第15話 「黒白の居ない避難所」

 黒白が小学校を出る数時間前……黒白が姿を消したことをまだ知らない海藤達は,

物資調達前の準備をしていた。

「海藤さん、もう動いて大丈夫なんですか?」

 渡井が心配そうに聞くと。

「ああ大丈夫さ、心配かけて悪かった、何とか心の整理を付ける事も出来たし、その間頑張ってくれたみんなにも、黒白にも感謝だ」

 海藤は元気そうにしており、その様子を見ていた渡来と偶然居合わせた、辰巳の両名はほっとしていたのだった。

「そう言えば、今日はまだ黒白君を見掛けていませんね、お二人は彼に会いましたか?」

 辰巳は黒白の様子を気に掛け探している様子だったが、海藤達も今日はまだ、黒白に会うことが出来ずにいた。

「そうですね。俺も今日はまだ、彼に会えていません。彼の事だから、また一人で調達に行っていたりして……」

 渡井は冗談半分で言っていたが、黒白だとやりかねないと思った三人は急いで、出発する準備を整えつつ、早朝に校門の見張りをしていた、人物にも確認を取るのだった、しかしその人物が言うには。

「いや、見ていた限りだと外に出て行く人は居ませんでした」

 との事だった、しかし実際は黒白が出て行く時にその男はトイレに行っており、その隙を付いて、黒白は校外に出て行った。

 見張りをしていた男は自身が目を離している時間があった事を隠していた、幸いヤツらが侵入することは無かったが、その瞬間にヤツらが侵入する可能性は十分にあったのだ、黒白はそれを見越し、離れた場所で見張りが戻ってくる間、周囲を見張っていて、男が帰って来たと同時に、そのまま姿を消したのだから、黒白が居なくなった事を知る人は結月一人だった。

 そんな中結月は黒白を見送った後、体育館には戻らずに黒白が休んでいた場所で、日が昇るまでの時間を過ごすのだった。

「そろそろ行かないと……」

 結月は静かにそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、調理室まで向かうのだった、一階まで降りると、昇降口で海藤達の話し声が聞こえて来た。

「黒白君は一体、どこにいるのでしょう? 外に行っていないとしたら、校内にいるはずですが……」

 辰巳は心配そうにしており。

「たしかにそうだな、居そうな場所をくまなく探して見たが、どこにも姿が無いし、いったい……」

 海藤もまた不安そうにしていた。

「いっそのこと、外に探しに行きますか?」

 渡井が提案すると。

「黒さんの居る所なら、知ってますよ」

 結月は三人に黒白の居場所を知っている事を告げた。

「本当か?一体どこに?」

 海藤は結月の言葉に食い付いた。

「教える代わりに、条件が幾つかあります」

 結月の返答に三人は驚いていたが、三人は条件を聞いてみるのだった。

『一つ目はヤツらと戦う訓練をしたら、自分も外に連れて行き、実戦経験を積ませる事、二つ目は一日に数回、ヤツらと戦う訓練と対人訓練も付けてもらう事、そして最後に此処に実物は無いが、銃の扱いと銃を扱った人の精神状態のケアの仕方を教えてもらう事』

 以上とのことだ。

「二つは理解した、俺が教えるのが困難な場合は、辰巳さんか渡井さんに付けてもらうと良い、しかし最後の『銃の扱いと銃を扱った人の精神状態のケアの仕方』は一体」

 海藤は、結月の口から銃の事を聞くことになるとは予想していなかった、しかし結月だけは知っている、現状黒白だけが銃を所持している事を、だから初めて使用した時の反動が気になっていた、そしていつかは自分達も使う事になるかも知れないという事も危惧きぐしていた

「もしかしたらいつか、銃を見付けるかもしれない、その時になって使い方が分かりませんだと、困ると思うんです。それに銃を使った後に何かしら、自分達に反動があるかもしれない、そうなった時の対処の対処方を分かっていれば、誰かの力に成れると思うんです。だから……」

 結月は黒白が銃を所持している事は一切口に出さず、今後の事を見据えて銃の事に対する説明をしていた。

 海藤は結月の理由に理解を示していた、確かにいつかは銃を手に入れる可能性は十分にあり得る、黒白がおこなった様に、警官から拝借したり、何らかの理由っで銃を所持している人間から奪ったりなど、そして銃を撃ったことに寄る、様々なストレス反応と言った具合に。

「分かった、銃の事で俺に教えられるのは、そこまで多くは無いが、出来るだけ教える事を約束しよう」

 海藤は少し悩んだ後に結月が出した条件を呑んだ。

「ありがとうございます」

 結月は海藤にお礼を言い、頭を下げてから。

「黒さんは、校内にいません」

 直球で黒白が校内に居ないと告げた。

「黒さんは自分の目的を果たす為に、早朝ここを出て行きました」

 結月は続けて言うと。

「早朝?昇降口に鍵を掛けていたし、警備もしていたのに、一体どうやって……」

 渡来は結月の発言に驚きを隠せずにいたが、海藤と辰巳の二人は。

「そうか、行ってしまったか」

「そうなのですね、せめて一言欲しかったですが……」

 あまり、驚いている様子は無かった、その落ち着きぶりを見ていた、渡井は。

「二人とも、何を落ち着いているんですか、黒白君が出て行ってしまったんですよ、今すぐにでも、追いかけないと」

 黒白の安否を心配し、慌てていたが。

「黒さんはきっと無事に帰ってきます」

 結月は言い切った、根拠は無いのかも知れない、何故なら黒白と結月は知り合ってわずかだから、しかし二人はネットの海で出会い、少なからず互いの事を理解している、黒白は自身の言った事を守る人間であることを結月は知っている、結月の名前はネットでは別の名前の為、黒白が気が付いている可能性は現状だと無いに等しいが……結月は黒白のもう一つの名前を知っており、その名前と黒白が同一人物であることにも気が付いている、だからこそ彼の事を信頼して待つことが出来るのだ。

「外は君が思っている以上に危険で、命がいくつあっても足りないくらいなんだ!それなのに、一体何の根拠を持ってそんなことを……」

 結月は渡井の言葉をさえぎり。

「黒さんは、前に私がある活動をしている時から知っているけど……あの人は行動で示してくれるから、私が元気が無かった時も、活動を休んでいた時も、他の皆もそうだったけど、変わらず接してくれた、厳しい言葉を言ってしまって時もあったけど、それでも応援してくれた、それに…」

 結月は黒白が必ず帰って来てくれると、信じる根拠を自分なりに言葉にしてみたが、途中で言葉に詰まってしまい、呼吸がしづらくなっていた。

「結月どうしたの!大丈夫?」

 偶然、その場を通りかかった瑠奈が急ぎ駆け寄り。

「落ち着いて、ゆっくり深呼吸をして」

 声を掛け、背中をさすりながら、静かに呼吸のリズムを取っていた

 

 何度か深呼吸をしたおかげで落ち着きを取り戻して行った、結月を見ながら。

「一体なんの話をしていたのか、分からないですが、あまり彼女を追い込まないで下さい」

 瑠奈は少し厳しめに言うと、結月が立ち上がるのを補佐し、ゆっくりと近くにあった椅子に座らせるのだった、その後、海藤達から何の話をしていたのか聞くと、瑠奈も驚きを隠せずにいた。

「黒さんが出て行った……でも、あの人ならふらっと帰って来そうな感じはするかな、ここは私たちが活動していた場所じゃなくて現実だけど、なんとなくそんな気がする、配信していた時も、唐突に表れて、みんなで盛り上がるって感じだったし、根拠は無いけど、あの人なら大丈夫、そんな気がする」

 瑠奈もまた、これと言った根拠は無かったが、彼女も黒白の事を信頼していた、海藤達は黒白と結月達の関係は分からないが、それでも黒白も結月達も互いに信頼関係が出来ている事に疑うことは無かった。

「先ほどはすまない事をした」

 渡井は攻める様に言ってしまったことを謝罪していた、その様子を見ていた結月は静かに頷き。

「大丈夫です……」

 とだけ伝えるのだった。

「失礼します」

 瑠奈は少し怒った様子で言い切った後に、結月に寄り添い、その場を去るのだった。

 昇降口に取り残された、海藤と辰巳の両名は。

「今回は彼女に申し訳ない事をしてしまったな」

「ええ、突然の事だったので、驚きを隠せなかったですが、どちらかが止めに入るべきでしたね」

 申し訳なさそうにしており、その様子を見ていた渡来もまた。

「俺こそ、あそこまで言う必要は無かったのにも関わらず……本当に申し訳ない事をした」

 結月に対して言い過ぎた事を深く反省していた。

「どこに行ったのか分からないが、きっと帰ってくるさ……俺も根拠は無いが、そんな気がする」

 海藤も、結月たちと同様に黒白の期間を信じているのと同時に、再び会うのを心待ちにしている部分すらあった。

「私は黒白君が帰って来るまでに、どうするか決めておかないといけませんね」

 辰巳はそう呟いていたが、すでに彼の答えは出ている様なものだった、しかしまだ揺れている部分もあり、はっきりとした答えを出す事は出来ずにいた。

 三人なりの考えをまとめている頃、結月はと言うと。

「本当に大丈夫?」

 瑠奈は、いつもより少し沈んでいる結月を心配して、声を掛け続けるが、元気になる素振りは一切見せなかった、それでもこのままではいけないと思った結月は、自身の頬を軽く叩き

「このままじゃいけない、頑張らないと」

 何とか奮い立たせ、感情を心の奥に隠すのだった、その様子を見ていた瑠奈は

「本当に大丈夫?」

 心配そうに声を掛けたが、結月はこれ以上心配を掛けまいと

「心配しなくても大丈夫だよ、ありがとう瑠奈ちゃん」

 気丈に振舞っていた、結月が無理している事に気が付いていた瑠奈ではあったが、これ以上言ってしまうと逆効果だと思い。

「分かった、だけどくれぐれも無理だけはしないようにね」

 優しく釘を刺してから、二人はまだ誰も居ない調理室に入り準備を始めて行き、二人が準備を始めて数分後には凛香も姿を表すのだった。

「凛ちゃんおはよう」

 何事も無かったかのように結月が挨拶をすると。

「結月に瑠奈もおはよう」

 人目に着かない場所で作業をしていた、瑠奈は凛香が入って来た事に気が付かなったが、凛香が挨拶をしたことにより、入って来た事に気が付き。

「おはよう、凛ちゃん」

 挨拶を返した、その後は他の人達が来る前に黒白の事を話すのだった。

「黒さんが、そっか……でも帰って来るんだよね」

 凛香は少しだけ不安そうに尋ねると。

「黒さんならきっと大丈夫だよ」

 僅かな不安もあったが、それを誰にも感じ取らせない様にしつつ、答えるのだった。

「二人とも、朝の炊き出しが終わったら少しだけ時間ある?」

 結月は続けて訪ねて見ると。

「時間なら大丈夫だよ」

 瑠奈は即答し。

「私も大丈夫だよ、それにさっきここに来る前に海藤さん達にも会ったけど、昼頃に帰って来ると思うから、訓練はその後にしようって言ってたよ」

 凛香が調理室に来る直前まで、海藤達は話をしていたらしく、そこで凛香が早速今日から訓練をしたいと言うと、帰って来れるであろう時間を伝えてから、物資調達に出かけて行ったのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る