第20話 剣城と沙耶
中学三年の夏、俺は周りからの期待を裏切りたくなくて、頑張って、そして学校に行くことを辞めた。
外を見ると同じクラスの奴らが中学校へと向かっていた。
(なにやってるんだろうな、俺は)
俺は学校に行くことを辞めてから、家族にも、友達にも見放されて、どん底の人生を送っていた。
周りに失望されていることに対しての悲しさや、苦しみといった感情はなく、そこにあるのはただ、責任感やプレッシャーから解放されたと言う安心感だけだった。
だが、そんな俺のことを見捨てずに毎日話しかけてくる物好きなやつが一人だけいた。
「剣城〜暇だから遊ぼ〜」
幼馴染の沙耶だ、何故かこいつだけは俺を見捨てずに毎日話しかけてくる。
「別に構わないぞ」
俺は、基本的に両親が帰ってくるのは深夜だったから、いつも夕方までは沙耶と一緒に過ごしていた。
「剣城って、学校に戻るつもりはもうないの?」
「戻らなねぇよ、あんな地獄みたいな場所」
「そっか」
そう言うと沙耶は優しく笑った。
「何も言わないんだな...... お前は」
俺は毎日のように、親や教師から学校に戻らないのかと言われ続けていたから、どうして沙耶はそのことについて俺に強く聞かないのか疑問に思っていた。
「剣城は聞いて欲しいの?学校行ってないこと」
「嫌、聞かれたくはないな」
「じゃあこれ以上は聞かない、剣城が苦しむってわかってることを、わざわざ聞きたくないよ」
「そっか...... ありがとな、いっつも俺に構ってくれて」
「きっと沙耶は俺がこんなになっちまって呆れちまってると思うが、それでも俺はお前が話しかけてくれるだけで救われてるよ」
俺は中学に行かなくなってから、毎日俺のことを見捨てずに接してくれた沙耶にとても救われていた。
俺が沙耶に思っていた気持ちを伝えると、少しため息を吐いた後、沙耶は口を開いた。
「私は別に、剣城がサッカーで神童って呼ばれる程、才能に満ち溢れていたから関わっていたわけじゃないし、誰にでも優しく接してみんなの人気者だったから、仲良くしてたわけじゃないよ?」
「じゃあなんで俺なんかに、ずっと構ってくれるんだ?」
俺は疑問だった、俺の存在価値はサッカーの才能と、その才能に期待して集まってくる仲間だけだと思っていたから。
「剣城だから」
「えっ...... 」
俺には言葉の意味がわからなかった。
「君が他の誰でもない神山剣城だから!」
俺は想像してなかったことを言われて少し戸惑ったが、言葉の意味を考えるより先に体が理解していた。俺の目からは長らく見ていなかった、水でできた雫が、ゆっくりと地面へ落ちて行っていた。
「私はね、正直サッカーが下手でも、人間関係が苦手でも、別に構わないんだ」
「剣城が笑って過ごせるならそれで、...... でも剣城が苦しんでる姿だけは見たくないな?剣城に悲しんでる顔は似合わないから、だから、学校に行くのを辞めるまでの剣城は、学校や両親からの重圧で、すぐにでも壊れてしまいそうで見てられなかったな...... でも、学校に行くのを辞めてからの剣城は、昔見たいに明るくなってくれたから私は凄い嬉しいと思ったよ、」
「だからね、えっと...... 私が何を言いたいかっていったら、剣城には笑ってて欲しいんだ?、その方が剣城らしくて安心するから」
そう言うと沙耶は天使のような笑みでニッコリと笑った。
俺は、今までの自分の人生を肯定された気がして、涙が止まらなかった。
「辛かったね、皆んなから勝手に期待されて...... よしよし、剣城は頑張ってるよ、だから今は私の胸の中で思い切り泣いて良いんだよ?」
沙耶は泣き崩れている俺を抱きしめ、慰めてくれた。
この時俺は、沙耶が俺にしてくれたように、高校三年間は沙耶のたまに使おうと決めた。
「なあ沙耶?」
「なぁに?」
「高校はどこに行くつもりなんだ?」
「ここから少し離れたところに行って、新しい環境で高校生活を過ごそうと思ってるんだけど、私、剣城がいないと、だめだめだから、少し迷ってる」
俺の返事は決まっていた。
「だったら、俺が沙耶の目指してる高校についてってやる!」
「でも剣城、学校行ける?また心壊れない?」
「新しい環境なんだろ?それに、沙耶と一緒ならきっと怖くないさ」
沙耶は少し悩んだ後に、答えた。
「う〜ん、よし!わかった、じゃあ一緒の高校に来てもらえる?」
「ああ!喜んで!」
こうして俺と沙耶は高校受験に受かり、高校の近くのアパートを借りて、二人でルームシェアをして暮らしていた。
「ね〜剣城〜」
「あぁ、なんだ?」
「体育祭、剣城何に出場するの〜」
「俺はまだ決めてねえな」
「沙耶はどうしたいんだ?」
俺は、沙耶のやりたいことを手伝おうと思った。
「じゃあ〜ね〜、うちのクラスで全種目!優勝したい」
俺は、現実的ではないとも思ったが、他でもない沙耶の頼みだ、と全力で取りに行くことを決めた。
「じゃあ早速!作戦を練ってくか!」
こうして俺と沙耶の体育祭への目標が決まった。
この時の俺は、まだ知らなかった、この俺が、苦戦することになる程の敵がこの学校にいることを。
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