後7時になるところだった。
「そういえば、この公園時計ないよね」
「確かに」
言いながら藍が顔を上げた瞬間に「ドンッ」と胸に響くような大きな音が鳴った。続いてパッと花火が開き、驚いたような由宇の顔が照らさし出された。
「びっくりした。油断してたわ」
言って、由宇は声を出して笑い出す。
「ねぇ、俺さっき超間抜けな顔してなかった?」
「してたねぇ」
「藍ってさぁ、びっくりしたとき、あんま顔に出ないよね」
「そうかぁ」
「そうだよ」
そう言いながら、由宇は藍の隣に腰掛けた。日が完全に落ちきっていない空に、次々に花火が打ち上がっていく。
「ねぇ、これって何時までだっけ」
「8時半とか、9時くらいじゃない?」
「ふーん」
由宇はザリザリと足元の砂を靴底でこすっている。
「8時半くらいになったら、線香花火やる? あんま遅くなると、補導されそうだし」
「そうだね。そうしよう」
そう言って由宇は藍の顔をのぞき込む。花火の光りを受けて、由宇の瞳がキラキラと輝いている。思いがけず近づいた由宇の顔に、藍の胸はドキリと跳ねた。
「ほら、顔にでない」
少し不満そうな声で由宇はそう言うと、次々と上がっていく花火を見上げた。
「あ、キャラ花火だ」
空を指さしながら、由宇は藍の肩に身体をトンと預けた。由宇が指さした先を見ると、次々と見覚えのあるキャラクターが少々いびつな形で花火になって空に描かれていく。
「ここ正面からずれてたのかな。全部なんとなく潰れてない?」
「えー、そうなのかも。だから人いないのかな」
「あー、かも。あっちの高台とかのがよく見えたのかも」
言いながら藍は斜め向こう側を指した。
「ふーん。まぁ、ここでいいですけど」
確かに、と藍も思った。
誰かがいたら、こんな風に寄り添って花火を見るなんて出来なかっただろう。そう思うと、多少いびつな花火でも、ここで良かった。
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