このスピードで時は進む

このスピードで時は進む

ビートルズの

ドキュメンタリー・フィルムを見た

知っている名曲が

ライブで生み出されていた

ゲット・バックなど

ベースの弾き語りで

その場で作っていた

歌うのはもちろん

飛ぶ鳥を落とすポール

当時仲違いしていた

ジョージがそれを聴いて

「その曲最高だね……」

彼らの息づかいが伝わった

ジョンは後から入ってきて

相変わらずのおふざけぶり

（眼鏡の奥の目は

　なぜか笑っていない）

リンゴは飄々として

スタッフと談笑中

だが

演奏が始まると

そこにいるのは

やはりビートルズだった

ジョンとポールのハモりは

往年の相性のよさ

ギクシャクした関係も

しばらくはおあずけ

その親密さに

なんだか僕までが

メンバーのひとりに

なった気がした

しかし考えてみれば

彼らとの距離は

埋められないほど遠い

まるで銀河と

物干し台のよう……

そうだ

こうしてはいられない

僕は星空を見上げた

やるべきことを

やらなければ……

そのとき僕は

地球はこのスピードで

回っているのだと

とつぜん理解した

　　　　　　　（了）