第11話 この思い出は永遠に...... ④

「だいぶ暗くなってきましたね」


「時間が経つのは一瞬だな。」


二人は、お化け屋敷を出た後、暗くなるまで遊園地を満喫して、閉店時間までの残り時間は十五分しか残っていなかった。


「時間的に次のアトラクションで、最後ですね、何をやりましょうか?」


「最後の一つは、愛鈴が決めてくれ。せっかくなら愛鈴のやりたいやつに乗って終わりたい。」


「では、あれに乗ってみたいです!」


そう言うと、愛鈴は観覧車を指差した。


「観覧車か。」


「どうでしょうか?」


「凄くいいと思う。この時間なら景色も綺麗なはずだ。」


今の空は、雲一つない真っ暗な夜空。観覧車に乗るのに打ってつけの景色だった。


「では、乗りに行きましょう!」


「暗いから気をつけろよ?」


愛鈴は、目を輝かせながら、観覧車の方へと歩いて行った。


「二名様ですね、こちらのゴンドラにお乗り下さい」


キャストさんの指示に従い、二人はゴンドラ中へと入っていった。


「では、ごゆっくりどうぞ。」


自分たちが席についたのを確認すると、キャストさんが、ゴンドラを出発させた。


「今日の空は星が空いっぱいに広がっていて、普段にまして、一段と綺麗な空ですね!」


「随分たのしそうに眺めるな。愛鈴は景色を見るのがそんなに好きなのか?」


「ええ。昔から、自然や空の景色を眺めるのが好きなんです。」


「昔から、か。前に何かあったのか?」


愛鈴が、昔から景色を眺めるのが好きだと言う話をした時の表情が、今にも消えてしまうんじゃないかと思える程に切なそうにしているのを見て、何か昔にあったのかと察したが、ここで聞かないと、後で後悔してしまうような気がして、昔のことを聞いた。


「少し長くなるのですが、私の昔話しを聞いてもらえますか?」


「ああ。」


「私は、今でこそ外を歩けていますが、中学生になるまでは、生まれついての病気で、まともに外も歩けないほどに、か弱かったのです。

それで、小学生の間は、ずっと、病院のベッドの上で過ごす日々を送っていました。

そんな、退屈な日々を過ごしてる私にも、楽しみはありました。それは、窓の外に広がる景色を窓から眺めることです。本当はベッドから出て、近くで見たかったのですが、病気がそれを許してくれず、その願いは叶いませんでした。」



「ですが、もう一つの願いを叶えることは出来ました。そう、病院から出ることが許される日が、ついに来たのです。お医者様から、退院をしても良いと、言われました。私は、やっと病院の中ではない、外に出て、同じ年の子たちと話すことができると思い、心の底から喜びました。」


「そうして、私は中学校へと通うことになったのですが、一つ問題が起きました。それは、中学一年目の夏に、起こってしまったのです。また私の容態が悪くなり、一週間に一度ほどしか行かないようになってしまったのです。そのせいで、結局友達も作らことは叶いませんでした。」


「これが私の、要くんと出会う前までの、高校に入るまでの私の人生の全てです...... 私のつまらない昔話に、付き合ってくれてありがとうございました。」


昔どう言うことがあったのかを噂程度では知っていたが、本当のところは、噂なんかよりもよっぽど過酷な話しだった。


「なあ愛鈴、これまでの人生を苦しんだ分、これからの人生は楽しまないか?」


「えっ...... 、」


愛鈴は、驚いたような表情で目を見開く。


「今まで何も出来てこなかったんだろ?だったら、俺が愛鈴にこれまでの人生で、経験できなかったことを、全部叶えてやる!」


今までこんなに苦しんだんだ。だったらそろそろ幸せになったって良いはずだ。


「本当...... ですか?」


「ああ、本当だ、必ずどこへでも連れて行ってやる、約束だ!だから愛鈴、お前ももう、そんな辛そうな顔するな...... 」


要が愛鈴を抱きしめると、今にも泣き出しそうな声で、愛鈴が言った。


「すみません。少しの間だけ、目を瞑って何も聞かないでいてもらえますか?」


「わかった。」


要が目を瞑ると、愛鈴は要の体に顔を埋めて、小さな声を漏らしながら、涙を流した。


「私、今までこんなこと話せるような人も、聞いてくれるような人もいなかったんです!なのに貴方は、私の話を聞いて、自分のことかのように悩んでくれて、おかげにこんな言葉まで送ってくれる。そんなに優しくされたら、私はどうすれば良いんですか!。私もう...... どうにかなっちゃいますよ。」


溜まっていた言を言い終えた愛鈴は、要の体から、ゆっくりと離れていった。


「すみません要くん。おかげで少しは落ち着きました。」


「そうか。落ち着けたなら、良かった。」


「それと、さっきの約束、守ってくださいね!」


「ああ。なんとしても、必ず叶えてやる!」


愛鈴は涙で目が赤くなっていたが、とても嬉しそうな顔をしていた。


「なあ愛鈴。俺から愛鈴に一つだけ、どうしても聞かなきゃいけない事があるんだが、いいか?」


「なんでしょうか?」


さっきの愛鈴の話を聞いていて、一つだけ。どうしても腑に落ちないところがあった。それは......


「愛鈴、今はもう、病気大丈夫なのか?」


さっきの話では、中学に上がって、病気がさらに悪化したとのことだった。そんな強力な病気が、

高校に上がると同時に治ったとは、到底思えなかった。


「高校に入る直前に、手術をして、病気を治したので、今はもう大丈夫ですよ?」


「そうか...... なら良いんだ」


今の要には愛鈴の言葉が本物だと、信じることしか出来なかった。


「でも、念のため毎月、病院に行って検査しないといけなくて...... 。なので、来週の火曜日は学校をお休みさせていただくことになってます。ご迷惑をお掛け致します。」


「気にしなくて良いさ、それよりも観覧車一周し終えたみたいだぞ」


「そう見たいですね。」


二人を乗せた観覧車は、一周し終えて元の場所に戻っていた。


「ご乗車、ありがとうございました。」


二人は、キャストさんの指示で観覧車から降りた後、遊園地から出て、駅のホームへと向かった。


「要くん、今日は私のわがままに付き合ってくれて、ありがとうございました!とても楽しかったです!」


「そう思ってもらえたならよかった。それに、俺も今日は凄く楽しかったよ!」


今日は本当に楽しかった。生涯絶対に忘れないと言い切れる程に、有意義なひと時だった。


「電車、来たみたいですよ?」


「じゃあ、帰ろうか。」


「ええ」


こうして二人のとても長い一日は、終わりを迎えた。











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