第14話 「もう一つの避難所」

 黒白は避難所である中学校から出て直ぐに走り出した、警備の人間が来る前に姿を消すためだ、いつもは物資を取りに行くため、付き辺りを左に曲がるのだが、今回の目的は物資調達では無く、自宅にある物資を調達する事と、凛香の親戚及び自身の祖父母の安否確もある、凛香の親戚は幸いな事に、少し遠回りではあるが、黒白の自宅までの通り道にもなっていて、状況次第ではあるが、行きか帰りどちらかで寄る事は出来そうだ。


 しばらくの間、周りを警戒しながら道を進んで行くと、国道に出た。

「歩道橋の上には居ないが、向こう側には何体か見えるな……」

 反対側の歩道橋下に二体、そして少し進んだところに小学校に続く道があるのだが、そこから数体のヤツらの影が見え隠れしていた。

「何体いるか分からないのは少し嫌だな……」

 黒白は少し、渋い表情をしながら呟いていたが、左右を見て見ると、正面よりヤツらの数が圧倒的に多く、一人で対処するには困難を極めた、そして

「だとしたら、行くしかないか」

 覚悟を決め走り出すと、左側からクラクションを鳴らす音が聞こえて来た…しかし最初は小さい音で、ヤツらが車内にいる事に寄って鳴っているのだと思われたのだが、その音は少しずつ、黒白の方に近づいていた

「またかよ!」

 音のする方を見て見ると、一台の車がもうスピードで突き進んで来ており、道路を半分ほど渡っていた黒白目掛けて走って来た

 ぶつかりそうになった瞬間に、黒白は何とか避ける事に成功したのだが、暴走していた車は、そのまま進み続け、止まっていた一台のトラックにぶつかっていた、トラックの周辺には数え切れないほどのヤツらも居たが、ぶつかった衝撃の音に引き寄せられ、歩道橋下にいたヤツらや、他にも周辺に居たヤツらも集まって来て、その光景を見ていた黒白はチャンスだと思い、そのまま走りだした

「ガソリンが漏れて無ければ良いけど……」

 黒白は少しだけ心配していたが、幸いにもガソリンが漏れている事は無かった、しかし衝撃音は中学校にも聞こえていて、そこにいる警備をしている人達や海藤はこの状況で、音のする方に偵察に行くのは自殺行為だと考え、確認に来る事はしないのだった。

「とりあえず、今のうちに先を急ぐか…」

 衝撃音により、ヤツらが引き寄せられている内に、黒白は移動する事を考え、一度止めた足を動かし、再び走り出した

 走り出して数分が立った所で、小学校前に着き、少しだけ校内を見ていると、小学校は完全に静まり返り、異質な不気味さを放っていた。

 そんな中、校内から何かが割れる音が聞こえてきた

「何の音だ?」

 音の出どころが気になった黒白は恐る恐る、校内に入って行った、体育館の壁にそっと耳を当てると、微かに人の話し声も聞こえて来た。

「ここにも生存者がいるのか?」

 小学校に生存者がいたとしても、何もおかしくは無いが、今の惨状を考えて見ると、どうやって生き残って来れたのか不思議だった、黒白が物資調達をしていた時も、ほかの生存者と会う事はなかったが、避難所にも子供の姿はあった、あそこに居たのは大半が小学生以下の子供だ……周囲を見渡して気が付いた事もあった

「静かすぎるし、見張りも立てていないのは、どうゆう事だ……」

 不思議に思っていると、体育館の中から足音が近づいてくるのが分かった、急いで車の下に身を隠すと、ドアを開けて出て来たのは一人の男だった、その男は辺りを見渡すとすぐに中に戻って行ったが、数分後再び外に出て来た、時間帯的にまだ、早朝なのもあってか、大きな欠伸あくびをしていた

「親御さんたちと連絡もつかないし、一体どうしたら良いんだろうか、このままだと食事を確保するのも、大変だよ」

 その男は誰も居ないと思い愚痴をこぼした、その言葉を聞いていた黒白は、この学校には生存者がいる事を確信していた、それでも警戒を溶けずに居たが、その男の目を盗み、車の下から出て来ると

「あの…すいません」

 思い切って声を掛けてみるのだった

 少しだけトーンを落として声を掛けてみたものの、早朝から誰かに会うと思っていなかったのだろう、男は背筋を震わせ、ゆっくりと黒白の居る方を振り向き

「びっくりしたぁ…君は?ここに避難している人じゃなさそうだけど」

 とても驚いたのだろう、額に少しだけ汗が滲んでいた。

「ええ、中学校に避難していたのですが、少しでも何か、使えそうな物が無いか探しに来たんですよ、そこで小学校にも寄ってみた感じですね」

 黒白の話を聞いた、その男は。

「中学校に避難しているって、話は本当かい?」

 わずかではあるが、希望に満ちた表情で聞いて来た、黒白もその勢いに思わず圧倒され。

「具体的な数は分かりませんが、相当数避難していると思いますよ。空き教室も大半使っていますし」

 教えても大丈夫そうな情報だけを提示ていじするのだった

「それなら、ここにいる生徒の親御さんも、そこにいる可能性があるという事だ、どうやっても誰とも連絡が付かなくて、どうしようかと思っていたところだよ」

 移動しようとしている事を察した黒白は。

「今すぐにでも移動しようと考えているのであれば、止めた方が良い……仮に行くのであれば、少人数で少しずつじゃないと、死ぬ可能性が出て来るし、ヤツらを倒すことが出来ないのであれば」

 途中まで言うと、男は言葉を遮り

「もちろん、分かっているさ、全員では無いけれど、何人かは既に戦った事がある、俺もね、一度に全員で移動するのは困難だと思うから、数回に分けて移動しないといけない事もね」

 黒白が言おうとしていた事を、全て把握していた……黒白に対して、申し訳ない気持ちもあり。

「君もここまで、苦労して来たんだろ、少しではあるけど気持ちは分かるし、心配してくれる気持ちもありがたい、本当にありがとう」

 声を掛けると、黒白は

「確かに苦労はそれ相応にしては来ました、それでも行動すると決めたのは自分なので……」

 黒白はどこか見透かされた様な不快感を持ちながらも、返答すると一人の小学生の男の子が外に出て来た。

「三浦先生?その人は誰?」

「この人はな」

 男の名前は三浦と言う事が分かった、黒白は

「俺はね、外から来たんだ、ここに人が居るとは思わなかったから、驚いたよ」

 黒白はその小学生の目に合わせ、しゃがんでそう答え、その小学生に教えた。

「学校のお外!三浦先生が出ちゃいけないって言ってるの!でも……」

「今、外はすごく危ないんだ、だから先生の言う事は守るんだよ、俺は行かなきゃいけない所があるから、もう行くけど、三浦先生の言う事をちゃんと聞いて良い子でいるんだよ」

 黒白は一度悩んだが、その子の頭を撫で、立ち上がり。

「もう行くのかい?…少し」

 三浦は少しだけ、残念そうにしていたが、その言葉を遮り。

「ええ、今も言った通り、行かなきゃ無い所があるので……いざと言う時は、何回かに分けて、中学校に避難することも検討しても、良いかもしれません、その時は校門を警備している人に俺の名前を教えて下さい、何かしら聞かれると思いますが、避難することは可能だと思います。俺は不破黒白と言います」

 重要な事だけ伝え、足早に小学校から姿を消すのだった。

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