第6話 「恩師との別れ」

 翌朝、黒白は昨日と同じように学校を抜け出し、物資を取りにドラッグストアに向かった。

 だがそこは昨日とは少し様子が違った、道すがらは出くわす事なくすんなり来られたのだが、店内の方にも、何度ヤツらをおびき出そうと音を立てても、一体も姿を現す事が無く、店内に入ってもヤツらの姿を見つける事は出来なかった、しかし黒白はその事をチャンスだと思い、昨日より多くの物資をバッグに詰め込み外に出て行くと、正面にあるマンションから何かが降ってきて、地面に鈍い音を立て、叩きつけられていた、落ちて来たが何かは分からないが、赤黒い何かが地面に広がっていて、黒白は少し怖くなり、そこから急いで離れて行った

 しかし音が響いていた事もあってか、どこに居たのか、付近から数体のヤツらが姿を表し、赤黒い何かがある場所に群がっていた、黒白は自分のすぐ傍にいるヤツらだけを倒し、ヤツらが追って来ていないか確認しながら、学校へと戻った。

 学校に着くと校門前に見張りの人が配置されて居たらしく、黒白の姿を見て溜め息を吐いていた、黒白は少し申し訳なさそうにもしていたが、その男性は。

「外に行くのは構わないが、せめて誰かに言ってからにしてくれよ、俺たち見張りや調達班の奴らは皆、お前の事を信頼もしているし、感謝だってしているんだからな」

 黒白の身を案じ、肩を軽く叩き校内に入れた後に黒白の事を呼び止め。

「昨日の事もそうだが、食料調達も本当にありがとう」

 感謝を伝えると黒白は一言。

「大した事無いですよ、誰かがやらなければいけない事だったんですから」

 そう言い調理室の扉を外から開けると、朝の炊き出しをしている人達と鉢合わせた、そこにいた人たちは扉が開くと思っていなかったのと、黒白の姿を見て驚いていた、一番近くに居た人は黒白の服が汚れていたことに驚いていて。

 それ以外の人々は、黒白が何をしたか見ていた人もおり、よく思っていなかったが、その日早い時間から調理室に居た結月が黒白の姿に気が付き

「黒さん、どうしたの?そんな汚れて」

 誰よりも早く声を掛けて来た。

「ああ、えっとあんたか……えっと戸川さん」

 彼女に気が付いた黒白は少し照れくさそうに呼ぶと、背負っていたバッグをおろし。

「まだ誰も居ないと思って、これを仕舞いに来たんだよ」

 バッグの中身を見せると、その中には卵や生肉、野菜などの食材といくつかの飲料に酒も入っていた、その中を見ていた一人の女性が。

「もしかして昨日、食料を持って来てくれた人って君の事?」

 訪ねて来たが黒白は何も言えずにいた、それを知ってしまったら、なんと言われるか分からない恐怖がわずかにあったからだ、しかし先ほどの女性の言葉を偶然聞いていた篠原が。

「ええ」

 返事をした後に。

「昨日の食料もだし、医療器具や薬を持ってきたのも彼」

 教えると結月は。

「やっぱり、そうだったんだ、二人とも話していたんだけど、こっそり出て行って、 物資を取りに行きそうなのって、黒さんが最初に浮かんできて、会うことが出来たら三人でお礼したいねって、話していたんだ……ありがとう、黒さん」

 嬉しそうに感謝を伝えていた、他の人たちも黒白に感謝を伝えようとしていたが。

、嬉しいよ……ありがとう、またな」

 と言い他の人たちの言葉を聞かずに逃げる様に立ち去ろうときびすを返すと。

「って……なんだ?」

 誰かにぶつかった……そのまま体制を立て直し、誰にぶつかったか見てみると、

そこには海藤の姿があった。

「あっすんません」

 黒白が謝罪すると。

「おう、おはようさん、気を付けろよ、お前さんが一番分かっていると思うが、外だと周囲に気を付けていないと危ないからな……それはそうとお前さん、まさかと思うがまた一人で外に行ってきたのか?」

 心配そうに尋ねてきて、黒白の返事を聞く前に。

「絶対なんて事は無いんだから、外にどうしても一人で行きたいって時は、誰でも良いから補給班か見回りの誰かに伝えてからにしてくれよ、理由はどうあれ、何かあって手遅れになるのは嫌だからさ、今まではお前さんに背負わせてしまっていた、学生のお前にあまり無理はしてほしくないんだよ、いずれは無理しないといけなくなるとしてもだ」

 優しく声を掛けると。

「分かりました、声を掛けるようにしますね」

 黒白は素直に言葉を受け取り、その後に会釈をして、この場を立ち去ろうとし。

「黒さん、ご飯はどうしているの?避難してから何も食べていないんじゃ……」

 結月は引き留めようとしたが。

「大丈夫……三時間くらいしたら海藤さんに声を掛けに行きますね」

 とだけ言い黒白は校内に姿を消し、いつもの場所へと向かった、しかし海藤や結月が見ているその後ろ姿は、どこか無理しているように感じた、三人の事を見ていた調理室にいる人々は黒白の姿を見て、噂で聞いていた人物像とはことなり、とても優しそうな青年に見え、そして結月の先ほどのといについても気にしていた。

「ねぇあなた、さっきあの子が何も食べていないんじゃないかって言っていたけど、どうしてそう思ったんだい?」

 一人の年配の女性がそう聞いた後に海藤も。

「俺もそれ気になったんだが、どうしてなんだい?」

 気にしていたらしく、聞いて来た。

「えっと、私と友達の二人もなんですけど、炊き出しで配っている時に黒さんが来ているか、気に掛ける様にしているんですけど、昨日、一昨日と一回も姿を見ていなくて、偶々たまたま見ていないのだとしたら、構わないんですけど、彼の家族や友達も合えてないって言っていて、普段は会えないとしても、炊き出しの時にも会えないのだとすると、ぜんぜんご飯も食べていないんじゃないかなって」

 結月は黒白の事を心配そうに話していて、年配の女性は黒白がさっき言っていた。

『戸川さんやあの二人、それに海藤さん達補給班の人たちからの言葉なら、少しは素 直に受け取れるから』

 と言う言葉も気にしていた。

「私たちはあの子にひどい事をしていたんだね、何も知ろうとせずに一方的に彼を悪者にして」

 年配の女性は自分たちが黒白にしていた事を思い返し反省していると。

「ああ、そうだな、あいつはこの避難所の人間を少なくても二回も救っている、あの男も、あの子供も、本来であれば手に掛けたく無かったはずだ、だけど、ああするしか方法は無かった、さもないとここに避難している人々は大半が命を落としているか、全滅していた可能性すらあった、それに食料や薬もだ、あいつじゃなくて、俺達大人が真っ先にしなくてはいけないのにも関わらず、危険をかえりみず行動してくれたおかげで、今日も飯が食えるし怪我や体調が悪い奴らも回復していっている、あいつを批難するんだったら、自分があいつと同じ事をしてみると良い、そうすれば、あいつの行動がどれだけ勇気が必要な事かわかるはずだ」

 周りだけでは無く、海藤は自分の不甲斐ふがいなさにもいきどおりを感じており、少しだけ強めに話していた、それを聞いていた人々は頷き、あの女性も。

「そうだね、あの子にお礼も言えてない、今日だって危ないのにも関わらず、行って来てくれたのだもの、あの子が食べに来た時には、あの子の分だけ少しおまけしてあげようかね」

 反省し、おまけしたいと言っていたのを海藤は聞き逃さずに。

「俺達にも少しで良いから、おまけしてくれよ」

 笑いながら言っていたが。

「あんた達にはしないよ、あの子はまだ炊き出しに一度も顔を出していないんだろ、だったら、最初くらいお礼の意味も込めてサービスしてやりたいじゃないか」

 海藤たちの頼みはすぐに断り、黒白へのお礼は調理室に居た皆が同意していた。

「マジか……分かってはいたが」

 自分達におまけは無いと言う返答に対して海藤は少し残念そうにしていたが、それでも黒白の誤解や偏見へんけんが少しでも無くなったと感じ微笑ほほえんでいた。

 そして結月もまた、黒白の安否が分かり安堵あんどしていた、しかし黒白は朝の炊き出しにはまたも姿を表さず、例の場所で軽く食事を済ませ仮眠を取っていた。


 目を覚ましてからは、海藤を探しに校内を歩いていた、しかし校内に居る人の中には黒白の事を良く思っていない人が多く、様々な陰口を言っていた、校内を歩き回り探してものの、海藤の姿は確認できずにいた黒白は最後に体育館に向かうと、海藤達は右側にある体育倉庫で何かをしていた。

「どうやっても空かないな」

 海藤は先日、黒白に開けてもらった方とは別の体育倉庫が開かないと相談を受け、何とかして開けようとしていたが、鍵が開く事は一切なく時間だけが過ぎていた。

「職員室の扉が開かない所為せいで鍵が取れないのは困りますね」

 海藤の傍にいる眼鏡をかけた男性がそう声を掛けてくると。

「そうですね、馬屋うまや先生、しかしどうして職員室は開かなくなってしまったのでしょう」

 不思議そうに聞いて来たが馬屋と呼ばれる教師は何かを隠している様子で。

「それは私にも分からないですね、こうなってしまい、職員室に行った時には、もう施錠せじょうされていた、誰も入れないし、荷物もそのままでどうしたら良いか分からない状態ですよ。もしも可能なら、家族の安否も確かめたいですから」

 海藤はそう言われ、家族の安否は誰もが気にしている事なのだから、何か情報を手に入れたい、安否確認をしたいと思うことから。

「たしかにそうですね、すみません」

 謝罪を言っていたが、馬屋は。

「いえいえ、気にしないで下さい、私も教師のはしくれです。生徒の安全が確実になるまではここに居ますよ」

 返答し、それを聞いた海藤は申し訳ないと言う思いもあったのか、少し声を落とした様子で。

「ありがとうございます、先生」

 感謝を告げていた、その数分前、黒白は人だかりが気になり、体育館に入り海藤たちの元へ向かっていると、ここでも黒白の陰口や睨みつけてくる人も居たが、黒白は気にしていても仕方ないと思い歩き続けた、海藤は扉が開けるのをあきらめようとすると黒白が近くに来ている事に気が付いた。

「そこで何をしているんですか?……もしや、また鍵が開かないとかじゃないですよね」

 黒白にはその事をまだ話していないのにも関わらず、気が付いた事に驚き、周りの黒白に対する視線にも気が付いていたが、黒白自身が気にしない様にしている事にも気が付いていた、そのため海藤も気にしない素振そぶりをしつつ。

「実はそうなんだよ、卒業生なら開け方のコツとか知っていたりするんじゃないか?」

 ダメ元で聞くと

「出来ますけど、向こうと同じで鍵が見つかるまでは、内側から閉めたら誰にも開けれなくなるけどそれでも良いなら」

 黒白はそう返すと、鍵を開けるために時間をいていた人々は驚いていた、しかし黒白が卒業生だったのを忘れていた馬屋は。

「そんな事出来るはずないだろう、私ですらそこを鍵なしで開ける方法を知らないのに」

 声を荒げていたが。

「見てれば分かる」

 とだけ言い、軽く扉を持ち上げて右に数回動かすと、ガチャンと言う音が響き渡り、黒白がそのまま扉を引くと、さっきまで開かなかった扉が開きそこには応援団で使用する太鼓や机が置いてあった、黒白はそれを見て。

「ちょうど良く、燃えそうなのが多くあるな」

 言っていたことに避難していた在校生や親世代の卒業生も驚きを隠せないでいた

「燃えそうって何を言っているんだ!」

「そうだ!今まできずき上げて来たモノだってあるんだぞ」

 驚いている人たちの中には、かつて応援団だった人達もおり、怒っていた……

 無理もない自分達や後輩が守り、つむいできた物を見た瞬間に燃やそうとしているのだから。

「じゃあ、あんた達はいつまでも電気を使い続けられるとでも思っている?水もそうだけどさ、今のこの状況を考えると遅かれ早かれどちらも止まると思うぞ、その前に出来るだけ対策はしとかないとまずいだろ、太鼓のバチや固い部分は上手くやれば松明としても使える、紙や燃やしやすい物であれば暖を取ったり、食事を作るのにも役立つ、ペットボトルもむやみに捨てずに煮沸しゃふつした後にそれに入れてやれば、また使えるようになるんだからさ、少しは考えろよ……もう、なにもかも変わってしまったんだから」

 黒白は苦しそうに言うと、それ以上は何も言わずに外に出て行った、いつもは声を荒げない黒白の姿を見た人々は驚いていた、そして黒白はいつもの場所で休息を取ろうかと考えながら歩いていると、職員室で動く影に気が付き、足を止めて中を確認するために耳を職員室の扉に充てると、中からヤツらのうめき声が聞こえて来た。

「なんでこんなところにいるんだよ…」

 驚いていると、さっき黒白が怒っているところ目の当たりにした海藤や外に居た辰巳や海斗が黒白の所に寄ってきた。

「どうしたんだ?職員室なんかに耳を当てて」

 先程の騒ぎを聞いていない、海斗は黒白の様子を不思議そうに見ていると、黒白は唇に指を当て静かにするようにうながしていた。

「一……いや、二か?」

 黒白が静かにそう言っている様子を見ていた海斗と辰巳の二人には緊張が走った、海藤は二人の雰囲気が変わった事に気が付きはしたのだが、なぜ雰囲気が変わったのかは分からずにいた。

「もしかして、中にいるのか?」

 海斗は黒白の傍に寄り、静かに聞いてみると黒白は静かに頷いた、二人の会話を聞いていた辰巳は、急ぎ木工室まで行き、のこぎりを三本持ってきた。

「武器に使えそうなのはこれくらいしかなかったのですが、使えそうですか?」

 心配そうに聞いてくる辰巳に海斗と黒白の二人は苦笑していた。

「それは辰巳さんが持っていて、俺と海斗にはこれがあるから、でもありがとう」

 黒白はそう言い木刀を見せた、しかし黒白は今のやり取りで怒りも焦りもどこかに行ったのか、少し柔らかい表情をしていた、そして海斗は疑問に思っている事を聞き。

「だけどここにどうやって入るんだよ、鍵だって掛かっていて入れないし」

「何言ってるんだよ、開かないのであれば、裏から行くか壊すしかないだろ」

 黒白がそう言うと、他の三人は驚きを隠せない様子で、少しの間ほうけていた。

「海藤さん、図書室には入れるんですよね」

 黒白は確認の為聞くと。

「ああ図書室なら入ることが出来る、中にいるのか?」

 三人の話を聞いていた海藤は職員室の中で何があったか理解し聞いてきた。

「ええ、恐らくは少なくても二体、どこにいるのかは正直分かりせん、だから俺が裏から入って一度鍵を開けます。その後に三人で入って来て下さい、念の為に再度鍵は掛けますが何があるか分からないので誰か二人にここを守っていて欲しいです」

 黒白がそう伝えると海藤はすぐに二人の調達班の人に声を掛けていた。

 海藤が呼んだ二人も合流したのを見計みはからい、黒白は図書室からベランダに向かい外から職員室を覗いてみると通路の真ん中に一体、動かないのが一体校長室側の扉にもたれかかっていた、黒白は出来るだけ静かに窓ガラスを壊し中に侵入した、幸い大きな音がなることは無かったので、そのまま通路の真ん中にいるヤツらを倒し、そっと床に寝かせた

 その後は、事前に打ち合わせていた通り鍵を開け、海藤に海斗そして辰巳の三人のみ中にいれた、三人は緊張した様子で、職員室の中をくまなく見ていると何かの振動で壁にもたれかかっていた『人?』が倒れた、黒白達はそいつから距離を取り、海藤が近くの机の上に置いてあったスクイズボトルを倒れた『人?』にめがけて投げてみると、標準は外れたが床に落ちた事もあり教室内に金属音が響いた、その音に反応して校長室から呻き声が聞こえて来た、そして校長室側の扉で倒れていたのも、やはり感染していたらしく、立ち上がるかと思われたが、どうやら足を負傷していた様子で、立ち上がる事は出来ずに床をっていた、しかし立ち上がらないとは言え、危険であることには変わりない、噛まれてしまったら一巻の終わりになってしまうのだから

「今回は俺にやらせてくれ」

 黒白が手を出そうとすると、海藤は黒白の行く手をはばみそう言うと、黒白は何も言わずに頷き海藤に任せた、彼は持っているのこぎりを、数秒見つめた後に床を這っているヤツらに目を向け小声で

「許してくれ」

 呟き、頭部目掛けて振り下ろした……海藤が目を開けるとそこには、のこぎりが頭に刺さり絶命しているヤツらの姿だった、海藤が自責じせきの念に駆られている最中。黒白は一人先に校長室へと入っていた、校長室の扉を開け窓側に立っているヤツらの姿を見た黒白は驚愕きょうがくしていた

 そこに居たヤツらは、黒白がまだ中学生だった頃に色々と相談に乗ってくれていた恩師その人だったのだから、重さで切れてしまったのだろう、散乱している机の上にはロープがぶら下がっていて、自分でどうにかしようとしていたのが目に見えていた、黒白に気が付いた、ヤツらとなった恩師は、黒白の元に迫っていたが、黒白は動けずにいた、しかし黒白は自身をどうにかふるい立たせ、迫りくる恩師を見て涙を浮かべ木刀を振り下ろした……

 職員室の探索を終え海藤の傍に来ていた二人だったが、校長室から聞こえて来た鈍い音に反応して急ぎ向かうとそこにあったのは

 黒白が倒したヤツらの姿と、放心状態になっている黒白の姿がそこにはあった、海斗と辰巳は急ぎ周辺の安全を確認した後に職員室と校長室の鍵を開け、自分たちの無事を伝えている頃には海藤は自分なりに折り合いを着けたのか、以前の彼に戻っていた。

 しかし黒白は恩師を手に掛けてしまったという自責にさいなまれていた、開いている扉から黒白が放心状態になっている様子を見ている人達は、何が起こっているか分からなかったが、黒白は少し間立ち尽くし涙をこらえていた、しかしこのままではいけないと思い、遺体を抱き上げ例の場所に連れて行った。

 そして海藤たち三人も二人の教師の遺体を抱えグラウンドに向かった、黒白達の事が気になった他の人々も彼らの後を追って行ったが、黒白のいつものと違う様子に違和感を覚えているのが複数いる中、海斗だけがその事実を知っていた、海藤と辰巳の二人に聞こえる声で。

「今あいつが抱えているあの人……あいつの恩師なんですよ。あいつが色々あって迷っていた時に、周りの人が離れていく中、あの先生だけはあいつの事を見放みはなさなかった、俺も詳しい事は分からないけど、あの人だけは本気でしたっていたんです……それなのに」

 海斗もまたやりきれない思いを抱き、話していた。

「そうなのか、それなのに俺はまた……」

 海藤は、自分が手を下してしまった事実に葛藤かっとうしていたが、自身よりも若い黒白に更なる負担をいてしまった事にいきどおりが隠せずにいた。

「私は何度彼に助けられなければ……」

 辰巳もまた強い憤りを感じており、苦しんでいた。

「二人だけの責任じゃないですよ、俺もあいつの傍にいたのに、黒白の苦しみを少しでも肩代わり出来たはずなのに」

 三人は自身の不甲斐ふがいなさに怒りを覚え、そして決心していた。

「「「もっと強くならなければ、覚悟を決めなければ」」」

 と


 黒白が着いた場所、以前テニスコートだったが、今となっては校内でヤツらになってしまった人たちの墓所ぼしょとなっていた、しかし経った数日なのにも関わらず既に5人が命を落としていた、職員室の中の事を知らなかったとは言え、そこに居た人々も合わせると、この校内だけで5人なのだ外での事を考えるのも恐ろしい……

「騒ぎは聞いた、ここを使ってくれ」

 黒白の姿に気が付いた男性は、何も聞かずに掘った穴を指差した、黒白は恩師を失った悲しみで言葉を出せずにいると。

「ありがとうって、先生も言ってくれるよ、きっと」

 男性にそう言われると黒白は不思議そうな表情をしていた。

「俺さ、この人が昔担任だった時にやんちゃしていたんだけど、この人だけは俺を見捨てないでいてくれたんだよ、俺だけじゃない今ここに居る5人は先生に恩がある、君もそうなんじゃないかな?」

 男性にそう聞かれた、黒白は。

「俺も山縣やまがた先生には本当にお世話になったんです……それなのに……」

 黒白は悔しさとやるせなさで食いしばっていた。

「俺たちもさ、何もできなかった、坊主に負担をいてしまった、こんな事でしか返せない自分が腹立たしい」

 彼もまたどこか自分が許せない様子だったが。

「ありがとうな坊主、先生を止めてくれて、先生に変わって礼を言わせてくれ、ありがとう」

 黒白に感謝を伝えた、恩師を救ってくれて事、これ以上苦しまなくて良いように動いてくれた事に感謝を伝えてくれた、しかし黒白は自分の不甲斐なさに憤りを隠せずにいた、しかしその男性は。

「苛立ちを覚えるのはよくわかる、だけどお前さんは先生を救ってくれた、これ以上先生が苦しむ事は無いんだ」

 黒白の肩を叩き、涙を流している黒白の事を彼なりに励ましていた、彼もそして山縣先生に助けてもらった人達も涙を流していた、そんな黒白達の事を見ていた人達も居たが、彼らの姿を見てどう思っていたのかは誰にも分からない、しかし少しでも黒白の苦しみを分かってくれていればと、海藤たちはそう思いつつ、職員室で遭遇そうぐうした三人のヤツらと、ここに眠っている二人に、そっと手を合わせいた。

 夕暮れになりつつある空を見て。

「さて、そろそろ行こうか」

 海藤が黒白や海斗、渡井達にも声をかけると。

「俺はもう少しここにいるよ」

 黒白は申し出を断り、遺体が完全に燃え尽きるまでその場にいた、その際に穴掘りをしてくれていた人たちと、先生との思い出話や、その後の話そして今後の話をしていた、それから4時間ほど経ち、日も完全に落ち、燃え尽きた遺体に上から土を被せ、最後にもう一度彼らは手を合わせその場を後にした。

 黒白達が昇降口の方に向かうとそこでは夜の炊き出しを行っていた。

「そういや、そんな時間か、俺たちも土を落としたら並ぼうか」

 堀内ほりうちがそう言うと他のメンバーは返事をし、そして黒白の事も気にかけており。

「黒白って言ったか、お前も一緒に食べようぜ」

 堀内が黒白の肩を叩くと黒白は遠慮えんりょして。

「俺は大丈夫です、それに一緒に食べているところを見られると、迷惑になりますし」

 その場を離れようとすると。

「あれ?不破さんだ!ようやく炊き出しに来てくれた!みんな待っていたんだよ」

 声がした方を見てみるとそこにいたのは瑠奈るなだった。

「あんたはたしか……それに待っていたってどうゆう事だよ」

 黒白は瑠奈の言っていた事の意味がよく分からず聞いてみると。

「それは行ってみてのお楽しみだよ、来て」

 問いに答える事は無く黒白の手を引き校内まで連れて行った。

「今日もこの間も何があったのかは聞いたよ、だけどあなたは絶対に悪くない、だって私たちを守ってくれたのだもの、だからありがとう」

 瑠奈は誰にも聞こえない様に黒白に感謝を伝えると黒白も。

「ああ、あんたや他の二人が伝えてくれる言葉には本当に温かさを感じるよ……こちらこそありがとう」

 他の人には聞こえない様に彼女に返事をしていた、二人のそんな様子を見ていた堀内たちは黒白にも心が開ける相手がいた事に安堵あんどしていた、黒白は瑠奈にされるがままに昇降口の方に向かうと、炊き出しはまだ続いており、その温かさに目をらしたくなった黒白は、そっと校内に入ろうとしていたが瑠奈や堀内たちにはばまれ、大人しく最後尾に並んでいた。

「私は手伝いに行くけど、絶対に逃げたらだめだからね」

 瑠奈は黒白に釘を刺し。

「皆さんも彼が逃げない様に見て頂けると嬉しいです」

 堀内たちにそう伝えると彼らは。

「おう任せろ!嬢ちゃんも手伝い頑張れよ」

 元気に返事をした。

 瑠奈はそんな彼らに軽く頭を下げると調理室の方へと向かい、手伝いを始めた、黒白は堀内たちの目を盗み逃げようと試みたが、海藤達に見つかり列に戻された。

「まったくなに逃げようとしているんだお前は、朝も聞いたがお前ろくにめしも食べていないんだろ…だから」

 心配そうに海藤に言われると、黒白は溜め息をし。

「あんまし食欲が無いんだよ……ヤツらと戦うようになってから……腹は減るから軽い物だけ胃に入れるようにしてはいるけど、それにあまり人が多くいるところで食べたくないってのもある、どこにヤツらがいるか分からなくて、落ち着けない」

 黒白は理由を説明すると、一人の女性が。

「それなら、これなんかどうだい?」

 とゼリーを差し出してきた。

「これは?」

 黒白は自分が持って来た物の中には入っていなかった事を思い出し、聞いてみると

「これは私らが作った物だよ、ここには大勢の避難者がいるだろう、中には炊き出しを食べられない人や、あんたの様に食欲が無い者もいるからね、そんな人達用に作っているのさ」

 そう返答され、黒白も納得していたが。

「そしたら今度取って来るときはゼリー系も見てきた方が良いか……あそこならまだ残っているだろうけど……」

 呟くと、それを聞いていた海藤や女性に。

「次行くときは俺たちも行くからな」

「今はそんな事考えずに、ちゃんと食べなさい」

 と言われ、二人の剣幕に驚き。

「はい」

 返事をし、女性からゼリーを受け取った、その光景を見ていた子供がゼリーを物欲しそうに見ていたが、女性は。

「それはこのお兄ちゃんのだよ、食欲無いって言うからね、君たちはちゃんと食べられるだろう」

 優しくさとしていた。

「ありがとうございます」

 黒白は持ち場に戻る女性にお礼を言うと女性は。

「私は伊藤静いとうしずかっていうんだ、何かあったら調理室においで、これでも厨房で仕事していたからね、ある程度のモノなら作れるよ」

 黒白を見て自身の名前を教え、そのまま調理室で食事を作りに戻って行った、黒白もまた、もらったゼリーを人気ひとけの無い所で食べ、食器を軽く水ですすぎ返却へんきゃくしていた、その様子を見ていた結月達三人は嬉しそうにしており そしてその三人を見ていた静もまた嬉しそうにしながら後片付けをしていた。

 食事を終えた人たちに他の事はせ、静は今日の食事も持って来たのは黒白だから、お礼を言わせようとしたのだが、黒白の姿はすでに無く、海藤は静の姿を見て。

「あいつはそう言うのは望んでないぞ、自分に出来る事を少しずつやっているだけだからな、本当は大人の俺たちがしなければないのにな……」

 少し苦しそうにしていたが。

「でも、明日からは俺たちもあいつと一緒に物資を取りに行ってくる……その相談をあいつとしたいんだが、どこに行ったか知らないか?」

 周りを見渡すと、黒白の姿はどこにも無く、結月達に聞いてみるもどこにいるかは分からないとの事で、しばらく校内を探して見たものの全く見つかることが出来ずにその日を終えてしまった。

 そして黒白はと言うと、屋上に出て空を眺めながら、イヤホンを片耳に付け音楽を聴きつつ、異常が無いか警戒をしていた、少しすると、グラウンドにも懐中電灯の光が見えて来たのを確認し、黒白はその場に寝ころび空を眺めていた。

「親父もおかんも校内にいるらしいけど、会うのは少し気が引けるな、すでに何人も殺してしまっているんだ、今更どんな顔して会えってんだよ、それにもうあの時の様に楽しむ事はもう不可能なんだ……」

 黒白は一人呟いた後に、校内に戻り屋上前のスペースで眠りについた。

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