第2話 「出会い、そして再開」

 黒白はガソリンスタンドから、しばらくバイクを走らせ、駅の傍にある下り坂に差し掛かると、下の方から数台の車の音がした、それをよく見て見ると数台のバスが走りだしていた、ヤツらが中に居たのか暴走している車両もあれば、何とかあの場所から離脱出来ているのも数台いた、黒白は車の音が聞こえなくなるまでその場で待機しつつ、周囲を警戒していた

 そして遂に、頼りになる武器も手に入れた、一つはやはり銃、黒白は打った事は無いがこの状況では、心強い武器になるそれと同時に恐怖の対象として見る者がいるのも事実、そして次は警棒、こちらは小さいという事もあり扱いやすく片手も空くから使いやすい、最後に手錠と催涙スプレーが入っていた、どれも今の状態だと安心出来るが 使い方には気を付けなくてはいけない、そしてどれも人に使わない事を祈るばかりだ、銃と催涙スプレーはバイクの収納スペースに仕舞い、警棒と手錠のみ付けたままで警官から盗った……

 いや、拝借したベルトを自身に着けた、そんな事をしていると、バスが全て出て行ったのかようやく静かになっていた、そう思い再びバイクを走らせたのだが最後にもう一台、生存者を乗せたバスが止まっていた、しかしそのバスは周りをヤツらに囲まれ身動きが出来ずにいた。

 そんな中バスの中では一人の男が騒ぎ、その様子を見ていた幼い少年が泣いていた、バスの中には、女子高校生が三人と運転手が一人、男の子が一人とその母親が一人、中年のスーツを着た男性が一人とそして20代くらいの騒いでる男が一人いた

「おい!さっさと出してくれよ!このままだと、俺達も死んじまうだろうが!」

 男は怒鳴り声を上げていると、運転手は焦りながらも

「今のままでは無理ですよ!このまま走り出したら横転してしまう」

 そんな中、幼い少年は外の光景と騒いでる二人を目の当たりにして泣き出してしまった。

 そして、外にいるヤツらも少年の泣き声を聞きつけ次から次へと集まり、バスに当たり始めた、バスは沢山のヤツらが当たってきているのもあり、大きく揺れその衝撃も重なりバスの最後尾さいこうびにある後部ガラスが割れた、幸いそこには誰もおらず、怪我人が出る事は無かったのだが、大きな隙間が出来た事もあり、そこから入って来ようとするヤツらが数体いた、その恐怖もあってか少年の泣き声は黒白の居る所まで響いて来た、少年が泣いている事に痺れしびれを切らしたのか、若い男は苛立っている様子で少年の服を掴み後部ガラスまで向かった、その際少年の母親は何度も

「その子を離してください、お願いします!離して!」

 懇願こんがんしていたが、男は利く耳を持たずに進みそのまま少年を外に放りだしてしまった、しかしその時、一人の少女が窓から飛び出して行った、その光景を見ていた彼女の友人が

「えっ!」

「ちょっと!結月ゆづき!」

 声を上げていたが、時はすでに遅く結月と呼ばれた彼女は先程放り投げられた少年を抱え中を舞っていた、それとほぼ同時に若い男は、バスの運転手に向かって

「今だ‼」

 と叫び、二人に向かい始めたヤツらを確認した運転手はバスを進めた、進んで行くバスの中、二人の女子高生と、少年の母親は自身らの不甲斐ふがいなさに苛立ちまた、放り出された二人の事を心配していた

 そんな中、その少年は彼女の腕に抱かれ怪我も無く無事だったが、結月と呼ばれていた女子高生は強く体を打ち付けていた事もあり、身動きが取れずにいた、二人共もう駄目だと思ったその時、何かが近づいてくる音が聞こえた

「まじかよ、あいつら……おい、あんた大丈夫か?」

 そう彼女達の元に来たのは、数分前まで坂の上にいた黒白だった、彼は少年の泣き声が聞こえて来た際にバイクを走らせ、バスの近くにまで来ていた、そして二人がバスから放り出されるのを見かけて、二人の近くにまで急いで駆け付けたのだ、黒白は動けないでいる結月に声をかけ、うなずいたのを確認し、職員室から出て来る際に教師のスマホを数台持って来ており、その一つを手に取った、そしてそれのパスワードも先程、解いた所でアラームを10秒後にセットし駅構内の方に投げた、本来なら壊れてしまうが、上手くヤツらに当たり、そこから大音量でアラームが鳴り響いた、その隙に黒白は結月に

「痛い所悪いがしっかり、俺の腰に捕まっていてくれよ、そしてボウズも正面だと危ないから、そのままの状態で捕まっていろよ」

 結月はバイクの後部座席に座り、黒白の腰に手を回し、しっかりと捕まっていた、また少年も黒白の肩に手を回し、前方から抱き着く形で捕った

 その状態で動き出し、何とか三人とも無事で逃げる事が出来た、それから三人は人もヤツらも居ない道路を進んで行く、しかしヤツらは居ないのでは無く、建物の中やかすかに音が鳴っているところに存在しまた、黒白が通った後にもエンジン音を聞きつけ道路に出ては来るのだが、既に通り過ぎた後という事もあり、その場に立ち尽くしているヤツらや別の音を聞きつけ、そちらに向かうヤツらもいた、そして橋に近づくに連れて車の台数も増えてきた。

「これ以上はバイクで進むことは出来そうに無いな……そういえば近くに駐輪場があったな」

 黒白は周囲を見渡し、近くにライブホールがあった事を思い出した、一度来た道を引き返し、傍にあるライブホールが併設へいせつされている展示館の地下駐輪場へと向かい、そこにあるバイク専用の場所にバイクを置き、収納スペースに入れてあった複数のカギを追加で付け、警察車両から取って来た物も全て持っていくことにした、他のは見える位置に装備していたが銃だけは、ホルスターを取り外すことが出来る事に気が付き、制服の右腰に付け、制服とワイシャツで隠し装備するのだった。

 結月も少年も何とか一人で歩けるくらいには回復していたが結月は背中を強く打っていた事もあり、どこかおぼつかない足取りだった、三人は先ほどの場所に戻り、どうにかして反対側に渡れないかと考えていると数台のバスの中にまだ生存者がいる事に気が付いた。

 橋の向こう側や橋の近くにある公園から数え切れない程のヤツらが迫ってきているのが確認でき、それを見て二人は別の道から逃げようとすると少年が一番近いバスを指差し

「お母さん!」

 と叫んだ、だがバスの中に居る彼らにその声は届かなかった、そして結月は

りんちゃん、瑠奈るなちゃん」

 心配そうに呟いていた、黒白はそれを聞き、あのバスの中には結月の友人が乗っている事に気付き、少し迷ったが。

「二人とも、あの車の中に隠れていてくれ、さっき見たときカギは空いていたし、ヤツらが中にいる様子もなかった、俺が三回ノックしたら外に出てきてくれ」

 そう言い黒白は一人バスの方へ走って行った、結月と少年の二人は何も言い返す事が出来なかったが、黒白が先ほど指差していた白いワンボックスの中に身を潜めた。

 そして黒白はバスの近くまで来ると三体のヤツらが運転席側の外にいた、そこにあるはずの窓ガラスは割れ、運転手は突然の事で同様しているのかそこから逃げ出せず、周りの人たちもその光景に驚き、そして怯え身動きが出来ずにいた、黒白は途中からバスの周囲にある車の上を走り、バスまで最後の一台となった時に強く踏み込み

 三体に当たるようにバットを振り下ろした、だが一体にはかすっただけで倒すことは出来なかったが、バットを手放し警棒で三体目の頭を強く殴打した、その光景を見ていた乗客は青ざめていたが、黒白がすぐに

「死にたく無かったら、その壊れた窓から出てこい!」

 叫び運転手を掴んで離さなかったヤツらの手を何とか離し、落ちていたバットを拾い上げ、すぐに自分達が行く方向とは逆の方向に投げ捨てた、バットは路上に落ち、周辺には大きな金属音が鳴り響いた、黒白は来た道を引き返し、バスの後ろに着くとそこには二人の女子高生とスーツ姿の男、そして一人の女性がいた、運転手と男は一緒に行くのを躊躇ためらっているのか、降りてくる様子は無かったが、既に降りていた四人も黒白の事を数歩引いて見ていた、それも仕方のない事なのだろう、行き成り来た男が三体のヤツらを倒し、その返り血を浴びても一切動じておらず、更にはバスから降りる様に要求したのだ、次は自分の番かもしれないと思っていたとしても不思議ではない

「俺はそんな怪しい奴に着いていくなんて嫌だからな!」

「自分も助けてくれたとはいえ、あんな事をする人と一緒に行くのは嫌です」

 男と運転手はそう言いバスの中に残る事にするのだった

「勝手にしろ……あとは知らん」

 そう言ってすぐに

「いろいろ言いたいかもしれないが、とりあえず走るぞ」

 落ち着いた様子で言うと女子高生と女性は一度互いの顔を見合わせ頷いた、スーツ姿の男は

「わかりました」

 とだけ言い、四人は黒白の後を追う形で走り出した、しばらく走り結月と少年が隠れた車に着き、黒白が車内を確認し二人の無事を確かめ、事前に伝えたように三回叩いた、四人は不思議そうに見ていたが、ドアが開き、中から出てきた二人を見ると、驚きを隠せない様子だったが黒白が

「とりあえず急ぐぞ、ヤツらがすぐ後ろまで迫ってる!」

 声を掛け、黒白たち7人はすぐ傍にある橋を渡り、黒白は渡り終えた所にあった車の上に上り、他のメンバーが逃げ切るのを確認した後に、自身が上っていた車のボンネットに勢いよくジャンプし警報を鳴らした、結月の友人はそれを見て驚いていたが、黒白は再び

「走れ!」

 と叫び、彼らは再び走り出した、全員の息が上がって来た時、正面に一軒のドラッグストアが姿を現し、黒白達はその店の駐車場にあるトラックの荷台に一度身を隠した。

 荷台の中から黒白は外の様子を確かめると、黒白達を追って来ていたヤツらはドラッグストアに入る際に少し急な傾斜けいしゃがあるのだが、そこから上に上がる事が出来ずにいた、意思が無い為、上がろうとはするのだが、途中でバランスを崩しそのまま下に転がり落ちている状態だった、しかし中には下半身が無いヤツらもいて、そいつらは自身を引きずりながら、駐車場内に入ってきていた、だが駐車場から脱出するにも出口は完全に塞がれていて、黒白達は身動きが出来ない状態だった、黒白が荷台の中に視線を戻すと、女性は少年の事を強く抱きしめ、結月とその友人たちも声を押し殺しながら、互いの無事を確かめ静かに泣いていた、全員が落ち着いてくると、黒白は荷台の中に積んであったお茶の入ったペットボトルを取り、全員に渡していた、みんな喉が渇いていた事もあり、お茶はすぐに無くなり、黒白は二本目を開けタオルに染み込ませた後にそれで自身に着いた返り血を吹いていた。

「あんた達はこれからどうするんだ?俺はここから少し行ったところにある、中学校に避難しようと思っているところなんだが」

 黒白は自身の目的地を話した上で今後、結月達がどうするか聞いた、話を聞くと結月、そして彼女の友人の大野凛香おおのりんか大島瑠奈おおしまるなの三人は東京から三人で旅行に来ていたらしく、当初は凛香の親戚の家に数日滞在することになっていたのだが、この状況になって以降全く連絡も取れずに居た為、避難場所が近くにあるのであれば同行させて欲しいとの事だった、スーツ姿の男は井出辰巳いでたつみというらしく彼もまた、出張でこの街にしたのだが、今の状況に巻き込まれ、どうようもない為、同行させて欲しいとの事だった、そして最後に黒白が助けた少年とその母親だ、母親は石田明子いしだあきこ、少年は将太しょうたと言う二人は黒白と同様に、この町が地元という事だが、二人の最寄りの避難所はここから大分離れた場所にあり、近くに避難出来る場所があるのであれば同行させて欲しいとの事だった、全員の意見を聞いた後に黒白は。

「わかった、何とか全員で避難しよう……周りを見てくる」

 落ち着いた様子で言い、近くにヤツらがいない事を確認し荷台から降りた、黒白が居なくなった荷台の中では黒白が犯罪者なのではないか、一緒にいて危険なのではないかと、明子、凛香、瑠奈の三人で話をしていた、そんな中。

「そんなことは無いと思う、だってあの人、自分も危ないのにここにいる私たちを助けてくれたんだよ」

 結月は言ったが。

「でもね、あの子は運転手さんを掴んでいた人たちを殺していたんだよ、話せば分かってくれたかもしれないのに」

 明子は反論したが、辰巳は自分たちが助けられた時の事を思い出していた、確かに黒白は運転手を今にも襲う勢いだったヤツらを殺していたが、本当に黒白が危険な人物なのであれば、あの状況で自分たちに逃げる様に言わないのでは、そして先程も近くに避難所がある事を言わないでは無いかと。

「あの運転手を襲っていた人達に話が通じるとは私には到底とうてい思えませんね、それに彼は、はっきりと死にたくなければ着いて来いと言っていました。そして先程は私たちにどうするか聞き、皆で避難しようとも言っていました、そんな人が悪人だとは到底思えません」

 辰巳がそう言い終えると将太も口を開き。

「僕はあのお兄ちゃん好きだよ、だってお母さんと僕を助けてくれたもん、それにあの怖い人達に囲まれた時もお兄ちゃんが助けてくれたし」

 それに続き、

「私もあの人は良い人だと思う、あの人が来てくれなかったら、私たちは此処ここには居ないと思う、居たとしても、あいつらの様に化け物になっているか、既に死んでいると思うから」

 結月は少し不機嫌な様子で話していた、彼女の友人である瑠奈と凛香の二人は。

「結月がそう言うのなら、私もあの人の事、少しは信頼しても良いと思う」

「そうだね、結月がそこまで言うなんて珍しいし、なんとなくだけどあの人は信頼出来ると私も思うな、それに……」

 凛香は何かを言いかけたが。

「何でもない、気のせいかもしれないし」

 と言うと結月と瑠奈の二人は不思議そうにしていたが、特に気にする事は無かった、トラックの荷台でそんな会話が起きている頃。


 黒白はドラッグストアの中に侵入していた、店内はブレーカーがまだ落ちていないこともあり、明るくはあったが中からはヤツらの呻き声が聞こえ、店内に黒白以外の生存者がいることは絶望的だった、幸いこの店舗には何度か足を運んでいたこともあり、店内の事はある程度理解していた為、迷う事なく必要なものをいくつか持っていくことが出来た、大きめのドラッグストアという事もあり店内にはリュックサックも置いてあるため、その中に無造作に携帯食料やいくつかの水分、数種類の薬、懐中電灯、倒れている人々から、ロックを解除出来たスマホを数個そしてヤツらを倒すために刃物も……

 将太以外の人数分を確保し、外に出ようとすると、先程のトラックの会社のロゴが入っている服を来ているヤツらに遭遇した、しかしまだ黒白には気が付いておらず、黒白はゆっくりそいつに近づき、先程手に入れた包丁で頭部を刺し、倒したそして服の中を漁って見ると数本の鍵を手に入れた、そして黒白が外に出て数秒後、店内にスマホのアラーム音が鳴り響いた、これは事前に黒白が仕掛けておいたモノで、ヤツらは大きな音に反応するという事に気が付き、注意を引くには良い方法と判断し、その習性を利用したのだ、ヤツらが数体店内入って行くのを確認してから、黒白は急いでトラックに走り、何の音かと顔を出した辰巳は黒白が走って来たのを見ると黒白の背後に一体のヤツらがいることに気が付き

「うしろ!」

 声を上げ、それに気が付いた黒白は警棒で背後にいたヤツらを倒すと、さっきの声に反応した、近くにいたヤツらが辰巳を狙っていたが、なんとか間に合った黒白がそいつも倒した

「ありがとうございます。黒白君」

「いや、こちらこそ、背後にいた事を教えて下さりありがとうございます」

 荷台に乗り込んだ黒白は辰巳にお礼を言われ、自身も教えてもらった事で助かったこともあり、お礼を言っていた、そして黒白は取って来た荷物を開け、刃物を将太以外の面々に配った。

「何も無いよりは安全だと思う、ヤツらには話なんて通用しない、ヤツらに嚙まれれば死ぬ、生き残りたければ、ヤツらを倒すしかない」

 黒白がそう言うと明子は

「あの人達を救えるかもしれないのに、話せば分かり合えるかもしれないのに!」

 言って来たが、黒白はすかさず

「そうしたければ、やれば良い、ただし俺たちがいない所でやってくれ、ヤツらの仲間にならない事を祈っているよ……念のために言っておくが、ヤツらに一度でも、ヤツらの仲間入りだ」

 ため息交じりに言うと。

「まるで見てきたかのような、言い方ですね」

 辰巳がそう言ってきた……それを聞き黒白は息を深く吐き。

「ああ、見てきたし、あんた達に会う前に既に何体か倒したよ、そうでもしないと俺は死んでいたろうし、学校から脱出するにしても、そうする以外に方法が無かったからな……やらなきゃやられる、それだけだ」

 そう告げ黒白は一度荷台から降り、さっき拾ってきたトラックの鍵を使い運転席に乗り込んだ、中には人もヤツらも居らず、安全ではあったが、車内は黒白の嫌いなタバコの臭いが充満していた

 黒白は灰皿その物を遠くに投げ、音が聞こえるとトラックのエンジンを掛け、音に反応し集まって来るヤツらを跳ねながらトラックを動かした、しばらくするとヤツらの足ではトラックに追いつく事は出来ず、ヤツらの姿は次第に無くなり、黒白にとっては一時の安らぎだった。

 そして目的地に着くまで窓を締め切った状態で、自身のスマホからGLを開き好きなVlineブイライン(Vlineとはバーチャル体を通じて活動している人たち)の曲を聴きながらトラックを走らせた、しかしその曲の音声は結月、凛香、瑠奈にとって聞き覚えがある歌声だった、音量は黒白自身に聴こえる位にしていたが、微かに荷台にいる結月達にも聴こえてきており、それを聴いていた将太や明子それに辰巳の三人もその曲を聴き、一時の安らぎを得ていた。

「この曲すごく良い、曲だね、なんて言うんだろう」

 将太は嬉しそうに言っていた、結月・凛香・瑠奈の三人は、少し寂しそうに、だけどどこか嬉しそうにしながら。

「そうだね、この曲はすごく良い」

「うん、優しい曲だ」

「だけど、どこか懐かしいね」

 呟いていた、それを聞いていた辰巳もまた、静かに頷いた、明子は疲れていたのか少し横になり眠っていた。

 十分程トラックを走らせると、T字路にぶつかり、左に曲がると、以前は空地だった所に二~三十台、いやそれ以上の車がそこに止まっていた、黒白はそのままトラックを走らせ、中学校の校門前まで何とか向かう事が出来た、校門を超えた先には何人もの生存者の姿が確認でき、トラックを止め、降りた後にふと右側にある下り坂を見るとそこにはヤツらに襲われている人の姿があった、校内にいる人々や校門前にいる人はそれに気が付いていない、黒白は急いで襲われていた人の元へ走り出した、その様子を見ていた結月達に黒白は。

「何が起こるか分からないから、あんた達は荷台にいてくれ!辰巳さんはこれを!」

 黒白はそう言いトラックのカギを投げ渡した、それを受け取った辰巳は運転席に乗り込み何時でも動ける用意をしていた。


 黒白が海斗と別れてからすぐの頃、海斗に加藤、和田の三人は黒白の無事を確認したのち、すぐにその場から離れ、近くにあるコンビニに姿を隠した、海斗達が乗っていた車も給油口からの火災に巻き込まれ使い物にならなくなってしまい、どうしようかと悩んでいたが、次第に他の車や近くにある建物に引火していき、あたりは炎に包まれ、やがては海斗たちがいるコンビニにも炎が迫って来る勢いだった、その為三人は必要最小限の物だけ手に取り急ぎ、その場を離れた。

 ふと背後を見てみると、そこには燃え盛る炎とそれに巻き込まれたヤツらが燃えている姿がそこにはあった、黒白はと言うと火災が発生している頃には既に移動していた、駅の方で警察車両から取った物を見ている頃だった、そうなっている事を知らない海斗達三人は黒白の事を心配しつつも、自身たちの事を第一に考え走っていた、およそ一キロ程走り、三人とも息が上がって来たところで一度立ち止まり、周囲に隠れることが出来ないか、安全そうなところが無いか探しながら歩いていた。

「何とか黒白のおかげもあって生き延びる事は出来たが、あんな火災に巻き込まれるのは予想出来なかったな」

 海斗が安堵あんどしながらそう言うと。

「本当にそう、あの人のおかげで助かったけど、あれはちょっとね」

「今こんなこと言ったダメかもしれないけど、正直少し楽しかったかも」

 和田と加藤も胸を撫で下ろし、そう言うと海斗が。

「たしかに」

 と返し三人は静かに笑っていた、しばらく笑ったのちに三人は、近くにある別のコンビニの中に入り、ヤツらがいない事を確認してから、一度休息を取りつつ、避難場所までのルートを決めることにした、コンビニ内を見ながら何か、武器になりそうな物が無いか、探していたが使えそうな物は特になく、途方に暮れていたが、加藤がふと。

「そういえば、アルコールで火が付くのって何度からだっけ?」

 呟き、それを聞いていた海斗は、度数が高い酒なら火が付くことを思い出し、酒のある棚に向かい、度数の高い酒をいくつか持ってきた、そのあとに空き瓶を用意し、その中に半分ほど、度数の強い酒を入れてから、一つ一つ布を入れて行き、一人三本ずつ持つのが限界だったが、何とか自衛するすべを見つけたのだった。

 その後三人は、裏路地を通っていくのは危険と考え、国道の方から中学校まで向かう事にしたのだった、しかし国道の方はいくつもの車がひしめき合い、どこにヤツらがいるか確認しにくい状態だった、中には車内で発症したのか、ヤツらとなっている人、何とか車から出て海斗たちの方に走って来る生存者、橋の上から川に飛び込む人と様々だ、しかし海斗たちはその国道を通り、そして橋を渡らない限り、中学校までたどり着くことは出来ない、両端りょうはしはヤツらがいる事もあり、通行は不可、しかし中央の道路は車が何台もあり、とても通ることは出来ない……

 海斗達はどこを進むか悩んでいた、そのまま道路を進んでいけば、ヤツらに襲われ命を落とす可能性がある、だが車の上を進んで行くとすれば、足元には気を付けなければいけないが、何とか進むことは出来そうだった。

「二人とも、車の上からなら向こうに行けそうだ」

 海斗は一足先に上に上り、安全を確かめてから、加藤と和田の二人にそう声を掛けると、二人は頷いた後に、海斗はまず和田の事を引き上げ、そのあとに加藤の事も車の上に引き上げ、三人は足元と周りに警戒しながら、一台一台飛び越えて行き、海斗たち三人の姿を見ていた人々は、真似をしつつ三人の後について行った、海斗は途中で何人かが自分たちの後を着いて来ている事に気が付いていたが、自分たちの守りだけで、他の人の事を見ていられないと感じた事もあり、海斗は和田と加藤の二人が道路に降りてすぐに移動を始めた、海斗たちが渡っていた橋から、4キロほど歩いた距離に中学校がある。

「ここまでくれば、あと少しだな」

 二キロほど歩いて、ガソリンスタンドの近くまでやってくると、とても三人では対処できないほどのヤツらが数台のバスを挟み、大量にいる事を発見し三人は絶望していた……

「なんだよこの数、どうなってんだよ」

 幸いにも奴らは海斗達に気が付いている様子はなかったが、それもおそらく時間の問題だろう、背後からは海斗たちの後をつけている人達、そして正面にはヤツらの大群が待っている、だが海斗はもう一つルートがあることを思い出した。

 少し引き返した後に、三人は左側にある、車が何とか一台通れる路地に入って行き、ヤツらの大半は先ほどの場所に出ていたのか、路地の方は数体のヤツらは居ても、何とか自分達で対処できる範囲の数だった、しかし三人はまだ、一度もヤツらを倒した事が無い、それは今まで黒白が彼らの心を守ろうとやっていた事だ、だがここに黒白は居ない、海斗達自身が行動を起こさない限り、彼らはここで命を落とすだろう、海斗はすぐそばに工事現場があることに気が付き、そこでシャベルを見つけた

 海斗は住宅街で火を使うのは危険だと判断し、シャベルを持ち進み出した、幸い裏路地からであれば中学校まで、少しは早くたどり着くことが出来るので、三人は慎重しんちょうに周りを警戒しながら進んで行った。

 しばらく歩くと一体のヤツらに気づかれたが、海斗は黒白に言われた事を思い出し、シャベルをヤツらの頭部目掛けて振り下ろした、そのおかげもあり、海斗達は襲われる事なく難を逃れる事は出来た、海斗自身、自分の意志でヤツらを倒したのは初めて、しかしその感触は思い出したくない程異様なものだった。

「黒白のやつ、どれだけ我慢してんだよ」

 不機嫌そうに小声で呟くと、海斗達を付けて来た一人の女性が。

「ひどい!何をしているの、あなた達!」

 声を上げたことにより、周囲に潜んでいたヤツらが姿を現し始めた、それを見た海斗は、大声で

「走れ!」

 叫んだ、走り出した時に加藤が

「今の状態だったら、さっき作った火炎瓶を投げたり、近くにいるヤツらだけ倒せば良かったんじゃない?」

 焦った様子で聞いてきたが、海斗はすかさず

「それは無理だ、あれだけ声を出されて、しまいにはあんなにヤツらがいるとは思っていなかった、囲まれた瞬間に俺たちも終わりさ」

 そう返した、それを聞き加藤は

「そっか」

 一言だけ返し速度を上げた、海斗達の後ろではヤツらに襲われ悲鳴を上げる者、何とか海斗達に追いつこうと全力で走る者、来た道を逆走し、難を逃れようとする者と様々だ、しかしヤツらの数も多く、中学校が見えて来る頃には数十体は居た、最後の坂を上ろうとしたその時、一つの影が海斗を横切った、その影は加藤と和田を通り越し、先頭にいたヤツらの頭を長い棒のような物で殴り倒していた、倒している数は時間を追うごとに増えていき、その影の人物に疲れが見えてきた時に、今度は海斗の後ろから何かが飛んできた

「黒白君、これを!」

 何かを渡した男の正体は黒白と共に避難してきた辰巳だった、そして辰巳が何かを投げ渡した人物は、数時間前に海斗達と別れた黒白だった、黒白は辰巳から渡された、瓶に火をつけ先頭にいるヤツら、中間にいるヤツら目掛けて火炎瓶を投げつけた

 ヤツらに火が付いた数分後に、この光景を見ていたのか、校内から一台の消防車が出てきて、火がついているヤツら目掛けて放水した、放水の勢いや火が付いた事も影響し、ヤツらの大半は倒せたがまだ動いてるのがいた為、黒白は動いていたヤツらを一体一体仕留めて行った、全てに止めを刺し終えた当たりでようやく人が出て来た、その中にいた大柄な男性が黒白達の元に駆け付け

「君たち大丈夫か!」

 心配した様子で聞いてきた、最後の一体を仕留めた際に黒白が持っていた包丁が折れてしまい、そのままにして行こうと思い、身体を起こすとヤツらが一体起き上がり、海斗を襲おうとしていたので、咄嗟に折れた包丁のを持ち、それをヤツら目掛け投げつけた、刃は丁度ヤツらの頭に突き刺さり、間一髪仕留かんいっぱつしとめることが出来た、息を切らす黒白を尻目に、それを見た大柄の男は

「すごいな」

 と呟き、関心していた、海斗は男性には目もくれずに、黒白の元に近づき。

「よく、生きてたな」

 黒白の無事を確かめつつ声を掛けた、黒白もそれに対して。

「そっちこそ」

 黒白はまだ息が切れていたが、彼も安心している様で、二人は音が響かないように、そっとハイタッチをした、そして海斗の後方に目をやり。

「加藤と和田もよく無事で」

 声を掛けると、二人は少し照れくさそうにしながら。

「そっちこそ」

「うん、無事でよかった」

 答えた、その後四人は坂を上り切り結月達と合流した、結月達は校内から出て来た人達に自分たちがどのようにしてここまで来たのか、自身の名前やどこに住んでいるかと色々な事を聞かれていた、そして黒白達も彼女たちの元に歩いて行くと、聞き取りを終えた辰巳が黒白の元に近づいてきた。

「辰巳さん、先ほどは助かりました。ありがとうございます。」

 黒白がお礼を言うと。

「いえいえ、私も黒白君には助けて頂きましたし、ここまで連れてきて頂いたので、あれくらいどうという事は無いですよ」

 そう言い、立ち去る際に黒白に一礼してから彼は校内に入って行った、そして最後に黒白達が校門前の男性に話しかけようとすると、背後から先ほどの大柄な男性が話かけてきた。

「お前たち、良く無事だったな、黒白に海斗、それに麗奈れいな芽衣めいも四人とも無事で安心したぞ」

 背後を見るとそこにたっていたのは黒白達が在学していた際に、男子体育を受け持っていた教師の大道守だいどうまもるだった、因みに麗奈は加藤の、芽衣は和田の名前である。

「あー、なんつーか、大道先生お久しぶりです」

 海斗はそう言ったが、黒白は早々に聞き取りを終え、静かにこの場から逃げようとしていた、加藤と和田の二人も急いで聞き取りを終え、苦笑いを浮かべながら急ぎ逃げて行った、大道が海斗以外の三人にも話しかけようとすると、三人の姿は既にそこには無く、海斗一人を置いて居なくなっていて、海斗は仕方なく大道の相手をすることにしたのだった。

「あいつらぁ、覚えてろよぉ」

 海斗はまさか三人とも逃げるとは思っておらず、何らかの方法で借りを返してもらおうと考えるのだった。

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