第14話:◇私が奪われた日◇
私が、■■■だったころの思い出は全て覚えているが、どこか他人を見ているような感覚に陥る。いいや、実際に、もう、他人になってしまっているのだ。
■■■でなくなったあの日、私は決定的な何かを奪われ、別の何かにされた。
『あなたが■■■ね?』
天界神教、総本山ペレグリナ大聖堂。村を出て、あらゆる手段を使ってここまで来た私の目の前に天使が現れ、微笑んだ。
天界神教創始者。有翼の天使。革命家。彼女を讃える言葉はいくつもあれど、私がこのとき求めていた姿はたった一つ。
奇跡の贈り手。
彼女に聖者と認められた者のみが与えられる奇跡。私は奇跡を求めていた。
『ペレグリナ大聖堂図書館に無造作に保管された蔵書全ての再登録と管理……これほどの偉業を成し、図書館の守り人……大司書になれるのにあなたはそれを捨てるの?』
『はい。私が求めるのは名誉ではなく奇跡ですから』
『あら、必死なのね。じゃあ、奇跡を起こす代わりにあなたはあなたを神様に捧げてくれるの?』
でも、奇跡は無償ではない。代償がある。
『私を……魂を捧げるだけでいいんですよね』
『ええ。命も記憶も能力もなくならない。ただ、あなたがあなたでなくなるの。それでもいいかしら?』
何を戸惑うことがあるのだろうか? 奇跡を起こしてもらう。それで十分ではないか。
『もちろん』
兄を、大切な人を守る。濁って、汚れがこびりついて取れなくなってしまったあのいかれた村を変える。
何十年、何百年も植え付けられた汚れを、思想を、ヒエラルキーをたった一人の異物が変えられるわけがない。それこそ奇跡が起こらない限り。
『じゃあ、■■■をちょうだい。奇跡をあなたに与えましょう』
だから、起こすのだ、奇跡を。
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