第2話「赤い砂の銃声」

――砂漠の夕陽は血のように赤かった。

 前線基地の壁を越えて、乾いた風が吹き抜ける。

 その風に混じって、絶え間ない銃声と爆音が響いていた。


「敵が来るぞ!」

 叫び声が響き、兵士たちが慌ただしく銃を構える。


 新兵のアデルは、汗ばんだ手でライフルを握りしめていた。

 心臓が耳の奥で爆音のように鳴っている。

 引き金を引けば人が死ぬ。その現実に、体が震えて仕方がなかった。


 戦闘は激しさを増していった。

 敵の数は圧倒的で、次々と仲間が倒れていく。

 砂塵に混じる鉄の匂い、叫び声、銃弾が壁を削る音――。


「アデル! 動け!」

 隊長が怒鳴った瞬間、アデルの隣にいた兵士が胸を撃ち抜かれ、崩れ落ちた。

 鮮血が砂を黒く染める。

 震える指で引き金を引くと、敵兵の一人が砂に倒れた。

 手が震え、吐き気が込み上げてきた。


「……俺が……人を殺した」


 だが考える間もなく、次の弾丸が飛び交う。


 基地の奥から呻き声が響いた。

「誰か! 手を貸してくれ!」


 見ると、仲間の兵士が脚を撃たれて倒れていた。

 周囲は銃撃で危険だ。誰も助けに行けない。


 アデルは息を呑んだ。

 恐怖が足をすくませる。だが、負傷兵の必死の目が彼を射抜いた。


「行くしか……ない!」


 彼は身をかがめ、銃弾の雨をかいくぐりながら駆け寄った。

 肩に負傷兵を担ぎ、必死に走る。

 背中をかすめる弾丸の風圧に、喉が凍りついた。


 だが――なんとか救護テントにたどり着いた。

 負傷兵を仲間に託した瞬間、アデルの胸に小さな火が灯った。


「……俺だって、守れるんだ」


 その時、警報が鳴り響いた。

 敵が総攻撃を仕掛けてきたのだ。

 弾薬は底を尽きかけ、基地の兵士たちは撤退を開始する。


「アデル、下がれ!」

 隊長の声が飛ぶ。


 だがアデルは首を振った。

「俺がここで止めます。仲間を逃がすために!」


 彼は防壁に身を伏せ、残り少ない弾倉を確認する。

 深呼吸を一度。

 そして引き金を引いた。


 敵兵が倒れる。

 次の一人も。

 弾丸が尽きるまで、彼は撃ち続けた。


 カチリ、と乾いた音が響く。

 弾はもうなかった。


 銃を落とし、見上げた空は赤く染まっていた。

 夕焼けなのか、炎なのか、もう判別できない。


 胸に熱が走った。撃たれたのだと理解する。

 血が溢れ、砂に滲んでいく。


 遠くで仲間の声が聞こえた。

「撤退成功! 全員、生きて戻れ!」


 その言葉を最後に、アデルの視界は暗闇に閉ざされていった。


ラストシーン


若き兵士の命は、赤い砂に散った。

だがその死は、仲間たちの生還を確かなものにした。

恐怖を超えた勇気が、彼の最後の物語となった。


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