第7話 「物資調達・前編」

「あまり、眠れないな……」

 黒白は3時間ほど眠った後に、目が覚めた。

 階段を降りると、皆まだ休んでいるのか校内は静まりかえっており、歩くたびに足音が響いていた、黒白はスマホを手に取り明かりを付け、職員室に入っていった。

 中には誰も居らず、先ほど戦った痕跡こんせきわずかに残っていた。

「血は何とか拭き取ったのか……ロープも、無い」

 校長室も覗き、大きな以上が無い事を確認すると、何か現状を打破する方法や避難場所の情報が無いかと探していたが、これと言って手掛かりになりそうなものは無く、途方に暮れていた。

 しかし図書室に医療関係の本があることを思い出した黒白は、図書室に誰もいない事を確認すると、図書室で月明かりを頼りに本を探し始めた、見つけたのは、医療漫画や数年前の中学生でもわかる医学書だった、そこには必要最低限の知識を学べるだけの情報があり、黒白はスマホの明かりを頼りに緊急時の応急処置の仕方にヤツらの急所になりそうな部分、そして万が一にでも対人戦闘になった時に有効打になり良そうな部分と様々なページを見て行き、少しでも役に立ちそうな知識を詰めていたが、疲れが溜まっていたこともあり、いつの間にか眠ってしまっていた。

 一方、体育館では大勢の人が寝ている事もあり、いびきや寝言、避難してくるまでの事を思い出し、突然起きる者もいた。

 そんなこともあり、あまり眠れずにいた結月は図書室側のトイレを使い、戻ろうとすると図書室から何か聞こえて来た事に気が付き、扉を少し開け中を確認すると、黒白が一人眠っていることに気が付いた。

 その様子を見ていた彼女は小走りで体育館に戻ると、毛布を一枚持ち出し図書室に向かった、音を立てない様に黒白に近づきそっと毛布を掛けると、黒白は少し動いたが目を覚ました様子は無く、そのまま眠っていた。

 そして結月は黒白が読んでいた医学書に興味を持ち、自身も読み始めたが、ページをめくる音で起きるのではないかと思い少し離れた場所で黒白の様子を伺いつつ、本を読み始めた、少し時間が立ち外が明るくなってくると、黒白が目を覚ましたが寝惚ねぼけているらしく、当たりを見渡した後に自身に掛かっている毛布にも気が付いた。

「こんなのあったか?」

 黒白のその声に気が付いた結月は。

「黒さんがここで眠っていたから、掛けといたんだけど迷惑だったかな?」

 少し不安そうにしていると、黒白は。

「大丈夫、助かったよありがとう」

 優しく言い。

「少しはゆっくり休めた?」

 結月は黒白が連日外で物資を確保している事もあり、体調に異変が無いか心配していた。

「ああ、久しぶりにゆっくり寝むれた気がする」

「そっか良かった、炊き出しの手伝いに行くから、またね」

 結月は嬉しそうに言い、本を棚に戻してから足早に廊下に戻ったが、一度図書室に顔を出し。

「その毛布、皆に配っているやつだから、黒さんが持って行っても大丈夫だよ」

 と言い、黒白にバレない様に鼻歌を歌いながら嬉しそうに階段を下りて行くと、先に降りていた瑠奈と凛香の二人に会った。

「結月、おはよう」

「おはよう、結月」

「凛香ちゃん、瑠奈ちゃん!おはよう!」

 二人に挨拶された結月は元気に返すと、二人は結月が嬉しそうしている事に気が付き。

「結月、あんた嬉しそうだけど、何かあった?」

 凛香はさぐりを入れてみたが。

「別にぃ何にもないよ」

 結月は誤魔化したが。

「ほんとにぃ?朝いないと思ったら、嬉しそうにしているけど、絶対何かあったでしょう」

 凛香は結月の返答に納得がいかずに再度、問いただすが。

「本当に何でもないってば」

 それでも嬉しそうに否定していた。

「あっ!さては、不破さんに会ったとかだったりして」

 瑠奈も探りを入れてみると、結月は一瞬。

「えっ!」

 声を漏らすと、凛香と瑠奈の二人は。

「誰にも言わないから、どこにいたの?」

「そうそう、誰にも言わないから」

 階段を下りた先にある、人目につかない場所に結月を連れて行った。

「二人ともこわいよぉ」

 二人の勢いに弱音を言っていた結月だったが、二人の無言の圧力に負け、口を開いた。

「目が覚めてから、職員室の方にあるお手洗いに行った時に、図書室で物音が聞こえたから少し覗いて見たの、そしたら黒さんが寝ていたから……毛布を取りに行って掛けて上げたの」

 二人に話したが、二人はその続きがある事にも気が付き。

「それだけじゃないでしょ」

「そうそう、他には」

 凛香と瑠奈は更に言うようにうながし、結月は二人の圧力に負け、溜め息を吐き。

「そこからは、黒さんが起きるまで、少し離れたところで本を読んでいて、起きてから少し話しただけ……本当にそれだけ、この話はおしまい!手伝いに行くよ」

 結月は本を読みつつも、黒白の寝顔を見ていた事も黒白と同じ本を読んでいた事も話さずに、会話を強制的に終わらせ小走りで調理室に向かった、そんな結月の顔は黒白の寝顔を思い出していた事もあり、耳が少し赤くなっていた、そんな事とは知らない二人は怒っていると勘違いし。

「ごめんて、結月」

「結月ごめん、無理やり聞いたりして」

 結月を追いかけながら、何度も謝っていた、結月はそんな二人に対して。

「大丈夫、怒ってないから、」

 伝えると、二人は安堵した様子で、結月の元に駆け寄り、再び謝り結月から許しを得て、その後炊き出しの手伝いをし始めた。


 その頃、黒白はと言うと、結月から渡された毛布を自分の寝床ねどこに持って行った、黒白がいつも休んでいる屋上スペースは、誰も立ち入ろうとしないスペースであると同時に、まだ三階まで、避難者が来ていない事もありとても静かだった、しかし二階の教室も避難者でいっぱいになりつつあり、広い場所でいているのは職員室と図書室だった、校長室は片付けこそしたものの、どう使うかは決められずにいた、そんな中黒白は自身の荷物を誰にも見つけられない様に隠し、一階まで降りて行くと理科室から、海藤たちが出て来た。

「おう!坊主今日はまだ出発していなかったな」

「今日は偶々たまたま……そんな事より俺は行くけど、あんた達は?」

 海藤が軽く挨拶した後に黒白が不服そうに返答すると、海藤とその後ろにいた人たちは少し驚いていたが、黒白が物資調達に出発するという事を受け、理科室から海藤以外にも6人出て来た、その中には辰巳や海斗、そして墓を掘っていた四谷よつや国枝くにえだ、堀内、最後に渡井の姿が見えた。

「今日はこのメンバーと俺を含んで計7人なんだが」

「俺も含めて8人はさすがに多いと思う、丁度良く音が全くで出ない車があるなら、ありだけどそんな物は無いだろうし、仮にあったとしてもこの人数は入らないだろうし、物資を詰めるスペースも無い、それなら少数で向かった方が良い、多くても4~5人くらいかな」

 黒白は現状、物資調達に向かう最適な人数を伝えた。

「ちなみになんだがそんな、少人数で向かった場合の配置とかって、考えがあるのか?」

 海藤はふと気になり、聞いてみると黒白は。

「三人で中に入って物資を調達、一人は入口付近で周りを警戒、最後の一人も同じく周りを警戒、でも車で行く場合は一人は運転席でそのまま警戒しつつ待機、三人で入れば周囲を警戒しながら進んで行けるし、外で二人が警戒してくれるのであれば、余程の事が無い限り大丈夫だと思う、それに一人が運転席で待機していてくれるのであれば、最悪の場合助けを呼んで来てもらえる、そうでなくても急いで移動出来る事によって次の行動にも素早く動く事が出来るし、物資も前より多く持って来る事も可能になる、ただ注意点としては音が大きいという事、原理は分からないけど、ヤツらは音や血の匂いに敏感びんかんだから……それに昨日まで行っていたドラッグストアのそばにある、マンションから何か落ちて来たんだよ、音がデカくてヤツらが集まって来そうだったから、急いで逃げて来たけど」

 細かく教え、そして昨日合った事も教えた。

「そんなに大きな音だったのかい?」

 国枝は気になり、質問すると。

「ええ、どこから落ちて来たのかは分かりませんが、建物の形状も音が反響しやすい作りだった事もあり、周囲に音が響いていました。そして音に釣られてヤツらが数体、姿を表していて、幸い見つかる事は無かったので周囲にいたヤツらだけ倒して来ましたが、恐らくはまだ何体かはあそこにいると思います」

 黒白はあの時の状態と、その後におこなった対処も一緒に伝えると、海藤は感心かんしんしていた何故なら海藤は自衛官として仕事している事もあり、黒白の的確な情報とその時に行った対処も良く出来ていたからだ。

「坊主、これがもしも落ち着いたら自衛隊に来いよ、俺が面倒見てやるからさ」

 黒白はそれを聞いて嫌な顔をしつつ。

「絶対に嫌だね、誰が自衛隊に入るもんか」

 と言い。

「それに坊主じゃない、俺の名前は黒白だ、不破黒白ふわこはく

 それを聞いた海藤は嬉しそうに。

「そうか黒白か良い名前じゃないか、俺は海藤渡かいどうわたるだ改めてよろしくな」

 自身の名前を言うと、その流れに乗って海斗と辰巳も自身の名前を言おうとしていたが。

「二人のは大丈夫だろう、何度も呼んでいるし、他の人の名前だって何度も呼んでいたり聞いているから覚えているし」

 黒白がさえぎると。

「ひどい!」

 二人は口を合わせてそう言っており、その会話を聞いていた人たちは笑っていた。

「それはそうと、調達に行く人数だったな……俺と黒白以外だと誰が行く」

 海藤は他のメンバーに聞いている姿を見ていた黒白は時間が掛かりそうだと判断し。

「時間が掛かるようなら……」

 言いかけると、海藤は勢いよく。

「待ってくれ、すぐに決めるから」

 制止してきたが、黒白は深く息を吐き

「外で待っているから、早めに決めてくれるのであれば問題ない」

 そう言い、外に向かって行った、その様子を見て海藤たちは驚いていたが、すぐに残りの三人を決めるために話始めた。

 その頃、黒白はと言うとバッグの整理をしており、どのタイミングで入っていたのかは定かでは無いが、物資を取りに行った際に偶然バッグに入ったのだろう、微かにミントの香りがするリップクリームを見付けた、黒白はそれを先ほどのお礼にと調理室に向かっていた。

 黒白が調理室の扉に近づくと、調理室の扉が開き誰かが出て来た。

「あれ?君は確か黒白君だっけ?」

 その人は看護師の篠原だった。

「おはようございます、篠原さん」

 黒白がそう言うと彼女は黒白が珍しく、調理室に来た事を気にしており。

「誰かに用事?」

 質問すると、調理室から結月が出て来た。

「あれ、黒さんどうしたの?」

 結月も不思議そうに質問すると、黒白はポケットからリップクリームを取り出し、結月に差し出した。

「これ、やるよ、今朝のお礼」

 結月はそう聞くと、静かに頷き、リップクリームを受け取った。

「ありがとう」

 少し照れながらそう呟くと、黒白は。

「ああ」

 小声で呟き、そのまま校門に移動した、海藤たちは黒白のやり取りに気が付く事は無く、何故か結月が棒立ちになっているのを気にしつつ、決まったメンバーで黒白の元に急いで向かった、メンバーは海藤、渡井、辰巳そして国枝の四人だ、そんな四人の姿を篠原は眺めつつ、放心状態の結月を見ていた。

「えっと、二人の間で何があったか分からないけど、大丈夫?」

 篠原に声を掛けられると結月は我に戻り。

「はい、大丈夫です。まさか黒さんがお礼を言いに来るなんて思っていなかったので、驚いて」

 そう言いつつ、黒白はから受け取ったリップクリームを大事そうにポケットにしまい振り向くと、二人のやり取りを見ていた全員が嬉しそうに笑いながら準備をしていた、そして瑠奈や凛香は先ほど結月が話していた事を思い出し。

 自分が行けなかった事を少し悔いつつも、結月が嬉しそうにしている所を見て、安堵していた、何故なら結月も今回のパンデミックにより、一人放り出された子供を助ける為とは言え、黒白の助けが無ければ命を落とす寸前だったのだ。

 それゆえ無理して笑顔を作り、自分は大丈夫だと言い聞かせながら、何とか毎日を過ごし、サポートを懸命に頑張っていたからだ。

 そして瑠奈と凛香は試しに家族に電話をしてみた所、一度家族と連絡が付き、互いの安否を確認する事が出来たが、結月は何度電話しても、家族と連絡が付く事が無く、不安にられていた、そんな中、黒白とのやり取りで笑顔になっている彼女を見た二人は安心しているのだった。

 そして結月が戻ってくると二人は。

「良かったね結月、不破さんと話せてさ」

「そうそう、でもいつから黒さんて呼ぶようになったの?」

 先程のやり取りを嬉しそうに言いつつ、いつから名前呼びになったのか気にしていたが、結月は。

「うん…ちょっと前からだけど、秘密」

 そう返し、黒白がいる校門を見ていた。


 海藤たちは黒白が待つ校門に向かうと。

「すまない、待たせた、今回はこの四人で行く事にした」

 少し息を切らしながら言うと、黒白は四人が何も武器になりそうな物を持っていないことに気が付き。

「まさかとは思うけど、そのまま丸腰で向かうつもりじゃないよね」

 質問してみると。

「校内に武器として使えそうな物がどこにも無くて、どうしようかと思っていたんだ、俺もこの包丁しかない」

 海藤はそう言い、腰に差していた、牛刀を取り出したが、見るからに切れ味が悪そうだった、流石にヤツらを刺した包丁を調理室にある、砥石で研ぐわけにもいかないからだ、経口摂取けいこうせっしゅでも感染する可能性がある以上、迂闊うかつな事は出来ない。

「そしたら、何件か家に侵入して、使えそうな物を取って行こう、それこそ武器になりそうな物も」

 海藤がそう言うと、国枝や渡井は驚いていたが、黒白と辰巳の二人は驚く素振りをしていなかった、むしろ仕方ないと思っていた。

「こんな事になっているのですから、そうせざるを得ないでしょう、背に腹は代えられません」

「辰巳さんの言う通りだと思う、店の中に物が無くなって来たら、今度は家の中かなって思っていたし、それが早いか遅いかの違いなだけだから」

 辰巳と黒白はそう言い、物資調達に向けて一足先に歩き出した、そんな二人と渡井たちを見ていた海藤は、立ち止まっている渡井と国枝の肩を叩き。

「ほら、行くぞ」

 海藤達三人も歩きだした、少し歩くと、そこは住宅街なのもあり民家からの物資調達は容易よういだったが、生存者の多くは中学校にいると思われるが、付近にはヤツらが潜んでいる可能性は大いにあり、危険性は高く、状況はどうあれ油断は出来ずにいた、しかし武器になるものや食料等も比較的ひかくてき簡単に手に入れる事が出来る、事実今向かっているドラッグストアの物資はほとんど無くなっている、バックヤードに行けばまだ残っているだろうが、見通しが悪い分危険性は跳ね上がる。

 もしもバックヤードも調べるのだとしたら、より入念に準備をし、万が一の可能性も考慮こうりょした方が良いだろう、避難民の中にはヤツらを見たのは少数だろうし手に掛けた者、そして目の前で噛まれた人を見た者や、ヤツらの群れに襲われた者はいないか、もしくは本当に少数だろう、ヤツらの群れに襲われたのは黒白が分かっているだけでも、黒白を合わせても、7人だ……あの時の恐怖で黒白と共に避難して来た明子と将太の二人はうなされている夜があるとの事だ。

 黒白が今後の物資調達の事を考えて、ふと顔を上げると一軒の工具店が目に着いた。

「辰巳さん、あそこで武器になりそうな物ってありますかね?」

 工具店を指刺すと。

「工具店ですか、あそこであればいくつかあると思いますよ、金槌等かなづちなどの鈍器や刃物もいくつかあるでしょう」

 冷静に返答すると、二人のやり取りを背後から見ていた海藤は。

「どうした?何かあったのか?」

 不思議そうに二人に聞くと。

「あそこの工具店に、全員で入って物色しようと思っていて、俺が入り口を見張りながら、周りに使えそうな物がないか探すから、海藤さん達は二人一組になって安全を確保して欲しいんだけど……」

 黒白は再び工具店を指差し、侵入してからの段取りを伝えると海藤は。

「分かった、そうしよう」

 了承して直ぐに後ろの二人にも伝えに行くと、三人は黒白の元に音を立てない様に走って来た、工具店は車が一台程通れる路地を挟んで直ぐの場所にあり、黒白と辰巳は路地にヤツらがいない事を確認した後に海藤、国枝、渡井の三人を先に店内に入らせ、再度安全を確認し辰巳が店内に入り、黒白は最後に路地と自分達が歩いて来た道のり、そして調達した後に進む道にヤツらの姿がない事を確認し黒白は周りを警戒しながら、店内に入った。

 店内は黒白達以外にも誰かが入ったのか定かではないが荒れており、物が散乱していたが、今ところ血痕のようなモノはどこにも無かった、

「海藤さんそしたら」

 黒白がそう言うと、海藤は先ほど黒白に言われた通り二人一組で調べ始めた、建物は三階建てだが、安全を考慮こうりょして、二階は辰巳と渡井の二人で、一階の入り口以外の場所は海藤と国枝の二人で、三階は調べ終わったチームが調べる事にし、入り口は黒白が調べていた。

 荒れているとはいえ幸いにも、棚が倒れたりしている程度で他に誰かが侵入したような跡は無く、武器になりそうな物も床に転がっていたり、商品棚に陳列ちんれつされている物もあったが、黒白は店が施錠されていなかった事を気にしていた、避難所に住人が居たとするならば施錠せずに居なくなることは考えられない、そして誰も居ないはずの店内が荒れているのにも関わらず、武器になりそうな物が持ち出された痕跡こんせきが無いと言う点だ

「まさかと思うが、負傷してここに帰ってきた?」

 黒白が不審に思っている最中。


 二階の辰巳と渡井の二人はと言うと。

「辰巳さんはあの子と知り合って長いんですか?親しそうに話していますけど」

「そんなことは無いですよ、私も皆さん同様に彼に出会ったのは数日前です」

 辰巳がそう返答すると渡井は驚いていた。

「私は黒白君に助けてもらったんですよ、彼が来てくれなければ私も今頃はここに居ないでしょうし、もしかしたらヤツらの仲間になっていたかもしれません。ですので、彼には本当に感謝しているんです……それに不甲斐なくも思っています。先日も助けてもらった時も彼にばかり重荷おもにを背負わせてしまっているのですから、本来ならばこのような事や物資調達は我々大人が率先そっせんしてやるべきなのに、まだ学生の子供にやらせてしまっているのですから」

 辰巳は悔しそうに話し、二階にある部屋を開けて行った、二階にある部屋は全部で四つの部屋の中を開けて確認してみた所、ヤツらや人がいる痕跡こんせきは無かった

「たしかにそうですね、海藤さんやあんたの言う通りだ、あの子は俺達大人が真っ先にやらなければならない事を率先してやっている、そのおかげで俺たちは生きていられる、感謝しかない……よし、とりあえずこの階を調べたら一度合流して、その後に三階も調べましょう」

 渡井もまた、覚悟を決めた様子で部屋の中に使えそうな物が無いか探っていた、辰巳と渡井は互いが見える位置で、探っていると辰巳が物色している部屋で、二つのマルチツールを見つけた、それ以外にも使えそうな物が無いか探していたが、使えそうな物は特に見つからずに時間が過ぎて行った。


 一方、海藤と国枝の方はと言うと、二人が調べている場所はどうやら店舗のバックヤードに当たるらしく給湯室やトイレ、事務所にヤツらの姿がない事を二人で十分に確認してから倉庫に向かった、しかしそこは内側から鍵が掛かっているのか、ビクともしなく予備の鍵がないかと思い、事務所の中を確認してみるも、他の鍵はあるのだが、倉庫の鍵だけ、どこにも無かった、戻る前に二人は事務所の中を見てみるとバールを見つけた

「海藤さん、これがあれば倉庫を開ける事が出来るんじゃないですか?」

 国枝がそう言うといきなり『ドン‼』と大きな音が響き渡り、海藤が急いで通路を見てみたが誰かがいる訳ではなものの倉庫の扉が振動している様子が見て取れた

「今のって……」

 国枝は怯えた様子で、海藤の方を見ていたが海藤もまた

「分からない……けれど、感染したヤツが居るのは間違いないと思う」

 少し怯えた様子ではあったが

「大丈夫、大丈夫」

 海藤は深呼吸をしながら自分の事をなだめていた。

「国枝さん、一度戻りましょう」

 海藤がそう声を掛けると、国枝は静かに頷き二人は、周囲を警戒しつつ音を立てない様に、慎重に入り口へと戻って行った。


 その頃、黒白は床に散らばっている道具を机の上に無造作むぞうさに置いて行き、その中でも武器として使えそうな物だけをバッグの中に詰めて行った、しかしその中でも自分が使いやすい物や結月達も隠し持てそうなのは、別の場所に閉まった、大きめの刃物こそ無いがカッターやマルチツール、マイナスドライバーそして結束バンドを服の中に隠した、それ以外の使えそうな物は、大きめの袋をいくつか見つけた為、人目に着かない場所に隠し、いつでも持って行けるようにしておいた、そうすると黒白にも倉庫からの音が聞こえ、急いで海藤たちの方に向かおうと振り向くと、そこには黒白と合流するために引き返して来た、海藤と国枝の姿があった

「海藤さん今の音は?」

 黒白が海藤の様子を見ると、少し動揺どうようしているのか深呼吸を繰り返していた、数回深呼吸をすると落ち着いて来たらしく。

「すまない、自衛隊にいた頃の緊張感と違い過ぎて……倉庫を見つけたんだが、開かなくてね、鍵を探して見たものの、それらしいのが見つからずで、こいつを見つけたからこれで開けようか考えていたら、扉を叩く音が聞こえたんだ」

 黒白がふと視線を落とすと、国枝の手にはバールが握られており、その手は恐怖のあまりに震えていた

「大丈夫ですか?」

 黒白は、国枝を心配し声を掛けると。

「なんとかね、だけどいざ戦うかもしれないと思うと怖くてね、情けないよ」

 国枝は震える声で何とか持ち直そうとしていた、しかし現実はそう甘くも無く、再び扉を叩く音が聞こえてかと思うと次の瞬間、扉が外れたらしく扉が強く叩きつけられる音が店中に響いた、だが運よく店を締め切っていた事で音は外まで漏れる事は無かった、そう外には……


 店内は三階建てだ、その音は辰巳達の居る階にも聞こえ、まだ調べていない三階にもその音は響いていた、辰巳達が一階の異常に気が付き戻ろうとすると、三階からも扉を叩く音が聞こえ始め、その音も倉庫の時と同様に不規則になっており、辰巳と渡井の二人は三階にヤツらがいると考え、三階に続く階段下に身をひそめた

「渡井さん、これは黒白君に聞いた事なのですが、ヤツらは階段や坂を上ったり下ったりする事は出来ないそうなので、上から落ちてきたところを狙って倒せば安全に対処出来ると思います」

 辰巳は渡井にそう伝えると彼はそっと頷いた。二人が三階を見上げると『ガチャン』と音がした後に、何かが床に落ち、その何かは大きな音を立てながら二人が待つ二階まで落ちて来た、それに目をやると、落ちて来た物はドアノブで、その後に二階からは『キィィィ』と音を立てながらゆっくりと扉が開く音が聞こえ、再び上に目をやるとそこにいたのは一体のヤツらだった

「いましたね」

 辰巳はそう呟き、先ほど手に入れたマルチツールのナイフを取り出し、渡井もまた同じようにしていた、上にいるヤツは音がしない事もあってか移動する素振そぶりも無く、ただそこでうめいているだけだったが、このままでは埒が明かないと思った渡井は下にまで音が響かない様に配慮はいりょした上で、音を出し階段の上にいるヤツらの気を引いた

 最初は気が付いていない様子だったが、近くに落ちていたドアノブを手に取り床に叩きつけると、その音におびき寄せられ、ヤツらは歩き始めたが、すぐにバランスを崩し上から落ちて来た、そこから数秒動かなかったが、辰巳が動かない間に止めを刺すために馬乗りになり、何度もヤツらの頭部にナイフを刺して行った、その様子を見ていた渡井は辰巳の腕を掴み。

「そいつはもう大丈夫だ……ここまで血が出ていれば、もう動かないでしょう」

 声を掛けると、辰巳は冷静になった様子で。

「そう……ですね、止めて頂きありがとうございます」

 かすれる声でお礼を言っていた。

「それに上の階も調べてみましょう、ここまで音が鳴っているのに、まだ出てこないって事はきっと大丈夫です」

 渡井は不安に思いつつも気丈きじょうに振る舞い、辰巳を元気づけようとしていると、辰巳もそれを察したのか。

「ありがとうごございます。大丈夫ですよ、突然の事だったので動揺してしまって」

 そう声を掛けると、辰巳はいつもの彼へと戻った。

『黒白君はやはりすごいです。自分や私たちを守るために幾度いくども戦っているのですから、私も少しずつ慣れていかないと』

 辰巳はそう思いながらいると。

「辰巳さん?」

 渡井は彼が微動びどうだにしない事を気にして、傍に行くと。

「すみません、今回の事で黒白君はすごい子だなと思ってしまって」

 と言うと、渡井は頷き。

「自分も同じことを思っていました。それよりも今は自分たちの安全を確保しましょう、下からも音が聞こえてきましたが、現状だと三階も確認しておいた方が良いかと思います」

 三階の確認の重要性を主張し、辰巳もまたそれに同意し、二人は静かに階段を上がり、中を確認して見るとそこには頭部を損傷した三人の遺体がそこにはあった。

「これは一体……」

「わかりません。ですがここに居る三名と、さっきのヤツらは家族だったでは?」

「可能性はあるけれど、さっきのは手が血で汚れてはいなかった……だとすると下から聞こえて来た音って」

 渡井は先ほどのヤツらの手が血で汚れていなかった事を気にし、三階を調べる前に一階の音の正体を知りたいと辰巳に相談すると、辰巳も。

「そうですね、私も気になります」

 二人は急いで一階へと戻って行った。

 

二人がヤツらと戦う数分前、黒白は音のした方に急いで行くと、海藤と国枝が話していた倉庫から、一体のヤツらが姿を表した、そいつは三階にいたヤツらと少しだけ違い、ヤツらの手は血で真っ赤に染まっていた、黒白はそれに気が付いていたが、ヤツらがすぐに動き出した事もあり、黒白は倒そうと動き出したが、海藤と国枝の二人に止められ。

「あいつは俺たちに倒させてくれ」

「ああ、少しでも経験を積んで行きたいし、君にばかり負担を掛けていては大人として申し訳ないからね」

 二人はそう言い、ゆっくり自分たちの方に向かって来るヤツらの方へ足を進めて行った

 扉が倒れる音が大きかった事もあり、海藤たちの位置はまだ把握出来ていないらしく、ゆっくりと前に進むだけだったが、突然!二階から何かが落ちて行く音が聞こえてゆっくり進んでいたヤツらはその音に反応し、歩くスピードを速め、正面近くにいた海藤と接触せっしょくした、接触した衝撃で海藤は倒れ、その上におおいかぶさる形でヤツらが居た為、海藤は何度も噛まれそうなところを回避していたが、数回避けたところで首元を狙われ、ギリギリの所で止める事が出来た、しかし今にも噛まれてしまいそうな所で防ぐのに精一杯で攻撃する事も出来ずにいた

「こいつっ!死んでいるくせにっ!力がっ!」

 ヤツらは死体のはずだが、力が強く、大人の力でも力づくで離す事が容易ではない、しかし、背後に回っていた国枝がマルチツールのナイフで頭部を刺し動きを止める事に成功した

「倒せた……」

 国枝はほっと胸を撫で下ろすと。

「はっ!海藤さん無事ですか?」

 直ぐに海藤の上に覆いかぶさっているヤツらを引き離し、彼の無事を心配していた。

「ああ無事だ、助かったよありがとう」

 海藤も嚙まれるかどうかの瀬戸際せとぎわだったが自身が無事だった事にも安堵し黒白や国枝の安否も気にしていた。

「俺なら大丈夫ですよ、それに国枝さんも」

「そうか、それなら良かった」

 黒白が自分たちの安否を報告すると二階から辰巳達が降りてきて、自分達を探している事に気が付いた黒白は、入り口の方に移動した。

「黒白君無事だったのですね」

 辰巳は黒白の無事を確認すると安堵しその光景を見ていた海藤と国枝の二人は。

「こいつだけじゃなくて、俺たちの心配もしてくれよ」

「そうですよ」

 悪態をつくと辰巳は。

「もちろんあなた方の事も心配していましたよ」

 そう言い微笑むと二人も笑い。

「まぁそっちも何かあった様子ですし、全員が無事だった事を喜びましょう」

 渡井はそう言い、五人とも落ち着きを取り戻してから、各自何があったのかを話して言った。

 黒白は四人と別れた後に入り口を整理しながら、ここで見つけた物資を持ち出しやすいように、落ちていた別のバッグに詰め、人目に着かない様に隠し、今いるメンバーにだけ隠し場所を伝えた。

 一方海藤と国枝の二人は黒白がいる場所以外の部屋を調べていたが、特に目ぼしい物は無く、倉庫を調べようとしていた所に倉庫の異変に気が付き行動した結果が今の状態で、まだ倉庫を調べてはいないと言う事、倉庫はそれぞれの情報交換が済んでから五人で確認しようと決めた。

 そして辰巳と渡井の二人は二階を調べていたところ、店の物と思われるマルチツールを発見した後にしたから音が聞こえ心配になって戻ろうとした所で、三階にもヤツらが居た事に気が付いて対処してから合流した事を伝えた、そして。

「実は三階に母親と三人の子供と思われる遺体がありまして、私たちが倒したヤツらの手には血が着いておらず、気になって急いで降りて来た次第です。」

 辰巳が三階で見つけた事を話した。

「たしかに、さっきのヤツらは手が血塗ちまみれだったけれど、辰巳さん達が遭遇そうぐうしたのは、そうじゃなかった……単純に考えればさっきのが、上の三人を手に掛けたと考えるのが自然な気もするが……当たり所が悪かったか、すでに事切れていたから、手を下さなかったからって言う可能性か」

 黒白はいくつかの可能性を考えていたが。

「まぁどちらでも良いか、今何とか生きていれているわけだし」

 自分たちの現状を確認し、考える事を止めた。

「少し休憩したら、内側から鍵をかけ、バリケードを設置してから両方を見に行こう、上手くいけば、簡易的かんいてきな避難所か見張りに使えるかもしれないし」

 黒白が提案すると、海藤達はその案に同意して休息を取る事にした、幸いにも水道が使えたので水分を取り、給湯室に置いてあったカップ麵を食べ空腹をしのいだ、その後の黒白達はバリケードを全ての入り口に設置し、倉庫から調べ始めたのだった。

 そこには店頭に並んでいない、テントに鉈やハンティングナイフと他にも、表には並んでいなかったキャンプ用品と言ったアウトドアの際や、山で仕事する人たちがもちいるような物が数多く入っていた。

 この店は他にもアウトドア用品を多く扱っている事もあり、キャンプをする人達にも贔屓ひいきにされている、店主やその家族、それにこの店で働く店員たちも町の人たちから好かれていた。

「ここで働いていた人達には申し訳ないがこの際、使わせてもらおう」

「そうだな、今後の事を考えると少しでも生き残る手段は多い方が良い」

 黒白と海藤の二人はそう言い、ひとまず武器になる物を手に取り、鉈やそれ用のベルトに、他にもいくつかの使えそうな物を持って行くことにした。

 その後も他のアウトドア用品を手に取り、いつでも回収できるように、バッグに小分けに詰め、人目に着かない様に隠したのだった、そしてバリケードの様子を確認したのちに三階へと上がり、辰巳達の言っていた遺体を調べてみると、三人の遺体は確かに頭部を鋭い何かで刺されており、確実に亡くなっていたのだった。

「これならきっと、大丈夫」

 黒白はそう言っていたが、どこかやるせない思いもあり。

「可能ならこの人たちも後で埋葬まいそうしてあげたい……」

 呟くと海藤は黒白の肩を叩き。

「そうだな、後で時間が合う時に埋めてやろう」

 そう言い、黒白はその返答に対して静かに。

「ええ」

 とだけ答え、その後は三階を余すことなく調べて行った、三階にはキッチンもあり冷蔵庫の中にはいくつかの食材も入っていた、それ以外に包丁等の刃物も見つけはしたが、それらはバッグの中に詰めて置いたのだった、食材の方はドラッグストアに行ってから、持って行けるように一階の入り口付近に隠して置いた。

「とりあえず目ぼしい物は集まりましたね」

 黒白達は各自集めて来た物を見て、辰巳がそう呟くと海藤も運んできた荷物を見て。

「そうだな、当初の予定とは違ったが、収穫しゅうかくがあったのは間違いない」

 満足した様子だったが、渡井は少し息を整え。

「あとは、ドラッグストアに行くのみですね、そういえばどれくらい時間がたったんだろう……」

 ふと時計を見ると、既に12時を回っていた、それを見ていた面々は驚きを隠せないでいたが。

「一か所の探索や、いつもは数分で済んでいた事が何時間もかかるのは、今となっては普通の事だと思った方が良い、中学校まで避難するのにもかなり時間が掛かったし、昨日までの調達も日が昇ってから、すぐの時間帯に向かって、慎重に動いてあの時間に戻れていたから」

 黒白が説明すると。

「どおりで毎朝、海藤さんが校内を探しても見つからないはずだ、でもありがとう、君のおかげで色んな人達が助かったし、ご飯も食べられる感謝しているよ」

 渡井がそう言うと黒白は少し照れくさそうにしていたが、それと同時に海藤と辰巳は朝、黒白が見つからない理由は分かったが、夜も見つからない理由だけは分からずにいた、しかし渡井はまだその部分に触れるべきでは無いと判断し、出発する準備を始めた、五人は各自、大きめの鉈と小型の鉈を一本ずつ装備した後に、マルチツールを各一つ、あとは各自使いやすい武器になりそうな物を見に着け、ドラッグストアへと向かうのだった。

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