煌めけ曙☆愛と友情の笑神バトル!!

ひさと

第1話

絶え間なく流れる水は何処へ行くのだろう。山々が連なる深い緑に身を潜め、朧気な意識の中で湧き出る清水を横目で見る。


いつからここにいるのか途方もつかない。遭難したのだろうか。食料も尽き果て横たわることしかできない。


朝が来て夜が来る。少し眠り目を覚まし、しかし完全に意識が途切れないよう気をしっかり持つ。


骨が折れている。痛い。助けは来ない。動けない。


あとどのくらい思考を働かせることができるのか。


朝が来て、夜が来る。


また朝が来て、夜が来る。


痛い。動けない。


🔷


「なんでやねんっ!」シュッ……

「なんでやねんっ!」シュッ……

「なんでやねんっ!」シュッ……


……


はぁ、はぁ、はぁっ……


滴る汗を拭い、なんとか本日の朝練を終えた。素振りをする度に骨折した腹部が鈍く軋むがこの程度なら許容範囲だ。笑研(わらけん)の部室の早朝練習を終え、俺はようやく一息つく。

あの落下事故から3ヶ月、よくここまで回復したものだと己を静かに褒め称える。

笑研の次回公演まで、もう日が残されていないのだ。痛む腹など気にしてはいられない。相方の到着を待ち、合わせの稽古に入らなければ。


そう思い立ち台本を取ろうと立ち上がった瞬間、背後に巨大な黒い影が立ちはだかる。


「貴様っ!何奴!?名を名乗れ!」

瞬時に掴んだ奴の首根っこはふわふわとした毛の束であり、そのまま捻りあげ壁に押し付ける。


「またせたな。相方。」

「お、お前は!相方…」


そこにいたのは巨大なカエルの姿をしたリアル仕様の『ぬいぐるみ』であった。


🔷


「エベレストの如き魔境である険しい山からMERのヘリに救出された俺は今こうして奇跡と共に生きている!救われた命を奮い起たせ、こうして来るべき時のためツッコミの修練に勤しんでいるのだ!」

「エベレストではなく学校の裏山で、救出したのはヘリじゃなくて日夜校内周辺環境を美しく守ってくださっている校務の佐藤さんだがな。佐藤さんが裏山の掃除中に偶然お前を見つけなければマジで死んでたぞ!?てかそもそもなんでお前は学校の裏山で遭難して滑落した挙げ句うっかり死にかけてんだよ阿呆なのかとつっこみたい。」

「まさにそうだ!その節は佐藤さんお世話になりありがとおぉぉぉございまあぁぁぁす!ここに感謝の正拳ツッコミを一万回繰り出さねばならん!うおぉぉ!なんでやねんっ(シュッ)なんでやねん(シュッ)なんでやねん(シュッ)なんでや……(ドゴォッ)」

「いやだからなんでやねんってつっこみたいのはこっちだよ!!!」

綿から出たとは思えぬ鈍い音を轟かせ巨大カエルぬいぐるみから放たれた正拳ツッコミは竜巻を伴う旋風となりクリティカルヒットしドンガラガッシャンと周囲の机や椅子を巻き添えにしてドアの近くまでターゲットを吹き飛ばした。


額に血を滴らせ不死身の男は瓦礫の中から甦る。


「くくく、まさに真のツッコミだ。生きてまた会えて嬉しいぞ……相方よ……」


そうしてツッコミ不在のまま、平穏な放課後の、サークル活動のひとときは過ぎていくのだった。


🔷


カーテンの隙間から柔らかな夕陽が僅かに差し込んでいる。酷暑は薄れつつもまだ秋には遠く、冷えきった空調が僅かに心地よい。緩やかに流れ行く自由な時間。それがどれほど大切なものかを思い知るのはおそらく『今』ではないのだろう。


ーーそんなエモい感情などはまぁなんというかここでは一切語られることなどなく、本日の正拳ツッコミ及びコントの修練に精を出す、約2名(なんか巨大カエルがうっすら見える気がするがおそらく幻覚だ)の姿があった。


「我等は何故この『笑神(わらがみ)バトル』に出場するのか!?そう!優勝者にはあの伝説の!!!『笑神様(わらがみさま)の秘宝』が授与されるからである!!!」

「唐突に虚空に向けた状況説明が来た!?なんだよそれめっちゃ怪しすぎるだろ笑神様って何!?昔のテレビ番組!?」


カエル(仮)は本来ボケのポジションなのだが、コンビ結成から十数年の修練の末、いつの間にやらキレキレのツッコミスキルを会得していた。

だがこいつの潜在的ボケスキルはまさに神の領域……至高のものだと言っても過言ではない。

だがそれは、今回とはまた別のお話としておこう。


🔷


笑神様の秘宝……それは、伝説の歌姫の涙から生まれた奇跡だとか、稀代の人形師(ぬいぐるみマスター)が召喚した異世界のイリュージョンだとか、諸説あるのだが、真相は定かではない。本年度、本校の文化祭と提携したとかで一般参加も認められた大規模な企画が運営されているということであった。


「俺がツッコミでお前が『受け』だ!」

「それを言うなら『受け』ちゃう『ボケ』や!ってなんでこっちがつっこんでんね~ん(ビシィッ)!」


しょーもない漫才を繰り広げながら、来るべきその日に向け修練(?)を繰り広げる幼なじみのコンビであった。


🔷


「世界中の(ドドドドド)人たちが(ドドドドド)秘宝を狙って(ドドドドド)バトルロイヤルを(ドドドドドド)繰り広げているのであ(ドドドドドドドドドド)とうっっっ!くらえっ!四回転半エクストリームツッコ……」

「うるっせえぇぇぇ!!!!」(バキィ)(ドンガラガッシャーーーン)突撃してくる竜巻に華麗なる一撃を喰らわせたことによりターゲットは撃沈した。世界の平和は守られた。やれやれ。


「やれやれではない!」

不死身の男はまたもや血塗れで瓦礫(ってか周囲の机や椅子の残骸)の中から甦る。


「都市伝説さながらに笑神様の力は強大で、手に入れることが出来れば世界征服すら可能なのだという。真偽の程は定かではないが世界中から笑神様の力を狙って聖人悪人魑魅魍魎人間妖怪神天使はたまた宇宙人までもが集結しつつあるということだ。」

「なんやそれほんまかいな!?」

「我々に出来ること、それは、偉大なる笑神様のお力を『適正に』使い、世界に愛と笑顔を届けることなのではなかろうか!なあ相方よ!」

「おう!急に距離感縮めてきたな?おまえは笑神様のなんやねん!」

「俺は密かに笑神様をリスペクトしているただのいちファンだ!ほらこれファンクラブ会員証。」

「ファンクラブなんてあるんだうわ会員番号一桁じゃんすげぇ!神様なのに宗教組織じゃなくてファンクラブなんだ。何者やねん笑神様。」


🔷


「世界に輝かしき笑顔を満ち溢れさせ愛と平和をもたらそうというのが我等が笑神様の本願なのだ!転落して死にかけた時に神様の啓示を受け使命に目覚めたのだよ!ファンクラブ一桁の誉れだありがとう笑神様!俺はお前を愛しているぞ相方よ!結婚してくれ!!」

「えぇっ、山あり落ちあり意味ありでこれが真のヤオイってこと!?いや待てお前は漫才の相方ってだけでそういう意味で好きってわけじゃ…俺には憧れのゆみこちゃんがっ!あぁっ…(?)!」

「ふふ…口ではそういうけれど体は正直だな…十数年の付き合いの中で何もなかったとは言わせんぞ…そうあれは14歳の頃の放課後……」

「ちょっと待て黒歴史を軽率に開陳するんじゃねぇそれネタに混ぜたら許さねぇからなぁぁぁぁ!!!」

「ふふふ~♪恥ずかしがっちゃってこぉいつぅ~♪♪♪よお~し☆そうとなれば特訓だ~☆☆☆笑神バトルまでもう日がないぞ~☆あの夕陽に向かってツッコミ素振りしながら走れ~☆なんでやねんっ(シュッ)なんでやねん(シュッ)なんでやねん(シュッ)なんでやねん(シュッ)」

「うおぉ無駄に足が速いこいつ!待てっ!待ちやがれこのっ!ぐあぁっ!」


バタバタと教室から駆け出す漫才コンビ。グラウンドは夕陽に照られ土煙は黄金色に輝いている。

『今』のこの青春が無限に続きますように。そう祈ったのは、彼らなのか、はたまた。


笑神様の微笑みが彼らの道行きを照らしてくれることだろう。


きっと。


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