第16話 慈愛神のお節介
そもそも、恩寵などというスキルを授けられていることに、違和感は感じていた。
だが、それも
ろくに説明もされぬまま、魔方陣に放り込まれたことで、じっくり考える暇もなかった。それゆえにLF5と似たような物を考えていた『つよにく』だが、そもそも職業なんてものは戦闘に関するものばかりじゃない、いや、むしろ関係しない方が多いだろう。
それなのに従魔使いにだけ、そんな特権のようなスキルが与えられるだろうか? 仮にそれが真実だとしても、その場合非戦闘職を選んだ者には、何か与えられるのか? 慈愛神という名からして可能性は0ではないが、別ルートからの転生者と比べて余りにも差がありすぎる。
「いや、サトミちゃんに肩入れしたくなる気持ちは分かる。ものすごーく分かる。それでもだ。強制エンカウントにドラゴンを配置までするのはやりすぎだろ!」
すっかり主バカになってる頭を、『つよにく』は必死に働かせる。
ここまで少し話した間でも、サトミが慈愛神から「初めに会った相手に
そこに気を利かせて、サトミが一番好きなドラゴンを配置しておいた。つまりはそういうことなのだろう。
本来魔物が入り込めない遺跡の中で、出会う可能性があるのはせいぜい人間か、必要があるのならだが、機械のメンテナンスに来た天使か神かくらい。そこに対して無効処理を付けていたのだから、決して何も考えていなかったわけではない。『つよにく』こそがイレギュラーの中のイレギュラーなのだから。
尋常じゃないと感じる慈愛神の入れ込み具合に、呆れと共感を覚えながら『つよにく』は頭を掻いた。
「しかし参った。要するにこれは勝ち確のイベントバトルだったもの。……恩寵さえ使っていなければ、の話だけどな」
さて、その想像が当たってるとした場合、ここはもう実力で乗り切るか逃げるかの2択。幸い相手はヘソ天+鼻提灯という爆睡モードなのを見れば、ここは起こさないように脇をこっそり抜ける。それこそが最善手と『つよにく』は結論に至った。
まず優先するべきは、人の住む場所まで行き生活の基盤を整え、その後で『つよにく』のステータスの検証。それさえできれば、あとはサトミにくっついて魔物をテイムしていくので何も問題はない。
「ダメだ、サトミちゃん。あのドラゴンは危険すぎる。ここに生息してるってことだけ覚えておいて、後でまた来よう。ね?」
「えー!? やだやだやだやだ! だって翼生えてるんだよ? 次来たときはもういないかもしれないのにー!!」
「え……本当だ、背中が地面にくっついてるから見えてなかった。……くそ、さすがは我が主、よく見てるな」
全力で駄々をこねられると、思わず「任せて!」と言ってしまいそうになるのを、『つよにく』は必死にこらえた。「ガンガン行こうぜ」なんて気分で行けるのはあくまでゲームの中か、そんな世界でも十分生きていけると確信した後。現状選べるのは「命、大事に」以外ありえないのだ。
「ダメだよ。とにかくここから逃げるから!!」
「やだー!」
嫌われても仕方がない。血涙を流しながらも、サトミを抱きしめた『つよにく』は、静かに、それでいて素早くドラゴンの脇を通り抜けようと足に力を込める――――。
「う――――――おげぇええッ!!」
「きゃあッ!!」
その刹那、まるでカタパルトで射出されたかのように『つよにく』の体が、ドラゴンの後ろに乱立する大木の幹に肩から叩きつけられた。
ずりおちた『つよにく』の横で、ジャイアント・セコイアを思わせる大木の皮が痛々しくも剝がれ、グラグラと揺れている。
「! サトミちゃん、大丈夫かい!?」
「あー、びっくりしたー……。もー、なにがあったんだよー!」
「無事か……良かった……痛ッ!!」
これが速度999900の速さと、それで何かにぶつかった時の反動ダメージかと『つよにく』は学んだ。そして少なくとも速さのステータスは嘘じゃないのかもしれないということも。
しかし、体重180㎏の高速タックルだ。そこらの木ならなぎ倒していきそうなものなのに、止められたのはどういうことだと、木に対しても
「はいはい面白い面白い」
生命力200万に物理防御力110万。すでにインフレを起こしている数値を見て、もはや笑うしかなかった。
しかし悔やむべきは、圧倒的な強者として設定したため、
全身に走る痛みに堪えながらも、カンストの100倍って設定が無かったら、スタート地点にすら立てていなかったんじゃないかと、『つよにく』の背中に冷たいものが伝った。
(何にせよ、少なくとも速度の値が正常なら……他も正常と考えてドラゴンと契約するためのムーブかましても大丈夫……か?)
つい少し前までは嫌われる覚悟はあったとはいえ、嫌われたくないという気持ちは、血の涙を流すほどには強くせめぎ合ったものだ。
むしろこの大木の数値を見て、ドラゴン大したことなくね? という気持ちの方が強くなってきたところに、サトミから声がかかった。
「ねえねえ、つよにくー、何か上から音が聞こえない?」
「上?」
泣き出すかと思いきや、びっくりしたで済ませるサトミの剛胆さに、びっくりしながらも言われた『つよにく』は上を見上げる。巨大な木々の葉に、日光がさえぎられる深い森、そこに上から黒い影が大きくなってくるのがはっきり見えた。
数は3つ。それが地面にぶつかるや、大きな音とともに地面を揺らして、土煙が周囲を閉ざす。その衝撃は『つよにく』の体が一瞬浮き上がるほどの物だった。
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