第12話 君はとっても優しくて......

(この商品は...... 確かここら辺に...... あった。)


家の冷蔵庫の中に保管していた食材がついに空になったので、近所のショッピングモールへと買い物に来ていた。


「全部で、三千九百円になります。」


「これでお願いします。」


「三千九百円丁度ですね。お預かりします。こちら、レシートになります。ありがとうございました。」


買い物を済まして店から出ると、見覚えのある女子生徒が、随分と急いだ様子でどこかへと走っていった。


(あいつ、隣のクラスの。確か名前は......星街夜空ほしまちよぞらだったか。 )


手入れの行き届いたロングの綺麗な金髪に、モデルのような長い足。そして、見た人全員を釘付けにする程の美しい容姿を持っていて、それだけでも、周りから親しまれるには十分だったのだが。それに加えて、性格温和で誰にでも優しい、ときたので、学年で彼女を嫌いな生徒は、一人も居なかった。


(そんなに急いで、一体どこ行こうとしてるんだ?)


あまりにも慌てた様子だったので、そんなに急いでどこへ行くのだろう。と考えながら、要が夜空の方を見ていると、夜空のバッグから、何かが落ちたのが見えた。


(アイツ、何か落としたぞ。)


落としたことに星街は気づいていない様子だったので、拾ってやろうと思い、近づくと、そこには、夜空の財布が落ちていた。


「オイ!財布落としてるぞ!」


財布を落としていたことを星街に向かって叫んだが、距離が離れすぎていて、星街には、声が届いていない様子だった。


仕方ないので、走って追いかけていると、星街は、小さなゲームショップ屋の中へと、入って行った。


(はあ、はあ、はあ...... アイツどんだけ走るの速いんだよ。)


要は、夜空が走るのをついて行くのがやっとで、立ち止まって息が落ち着くのを待った。


(よし、だいぶ落ち着いたし、そろそろ入るか。)


「あれ、おっかしいな。財布持ってきたはずなんだけどな...... 」


中に入ると、そこには、ゲームソフトを購入しようとして、財布を探してる星街の姿があった。


「これ、ショッピングモールに落としてたぞ。」


「嘘!私財布落としてた?」


「ああ。バッグ空いてたみたいだから、次からはちゃんと閉めてから走った方が良いぞ。」


「ごめんね?わざわざこんなところまで届けてくれて。そんなに重たい荷物持ってるのに。」


手に持ってる、スーパーで買ったビニール袋をみて、星街が、申し訳なさそうに聞いた。


「別に気にするな。俺がやりたくてやったことだから。それに、困ったときはお互い様だろ?」


「でも、このまま御礼もしないでありがとうで済ませるのはな...... そうだ!良かったらこの後お昼一緒に食べない?お昼私が奢るからさ?」


スーパーで、買い物をした要の手元に残っているお金は、数十円しか、残っていなかった。


「...... わかった。せっかくのお誘いだし、ありがたく奢ってもらうことにする。」


「本当に!じゃあ私のお気に入りのお店がすぐ近くにあるからついて来て!」


二人は、昼食にするために、夜空のお気に入りだと言うお店へと向かった。


「着いたよ!」


「お気に入りの店ってファミレスのことだったのか。」


「そうだよ?やっぱり人と話すときはここじゃないとね?」


「とりあえず、中に入るか。」


中に入ると、席が空いていたので、すぐに座ることができた。


「何頼もっか?」


「そうだな...... 星街は何にするんだ?」


「私は、ピザとメロンソーダ。この二つが、このお店での一番美味しいセットだよ?後、せっかく知り合ったんだし、星街じゃなくて、夜空って呼んでほしいな?」


星街はどうやら、苗字ではなく下の名前で呼んでもらいたいらしい。


「わかった。次からはそうさせてもらうよ、夜空。後、俺もその、夜空と同じセットに、する。」


「オッケー。じゃあ、頼むものも決まったし、注文しちゃうね!」


テーブルの上に置いてある、タブレット機器を手に取って、夜空は二人の注文を済ませた。


「要って、皆んなが話してるような噂とは、だいぶかけ離れてるんだね!」


「俺のこと、知ってたのか?」


「最初に話しかけてくれた時からね。私的に、結構印象に残ってたから、顔見た時にすぐ分かったよ?」


「俺って知ってて、よく財布渡した後逃すにこんな提案したな?」


自分のことを知ってる奴はほとんど逃げるか、怯えて固まるかの二択なのに、逃ないどころか、お昼を誘ってくるなんて、もの好きもいるんだな。

まあ、そう言うもの好きは、知り合いにもう一人いるが。


「前から、どんな人か一度は話して知っておきたかったし。それに、良い人そうだったから、もう少し喋ってみたいな。って!」


「良い人そう。か、そう言うことを言ってくる奴は二人目だな。」


「もしかして、一人目は愛鈴ちゃん?」


「!................. 。よく分かったな。」


確かにその通りだか、なんで分かったんだ?。


「二人はいっつも一緒にいるから、なんとなくそうなのかな?って。それに、あの子ならそう言うこと、良いそうだったから。」


「そう言いそう。って夜空は愛鈴と話したことがあるのか?」


「私たち、一年の時から、ちょくちょく話すことがあったからね?だから、少しは愛鈴のことわかるんだ?。」


「そうだったのか。」


愛鈴のことをとても楽しそうに話す夜空を見て、愛鈴のことをわかってあげてる人が自分以外にもいて良かったと心から思った。


夜空と話していると、注文していた料理が出来たみたいで、料理が机に運ばれていった。


「美味しそう!じゃあ冷めないうちに食べよっか。」


「これ、思ってたよりも美味いな。」


ファミレスだしと、少し侮っていたが、思いのほかかなり美味しかった。


「でしょ!やっぱ私って、美味しい料理を見極める才能でもあるんじゃないかな!」


「それは、言い過ぎじゃないか?」


「え〜そうかな?」


才能があるかどうかはともかくとして、美味しいものを見つけるセンスくらいは、少しくらいはあるんじゃないか?


「実はさ...... 今日こうやって要を誘ったのは、さっきいったことも本当なんだけど。それとは別に頼みたいことがあったからなんだ。」


「頼みたいことって?」


「さっき私が、ゲームショップに行ってたこと、皆んなには黙っててくれないかな?」


「別に構わないが、どうして隠したいんだ?」


そんな、隠さなければいけないようなことには思えないが...... 。


「だって、私がゲームオタクだなんて皆んなが知ったら、皆んなが抱いてる完璧な夜空ちゃんは崩れちゃうでしょ?だから、皆んなには隠しておきたいなって...... 。」


「無理して好きなことを隠すの辛くないのか?」


「別に辛くなんて...... 」


皆んなの理想を壊さないように隠そうとする、夜空の姿は自分には、とても辛そうに見えた。


「そんな辛い思いしてまで、周りの期待に応えなくても良いんじゃないか?」


「えっ...... 」


「そんな、自分の趣味すら話せない友人と無理して仲良くするくらいなら、心の底から自分のことを見てくれる。ありのままの自分を見てくれる友達を見つけた方が良い。その方が、夜空もそんな辛い顔しないで済むんじゃないか?」


要は、辛そうにしている夜空の顔を見て、昔の自分に似ていると思った。愛鈴と出会う前の、独りぼっちだった頃の自分に。だからこそ、放っておくことができなかった。


「ありのままの自分を見てくれる友達かぁ。そんなこと言ってくれたのは、要が初めてだよ。」


「でも、その方が夜空も楽なんじゃないのか?」


「違いないね。要に言われて、やっと自分がどうするべきなのか、わかった気がするよ。ありがとう。要!」


「よ〜し!気も晴れたし、今日はいっぱい食べるぞ〜!」


そこからは、暗くなるまで夜空といろんなことを話した。


「暗くなって来たし、そろそろ帰ろうか!」


「だな。」


二人は席を立ちレジで会計を済ませると、店の外へと出て行った。


「今日は本当に楽しかった!また遊ぼうね、要!」


「次会う機会があればな!」


「じゃあまた明日!学校でね。」


「ああ。また明日な!」


こうして二人は、それぞれの家へと向かって行った。

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