第4話「夜の教室で机が勝手に動くんです」後編

 翌日の放課後。

 蒼太と美月は探偵部の部室にいた。


「部長、中山君について調べてみました」


「お、さすが美月ちゃん。早いね」


 美月は、休み時間に中山について情報収集を行っていた。


「そこで気になる情報があったんです。あの装置の出所がわかるかもしれません」


「それは興味深いね」


 蒼太はくるりと椅子を回転させて、美月の方を見た。


「中山君が所属している部活は、電子工作部だそうです」


「なるほど。中山君は、装置を作ったのは部員の誰かかもしれないと思ったのか」


 同じ部活の仲間が犯人ならば、彼が咄嗟に庇った理由も納得ができる。


「早速話を聞きに行ってみよう」


 二人は電子工作部の部室へと向かった。



 * * *



「桐山じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」


 電子工作部の部長であり、蒼太と同じ三年生の藤島が不思議そうな表情を浮かべた。

 電子工作部の部室は別棟にあるため、技術の授業か部員以外はあまり訪れることがなかった。


「やあ、藤島君。実はちょっと聞きたいことがあってね」


 蒼太は事の経緯を藤島に説明した。


「そんな事があったのか…。その装置、見せてくれないか?」


 蒼太が藤島に装置を渡すと、藤島は顔をしかめながらその装置を見つめた。


「確かにうちの部員なら作れるだろうけど…」


「心当たりはあるのかい?」


「う~ん……」


 藤島は口をつぐんだ。


「この装置は、君から見ても良く出来てるのかい?」


 蒼太の問いに、藤島は目を輝かせた。


「あぁ。実に精巧に作られてるよ!彼女はこういう細かい作業が本当に上手いんだ」


「彼女?」


「あっ……」


 藤島がしまったという顔をする。


「謀ったな! 桐山!」


「人聞きの悪い。君が勝手に口を滑らせたんじゃないか」


 二人のやり取りを見て美月はくすくすと笑った。


 藤島の言動から、この装置を作成したと思われる部員は、女子生徒であることが判明した。

 そして、ロボット研究部には女子部員が一人しかいなかった。


「一年の笹田綾だ。彼女は手先が器用で、特に小さな部品の作成が得意なんだ。細かい作業は群を抜いて上手い。この装置を見てすぐに彼女だと分かったよ」


 藤島は彼女の実力をかっているようだった。

 しかし今回はその技術力が仇となり、装置に彼女の特徴が出てしまっていた。


「部長として、部員が不祥事を起こしたなら俺にも責任がある……彼女を呼んでくるよ」


 藤島も含め、蒼太と美月は笹田に話を聞くことになった。


「笹田、この装置を作ったのはお前じゃないか?」


 藤島が単刀直入に尋ねたが、笹田は俯いたまま黙っていた。


「お前が作ったことはこれを見ればわかる。どうしてこんなことをしたんだ?」


 藤島が続けて尋ねるが、笹田は変わらず黙ったまま。


 藤島は、困ったようにため息をつく。

 黙秘を続ける笹田に、今度は蒼太が質問をした。


「もしかして、中山君のためだったのかな?」


「ち、違います!!」


 それまで黙り続けていた笹田が声を張り上げた。


「そこまで必死だと怪しいな…中山を庇ってるのか?」


「中山君は本当に関係ないんです! ……私が、一人でやりました」


 藤島の問いに、笹田は観念したように答えた。


「君は鈴木さんとクラスが違うみたいだけど、どうして鈴木さんの席にこの装置を取り付けたのかな?」


 蒼太が優しく尋ねるが、笹田は再び俯いてしまった。


「お前のことだからちゃんと理由があるんだろ?」


 藤島と蒼太に質問される度、笹田の表情はこわばっていき、今にも泣き出しそうになっていた。

 美月はそんな彼女の様子を見て、を考えた。


「あの、笹田さんと二人だけで話をさせてもらっても良いでしょうか?」


 美月の提案に蒼太と藤島は見開いた。しかし、蒼太はすぐに笑って頷いた。


「わかった。美月ちゃんに任せよう。女子同士の方が話しやすいかもしれないね」


 藤島は納得していないようだったが、蒼太がさあさあと彼を出口へと促し、二人は部屋を出た。


 ぱたりとドアが閉まって、部屋に静寂が広がった。


「笹田さん…もしかして中山君のことが好きなの?」


 美月の問いに、笹田は顔を赤くした。


「ど、どうしてわかったの?」


 笹田は恥ずかしそうに美月の方をちらりと見た。

その様子が可愛らしく、美月はふっと笑みをこぼした。


「探偵部ですから!」


 美月はわざとらしくドヤ顔を作ると、笹田の表情がようやく和らいだ。


「良かったら、話聞かせてくれる?」


 美月の言葉に、笹田が頷いた。


「……私、中山君とは中学から一緒で、その時からずっと彼のことが好きだったの」


 笹田は、ぽつりぽつりと話始めた。


「告白できないまま何年も片思いしてたら、最近、中山君が同じクラスの鈴木さんに振られたって噂を聞いて……」


 笹田は、制服のスカートをぎゅっと握った。


「ずっと中山君のことを思ってたのは私なのに、出会ってからまだ数か月しか経ってない鈴木さんを好きになるだなんて……それが悔しくて……」


笹田が唇を噛み締める。


「だから、鈴木さんが幽霊に取りつかれてるとか、恨まれてるって噂になれば、中山君も引くんじゃないかと思って!」


「……」


 美月が思っていた以上に、彼女は愛を拗らせていたようだ。


「鈴木さんが悪くないのはわかってるけど、どうしても許せないの。嫌なのっ」


 笹田は、泣きながら胸の内を明かした。


「それだけ、中山君のことが好きだったんだね。でも、悪いとわかってることをしたら、余計に自分を傷つけてしまうと思うの」


 美月は泣いている笹田の背中を優しく撫でた。


「これ以上、悲しんでいる自分を傷つけないで」


 美月の言葉に笹田は声を出して泣いた。

彼女が落ち着くまで、美月はそっと寄り添った。



 * * *



 しばらくして、蒼太と藤島が部屋に戻ってきた。


「笹田さんが、鈴木さんの席に装置を付けたのはでした。出来心でいたずらをしてしまったそうです」


「そっか。か」


 蒼太は、美月の報告に追及することなく、あっさり頷いた。

 藤島は変わらず納得してない様子だったが、蒼太がまあまあとなだめ、この件は解決とした。


 その後、美月は笹田に、鈴木には本当の事を告げて謝罪するよう説得した。


「ごめんなさい……ちゃんと謝りたいけど、今はどうしても鈴木さんと話すのが辛くて……」


 笹田の現在の心理状態だと難しそうなため、代わりに美月から鈴木に伝えることになった。


「そうだったの……笹田さんの気持ちを考えたら責められないな。とにかく、幽霊の仕業じゃないなら良かった」


 笹田の動機を知った鈴木は、笑ってそれを許した。

美月は中山が鈴木を好きになった理由がわかった気がした。



 * * *



 翌日の放課後、蒼太と美月はいつものように部室にいた。


「部長は、幽霊を信じてないんですか?」


「う~ん、そうだね。いたら面白いなと思うんだけど、前にも言った通り大体のことは科学的に説明できちゃうからな~」


 蒼太が苦笑いを浮かべる。


「部長は、苦手なものとか無さそうですもんね……」


「僕にだってあるよ。この前の事件だって、美月ちゃんに助けられたし」


「え?」


 この前の事件といえば、まさに幽霊騒動で美月が取り乱してしまった件であった。

助けたどころか足を引っ張ていたように感じていた。


「僕は、誰かの恋愛感情を汲む取るのが苦手でね。美月ちゃんが笹田さんの気持ちに気付いてくれたおかげで、彼女から真相が聞けたよ」


 蒼太の発言に、美月は目を丸くした。


「部長も気付いてる、と思ってました」


「美月ちゃんが二人で話したいと言ったときにようやく理解したよ。僕は『部活仲間の中山君が鈴木さんに振られて落ち込んでるのを見て、笹田さんが代わりに仕返しした』と思ってたんだ」


 美月が目をぱちぱちとさせる。


「まさか、恋愛感情のもつれだったとはね」


 蒼太が再び苦笑いを浮かべる。


「だから今回の事件が無事に解決できたのは、美月ちゃんのおかげだよ」


「いえ、私も……幽霊疑惑の時は部長に助けていただきましたし……なので、二人で解決できたってことですね!」


 美月が満面の笑みを浮かべる。

それにつられて、蒼太もふっと笑みをこぼした。


「その通りだね。これからも一緒に頑張っていこう」


「はい!」


 こうして探偵部は、また新たな謎に向かって動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る