第3話 「 悪戯・覚悟」

 海斗に大道の事を押し付けた、加藤と和田の二人は昇降口に向かい、何か手伝える事はないかと聞いていたが、ようやく安全なところに来れたのだから、ひとまず休むようにと言われ、他の避難してきた人達もいるからという事で体育館へと通された。

 そこには、五人家族が何とか横になれるスペースを取り、どうにか過ごしている状態だった、だがそこには彼女達の知人や家族も居て、ようやく再開を果たし互いに涙を流していた。

 黒白はと言うと、一人剣道場へと向かっていた、そこにある男子更衣室には、数年前から開かずのロッカーが存在し何をやっても開かないロッカーがあるのだ、それは何年も前からあると言われているのだが、そんな事は無く黒白と海斗の二人が簡単には開かないように細工をしたロッカーだった、中には二人が愛用していた木刀などが入っており、黒白自身、世界がこんなことになってから、開けることになるとは思っていなかった、黒白は一人で剣道場に向かっていると、そこでは何やら騒ぎが起こっていた、黒白はそれに気が付き、入り口にいる女性に話を聞いてみた、その人によると。

「剣道場は今、負傷してしまった人を、柔道場では病気の人の面倒を診ているんだけど、少し前に来た怪我人が、診て欲しくないって暴れて、一人の少女を人質に取り男子更衣室に立てこもってしまったの、それで……」

 との事らしい、怪我を診て欲しくないと言った理由を考えてみると、可能性があるのは二つ、一つは軽いけがの為、見る必要性が無いという事、もう一つはヤツらに噛まれここまで避難して来た可能性だ、そうだった場合であれば、外の現状を見ているのだから自身がどうなるか、ある程度の予測は付いているだろう、だがどうすることも出来ずに現状に至るのかもしれない、黒白は事情を教えてくれた、女性に一言。

「ありがとう」

 とだけ伝え自身は剣道場へと向かい、周囲にいる人たちを押し退け、更衣室の前に向かった、周囲からは。

「危ない」

「誰かが何とかしてくれる」

「放って置けば良い」

「ばかばかしい」

 などといろんな声が聞こえてきたが、黒白はその言葉に一切聞く耳を持たずに突き進み、更衣室の前に到着してから、何とか開かないか試してみたが、何かが引っ掛かっているのか、扉はビクともしなかった、すると中から。

「俺は絶対にここから出ないからな、もう外に出るのはごめんだ、あんな恐ろしいところ」

 強張こわばった様子で話してきた、それと同時に幼い少女が泣く声を中から聞こえてきた、中からは、先ほどの男がその少女に向けて。

「ごめんなぁ、こんな事に巻き込んじまって」

 謝罪する声も聞こえて来た、黒白はそれを聞き、根は悪い人では無いのだろうと確信を持っていた、そこで黒白は先程、ここに避難して来た事、ここに来るまでの事をつまんで話した、そして。

「なぁ頼むよ、その子だけでも開放してくれないか、あんたの事情も分かる」

 そう頼むと男性は。

「この子を開放するのは構わない」

 了承したすぐ後に。

「だけど、せめて人として死なせてくれ、俺は、俺は……」

 と言い残し言葉は途切れた、この時中で何が起こっていたのかは分からない、しかし嫌な予感がした黒白は少女に、更衣室のカギの開け方を教え、中から自身でカギを開け出て来てもらった、中にいた男は腕から血を流し床に倒れていた、しかし腕はかすかに青白くなっており、ヤツらに近い部分があった、黒白の後ろにいた女性が男の事を診に行こうとした、その瞬間、男……いや、ヤツらは立ち上がり、正面にいた女性に嚙みつこうとしていた、黒白は咄嗟にその女性の服を後ろに思いっきり引っ張り、事なきを得た、その後黒白はヤツらを蹴り飛ばし、倒れたその瞬間に

「すまない」

 呟き、警棒を振り下ろした、その刹那せつな、倒れたヤツらの口が

『ありがとう』

 そう言うかのように動いて見えた、それに気が付き、黒白は強く自分の唇を悔しそうに嚙んでいた、その光景を見ていた人たちは皆、黒白のした事に対して非難するかのような眼差しで見る者、その光景に驚き気を失う者、あまりの残虐性ざんぎゃくせいにトイレに駆け込む者、そして叫び声を上げる者がいた、その声を聞き体育館にいる人たちと、近くにいた海斗そして大道が剣道場に駆け込み、惨状を目の当たりにすると、他の人達は黒白以外の周りの人達に事情を聞く人、介抱する人も居た、すべての非難の眼差まなざしが黒白に集まっていたが、海斗だけは違った、海斗は倒れているヤツらの姿を確認して直ぐに。

「この人も変わったのか?」

 黒白に確認を取ったが、黒白は話す気力が残って居なかったのか、静かに頷いた、その反応を見て海斗は。

「わかった、俺と先生で何とかしておくから、お前は少し休んで来いよ、あの場所なら誰も来ないだろうし……念のため、手は洗っておけよ」

 優しく声を掛けると、黒白は。

「ああ」

 素っ気ない返事をし、すぐ傍にある男子トイレで手を洗い、自身の手に着いた血を落とした、その後この中学校に通っていた時に、サボり場所として使っていた屋上に向かおうと思い男子トイレから出ると、黒白が中学校に避難して来たと聞いた一人の元クラスメイトがヤツらの真似をし、黒白に背後から襲いかかった、黒白は咄嗟とっさに背負い投げをし、廊下に叩きつけ、直ぐに隠し持っていたナイフで切りかかろうとしたその瞬間、その元クラスメイトと一緒に来ていたもう一人の元クラスメイトが、危ないと思ったのか

「悪かった、待ってくれ!」

 焦った様子で声を掛けられ、黒白はナイフを喉元のどもとで止めた、黒白の下敷きになっている、元クラスメイトは灰田達也はいだたつや、止めに入って来たのは波田大はだだいと言う、達也は馬乗りになっている黒白に対し

「ほんの冗談だってのに、何マジになってんだよ、刃物まで持ち出しやがって」

 一切悪びれる素振りを見せず、話していたが黒白にとってはそうではない

「冗談?ふざけんじゃねえ!今度また同じ事をしてみろ!その時は確実につぶす……」

 外の現状を知らずに、このような行動をした二人にいきどおりを隠せずに怒鳴どなっていた、黒白は服を掴んでいた手を離すと、少しだけ浮いていた達也の頭部は廊下に着き、怪我するほどではないが鈍い音がした、そして黒白の怒鳴り声を聞き、再び人だかりができていたが、黒白は疲労よりも怒りが頂点に達していた事もあり、これ以上手を出さないように、そして頭を冷やす為に、人々を押し退け一人で過ごせる場所へ向かっていた

 その頃、海斗と大道は黒白が怒鳴っていた事に対して、達也と大の二人に話を聞いていた、そしてその中にもう一人、辰巳の姿もあった、理由を聞いていた三人は、二人の理由に落胆らくたんし周りにいた大人達は、子供の悪ふざけかと思っていた様子で、また大道も似た反応だったが海斗と辰巳の二人は違った

「なぁ先生、それに灰田と波田の二人もなんだが、俺たちは黒白に助けてもらったんだぞ、それなのに、周りの人たちもお前らもあんまりじゃないか」

 海斗があきれた様子でそう言うと、周りの人たちは何を言っているんだと言いたげな、様子だったが辰巳がすかさず

「そうですね、彼が動いていなければ全員とまでは言いませんが、少なくても数人は確実に死んでいたでしょう、それにあなた方二人が黒白君にした事は許される事ではありません」

 静かに怒っていた、この場所に既にいた者やパンデミックがおおやけになる前に避難して来た人達は外の状況を知らない、そして負傷者や病人も避難する前から、病気だった者やこうなる前から、負傷していた者が大半だ、だが全てではない、実際に黒白の行動を見ていた負傷者の中には彼の事を気遣きづかう人、心配する人そして自身が手を下すべきだったと後悔する人もいた、その人達はパンデミックが広がってから避難し、その道中ガラス片で切ったり、高いところから飛び降りた際に負傷した人達だった。彼らはヤツらから、逃げていたこともあり、ヤツらを倒さない限りどうなるか分かっていたからだ、だが大道はその事を聞いても、教師であるが故か、達也と大の二人を庇おうとしていたが。

「先生、俺たちは自分たちの高校から、ここまで避難して来たんだ、だからヤツらの事は先生たちより知っている、一度でもヤツらに噛まれたらどうなるか、何に反応するかとかね」

 穏やかな口調で言っていたが、辰巳から見ても気が立っているのは明らかだった、海斗は自身の手を力強く握りしめ、決して怒りの表情を表に出さない様に必死に耐えていた、そんな状態の海斗を辰巳はなだめ、大道は必死にこの場をどうにかしようと考えていた時。

 外から数人の男達の声が聞こえた、その男達は外が安全か確かめに偵察に出ていた人達で中には自衛官や消防士の人もいた、その中に身内がいるのだろう、黒白の事を陰で批難していた人の中から、数人の女性が帰って来た人達の元に歩み寄り、今起きている事を全て話した。

 すると男性たちはそこに居た人たちの安否を確認し、次に誰も噛まれていないかどうか確認をしていた、数分後、全員無事だという事を確認すると、男性たちは安堵した、そしてその中の一人が。

「こんな事を言ってはなんだが、俺たちがいない間に対処してくれた学生には本当に感謝だな」

 こぼしていた、その言葉を聞き、達也に大、大道そして黒白の事を批難していた人達は皆驚いていた。

「どうして?あの子は人を殺したんだよ、それにあそこにいる学生だって殺されそうになっていたんだよ!」

 一人の女性がそう声をあらげると、男性達ではなく、海斗が口を開いた

「あいつが倒したヤツはもう人間じゃあない、一言でいうなれば、言葉の通じない殺人鬼と同じ………いや、それ以上に恐ろしい存在だよ、それに殺されそうになったのは、あの二人の自業自得だ、俺もあいつも外からここまで命懸けで逃げて来たんだ、それなのにあんなことをするのは人としてどうかと思うし、仮にあいつがどちらかを殺していたとしても、あんた達は文句を言う事は出来ないと思う・・・俺もあいつも自分や周りに居た人たちを救うので必死だったから」

 それを聞いていた周りの人たちは、何も言い返す事が出来ずにいた、そしてそれを聞いていた男性も海斗に同意し。

「たしかに君の言うとおりだ、俺たちも今さっき外をあらためて見てきたが、あれはもう悲惨ひさんの一言で言い表す事が出来ない、それにかつての知人もあそこで倒れている彼の様に人を襲う何かになってしまった、たった一度噛まれただけというのにも関わらずにだ……そんな中、君たちは仲間を守りながら逃げ延びた、ここに居ない君の友人も君も、すごい事をしたんだ、誰かが批難して良い事では無い……その上、外から命懸けで避難して来た、学生にして良い悪戯いたずらでも無い」

 そう周りにも釘を刺していた。

 そんな中黒白は、一人になるべく屋上に向かっていたが、先ほどの大声を聞いたのだろう、剣道場の方に向かう人達とすれ違い様、かつての同級生達を見掛けたが、なんと声を掛けたら良いのか分からず、そしてその同級生達に何を言われるのか分からないという恐怖もあり一人屋上へと向かった、本来ならば屋上の鍵は完全に閉ざされており、開ける事は敵わないが、黒白は在学中に複製を作っており、それを使って扉を開け外へ出た。

 そこから見える景色は以前とは違う、空は青かったが、ふと住宅の方を見るとヤツらの姿があり、いくつかの場所では火の手が上がっていた、場所を見る限り中学校まで火の手が来る事は無いだろうが、その代わりにいつヤツらがここまで来るかは分からない、しかし黒白はこの場に留まるかどうか悩んでいた、それもそのはず、見返りを求めていた訳では無いが、批難されるとは思っていなかった事、何よりあんな質の悪い悪戯をされるとは思っていなかったからだ。

「親父たちがどうなっているかも分からないし、ここに居る理由も特に無いんだよな……まぁ、あの三人の無事が唯一気掛かりではあるが、俺とは所詮しょせん、他人だしな」

 黒白は一人、今後どうするかを考えていた……しばらくの間何も考えずに、ぼんやりしていると、スマホの着信が鳴っていた、画面を見てみると桐山悠翔きりやまはるとと表示されていた。

はるさん……」

 世界がこうなる前に同じVrainnのファンだったこともあり、何度か交流していた事から、連絡先も交換していた、そして黒白自身も彼の安否が気になっていたこともあり電話に出た。

「もしもし」

 暗めの声で電話に出ると。

「黒さん!」

 安心感そして焦りや不安が混ざっているような様子だった。

「悠さんは無事?俺は何とか無事だけど」

「俺もなんとか無事だよ、何とか安全なところに避難する事が出来たからね……そっちは?」

「まぁ俺も今は避難所に居るけど、少ししたら出ていくつもり」

 それを聞き悠翔は驚いていたが、黒白はすぐに。

「ここに居ても、きっと……」

 そう言いかけると、悠翔は。

「そしたら………東京に来てみる?かなり危険な旅になると思うし、道中何が起きるかは分からないし、黒さん次第になってしまうけど」

 黒白の事を心配し、そう提案してきた、黒白は東京まで行く事を真剣に考えていた、あちらには悠翔の様に交流があり、こちらより信頼できる人が多くいるからだ。

「それもありかな……少なくてもここよりはマシかも」

 黒白はここに避難してくる間に、たくさんのヤツらを倒してきた、そして先程は変異したばかりのヤツらも倒した、意識が微かに残っていたのかもしれない、そう考えると黒白の心は壊れてしまいそうだった。

「時間はかかってしまうと思うけど、いずれそちらに合流させてもらいます。それまで悠さんもどうか生きてください」

 黒白は最後にそう言い通話を切る寸前すんぜんに悠翔は。

「黒さんもだぞ!絶対に生きて再開しよう!」

 と言ってくれた、それを聞き黒白は聞こえないと分かりつつも。

「ええ、必ず」

 返し、屋上から下の階へと移動して行った、移動する少し前に彼はDXディクスでヤツらの対処方と、万が一噛まれた時の行動をDXディクス上に上げた。

 黒白が柔道場まで移動するとそこには変わらず人混みがあり、中心の方では未だに言い争いが続いていた、それは黒白のした事を擁護するべきではないという事に続き、ヤツらを倒すのはいけない、または倒すべきと言う内容だった、それは黒白が体育館下の廊下を降りている時に聞こえてきて、黒白は聞こえて来た内容にあきれていた、万が一にでも謎の感染症に効くワクチンが存在するのであれば倒すことは無いだろう、現状は倒す事以外に方法は見つからず、こちらが動かない限り、残って居るのは死のみだ。

 これから生き延びるには時には戦い、時には逃げ、奪い、隠れる、それしかないのだろう、今までの平穏は無くなってしまった、そう考えるほか無いだろう、黒白はそんな事を考え、自身の心の一部をおおい隠した、そして一番後ろに居た男の襟元えりもとを強く引っ張り、一言

「邪魔」

 言い放った、すると男は咄嗟の事だった事もあり、後ろに倒れた男を黒白は横目で見るとそいつは先ほど、黒白に悪戯いたずらをしてきた二人組の片割れで達也だった、彼は驚き咄嗟とっさに。

「うわぁ」

 声を上げた、その場に居た人々はその声に反応し、彼の方を見た瞬間、黒白が戻って来たと思ったようだが、黒白は自身の用を果たすために、一本のバールを持ってそこに来ていた、海斗は黒白の手元にあるバールを見て。

「どこから、持って来たんだよ」

 聞いてきたが、黒白はそれにも一言だけ。

「用務員室」

 と答え、迷わず男子更衣室にある、開かずのロッカーへ向かった。

「今更、鍵なんか必要無いよな」

 そう呟き、無理やりロッカーを開けた、そこには二本の木刀が閉まってあった、二本の木刀の柄頭つかがしらには、黒白と海斗の名前が書いてあり、黒白は自身の名前が書いてある物を、そしてもう一本は海斗に渡した、すると黒白は何も言わずに外に行こうとしていたので、海斗は黒白の手首を掴んだ。

「なんだよ、海斗その手離せよ」

 黒白は不機嫌そうに言うと、海斗は何か察したのか。

「お前どこ行くつもりだよ……まさかここから出ていくつもりか?」

 心配そうに聞くと

「だったら、どうするんだよ……俺は、ここまで来るのに何体もヤツらを倒して来た、海斗、お前はともかくさ、俺たちより先に避難していた奴らに何が分かるっていうんだよ、殺らなきゃ殺られる、そんな世界に変わっちまったんだ、いい加減学べよ」

 声を荒げた、海斗の手を振り解き、黒白は先ほど倒した、ヤツらを担ぎグラウンドに向かった。

 そして、人目につかない所まで向かい、遺体をおろすと、持って来ていたマッチに火を付け、燃やした………

 黒白が何をするのか気になり、何人か着いてきており、海斗、辰巳、大道、さらには黒白を探していた、結月、凛香、瑠奈、そして最後に外に偵察に出ていた人達も居た、彼らが黒白の様子を見ている中、黒白は一切気にすることなく、その遺体に手を合わせた。

「今まで倒して来た、すべてのヤツらに出来るわけじゃない、だけど安全な場所に居れる間くらいは、手を合わせても良いだろう……今までみたいに墓に入れてやる事すら、難しいんだから、せめてこれくらいは、させてくれ」

 そう言う黒白の声は少しだけしゃがれた声であったが、どこか覚悟を決めた声でもあった、黒白の姿を見て、着いて来た面々も手を合わせており、全員が顔を上げると黒白は、海斗や結月達に、先ほど決めた事を告げた。

「ある程度、準備が出来たら、俺は東京に向かおうと思う、辰巳さん、それにあんた達はどうする?一緒に行くのだとしたら、ヤツらを倒さないといけない状態になる事、それに長い旅になると思うけど」

 すると真っ先に凛香が。

「着いて行きたい気持ちはあるけど、叔母さんが心配」

 心配そうに呟くと、黒白は

「そしたら、その叔母さん達の安否を確認してから向かうってのはどうだ?俺もまだ準備が済んだわけじゃないから、終わり次第動くことになると思うし、それか近くに住んでいるのだとしたら、準備をしながら探すことも出来ると思う」

 先程とは違い、穏やかな口調で話すと凛香は。

「わかった、この辺りの土地勘は無いから、後で叔母さんの住所を教えるね、だから……」

 不安そうに返答し、黒白は先程と同じ口調で。

「大丈夫、必ず見つけ出す」

 返答すると、結月と瑠奈の二人は。

「私もお母さん達に会いたい、だから!」

「うん、私も家族に会いたいもの」

 決断していた、そんな中、辰巳は何やら思い悩んでいた、それを見ていた黒白は。

「辰巳さん、俺は旅支度をする為に一度、自分の家に向かうつもりです。帰って来るのにどのくらい時間が掛かるか分かりません。その際に場所次第にはなりますが、大野さんの叔母さんの家の近辺にも向かうつもりです。だからもしも悩んでいるのであれば、俺が帰って来るまでに決めてください、その決定がどんなものでも、攻めるつもりはありません」

 落ち着いた様子で話した、その様子を見ていた海斗は、いつもの黒白に戻ったのだと、安心している反面、少しショックを受けていた、黒白と海斗は長い付き合いだった事もあり、自身に何も相談せずに決断した黒白に対して、流石だと思いつつもどこか、やりきれない思いがあった。

 実際に黒白は過去に周りから受けた仕打ちにより、他者の事を信じるのが難しくなっていた、そのため黒白は何か決断する際は親にも相談することなく決めて来た、それにともない周囲は彼の事を大人びた青年だと思い、本当に理解してくれている人は居るのだろうかと、黒白自身考える事もあったが、海斗としては何故自分に相談してくれないのか、自分にも、少しは黒白の抱えているモノを背負わせて欲しいと思っていた、しかし黒白はつねに誰にも相談せずに決め、自身の道を進んでいた。

「なぁ黒白、本当に行っちまうのか?」

 海斗の問いに黒白は一言。

「ああ」

 とだけ答え、海斗はすぐさま。

「なんで、せめて俺くらいには相談してくれても良かったんじゃないか?」

 少し苛立いらだった様子で返答したそれに対して黒白は。

「相談したところで俺の意志は変わらない、それに俺は今回もあの時も、俺の事を切り捨てたあいつらを信用する事は出来ない……俺が、前に絶望していた時に手を差し伸べてくれた人たちは別に居た、実際に会った事がある人も居るが、彼女達と……あの時会った人たちのおかげで今の俺がある、だから俺はその恩にむくいたい」

 そう告げた後に続けて。

「前にも言ったろ、恩には礼を、礼にも礼を、そして仇には仇をってさ、ただそれだけだ」

 そう言うと海斗は、納得したのかはさだかではないが。

「そうか……俺も少し頭を冷やしてくるよ」

 と言いその場を後にした、そして黒白の先ほどの言葉を聞いて、結月は何かに気が付いていた様子だった、それは以前GL内にて黒白が打ったコメントだったからだ。

 あの時彼女は、気分が落ち込んだ状態が長く続いていたこともあり。精神的に病んでいた時に『黒』と言うユーザーから『恩には礼を、礼にも礼を、そしてあだにはあだを』と言われ、それに付け加えて、とても感謝している、ずっと応援していると、彼からは勿論もちろん、その他にもたくさんのユーザーから元気をもらい、前に進む活力としていた、そして自身を応援してくれているユーザーの一人が目の前にいるのだ、それに驚かないはずが無い、だが彼女はその事実を静かに飲み込んだ、凛香と瑠奈の二人は結月の言動に気が付いていたが、二人もなんも言わずに彼女の事を静かに見守っていた。

 その頃、海斗は一人、昇降口まで歩きながら何故自分には相談してくれなかったのか、頼ってくれなかったのか、そんな事を考えていた。

「海斗さん!」

 その時、前の方から聞きなれた声が聞こえて来た、海斗が下を向きながら歩いていた事もあり、気が付かずにいると再び。

「海斗さん!」

 声を掛けた、そして海斗はその声に気が付き顔を上げると、そこに居たのは黒白の弟で不破漆夜ふわしつやだった。

「漆夜!無事だったか!」

 海斗は黒白の弟の無事と再会を心の底から喜び、互いの無事を確認していた。

「海斗さん無事で良かった」

「漆夜お前も無事だったんだな」

 二人は再開出来た喜びを、噛みしめていた、そして漆夜は海斗に。

「海斗さん、兄さんは?」

 兄の心配をしていた、海斗はグラウンドの方を指差し。

「あいつなら向こうにいるよ、俺もあいつも無事だよ」

 居場所を教えると漆夜は、嬉しそうに。

「ありがとう!」

 お礼を言いグラウンドの方に走って行ったが、漆夜は黒白がすぐ傍まで、来ていた事に気が付き、足を止め待っていたが、ふと視線を落としたその時、黒白の手が血で汚れていることに気が付き、驚きを隠せないでいた。

「兄さん……その手は?」

 黒白は、心のどこかで不安があるにも関わらず、平然とした様子で。

「ちょっとな……それにしても、よく無事だったな」

 そう言い、漆夜の頭を撫でようとしたのだが、血で濡れた手を見て、その手を引っ込め、少し寂しそうにしながら、弟に手を振り、その場を後にした、そんなどこか寂しそうな兄の後ろ姿を見ながら、ここまで頑張って避難して来た、兄に対して掛けられる言葉が出なかった事に対して、自分自身に僅かではあるがいきどおりを感じている様子だった

「海斗さん、あれって本当に兄さんなんだよね」

 黒白の後ろ姿を見ながら、漆夜は海斗に確認して見たが、海斗の反応は、少し心配そうに黒白を見つめながら。

「ああ、あいつはお前の兄貴だよ、だけどさ、あいつもここに来るまで、大変な思いをして来たんだ、だから……」

 答えたが、海斗自身もどこかやりきれない思いがあり、不安そうな声だった、そして二人は黒白の背中を眺めていた。

 そんな黒白は二人と別れ、遺体を運ぶ際に付着した血液を洗い流すために、柔道場の傍にある水道まで来ていた、大半の人たちは黒白の行為を批難していたが、黒白と同様に外から避難して来た人々からすれば、感謝しかなかった、自分達がまともに動くことが出来ず、手を下す事は出来なかったが、変わりに黒白が手を下してくれたからだ、しかしその反面まだ、一人の学生である黒白に、重荷を背負わせてしまったのでは無いかと申し訳ない気持ちもあった、そんな中、先ほど黒白に助けてもらって少女が、手を洗い終えた黒白の元に行き、一枚のタオルを差し出していた、それに気が付いた黒白は、そのタオルを受けとり。

「ありがとう」

 優しく伝えると、少女は首を横に振り緊張した様子で。

「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう」

 感謝を伝えてくれた、そして少女の後ろを見てみると、その子の両親と思える二人が立っていて、その二人も黒白の元に駆け寄り。

「娘を助けてくれて、本当にありがとうございます」

 頭を深く下げ、その様子を見ていた少女ももう一度。

「ありがとう」

 感謝を伝え、頭を下げていた、黒白はその様子を見て。

「頭を上げてください、俺に出来る事だったからしたまでです。怖い思いをしたでしょうから、少しでも安心させてあげてください」

 嬉しい気持ちもあり、声を掛けた後に黒白はタオルを受け取ったことを思い出し。

「怖いのをよく我慢できたな、偉かったぞ、それにこのタオルも、ありがとな」

 少女の頭を撫でお礼を言った、そして黒白はきびすを返し、校門まで向かった。


 校門に向かうと、グラウンドから帰ってきた結月達と鉢合わせた、そして外に行こうとしている黒白に気が付き、みんな黒白の元に駆け寄って来た。

「黒白、どこに行く気だ?」

 大道は外に行こうとしている黒白に詰め寄りそう聞くと、黒白はすぐに。

「ちょっと外に行ってくるんだよ、あんたには関係ないだろ」

 突き放すように言い、黒白は伸びていた大道の手を振り払い、続けて

「なに、今日中には戻ってくるさ……まぁ難しそうだったら、明日には戻って来るとは思う」

 そう言いどこか冷たい目をしていた、その後に黒白は自身が武器以外持っていないことに気が付き、一度校内に入り、二階にある一年生の教室に向かった、生徒の教室は体育館に人が入りきらなくなった際に利用するようにしているらしく、まだどこの教室も空いて居た。

 だがそれもまた時間の問題だろう、日に日に避難者は増え続け、数日後にはこの学校だけで避難者を収容できるかどうかは怪しいところだ、ゆえに少しでも早く避難できる場所を増やすか、どこか別の場所に避難できるのであれば、そうするのが賢明けんめいだ、しかし現状、避難場所は限られている、すぐ傍に小学校もあるが、そこも安全かどうかは全く分からない、であればどうするか、少しでも物資を集め生き延びる選択肢を増やすほか無い。

 黒白はそれを考え一人物資を取りに行くことにした、手始めに必要なのは医療道具、消毒液や包帯に薬等、そして食料や水、今はまだ足りているが今後、足りなくなる可能性が高いからだ、そして最後に武器、日本は外国と違い武器として使える物が少ないからだ。

 黒白はそんな中、武器や食料はまだどうにかなると考え、すぐ傍にあるドラッグストアに行く事にしたのだ、そして一年生の教室から適当にバッグを一つ手に取り、再び外に出ていった。

 校門まで行く途中で出口に、先ほどのメンバーに加えて今度は、海斗と漆夜の姿がある事に気が付いた黒白は、一度立ち止まり昇降口からは出ずに中庭を通り外に出た、そこからは校門まで向かうだけなのだが、それでも昇降口付近にはまだ、結月達の姿がある。

 黒白は結月達に気づかれない様にフェンスをよじ登り外に出て行った、坂を下りドラッグストアまで行くには時間が掛かり過ぎる為、黒白は校門前にある民家の前に姿を表した、最初はバレなかったのだがふと、結月が後ろを振り向いたその時、黒白の姿に気が付き。

「ああっ!」

 小さく叫んでいたが、時すでに遅く、黒白は200mほど先の路地を左に曲がり姿を消していた、結月以外は黒白の姿をとらえる事が出来ずに、見逃してしまったが、海斗は黒白が誰にもバレずに抜け出した事を聞くと、嬉しそうに笑っていた。

「いやなに、あいつらしいなって思ってさ、誰にもバレない様に悪さをしてみたり、見つからない様に抜け出したりする所もさ、そして……何でもない、きっとあいつは帰ってくる、荷物だってバッグ一つだったんだろ?」

 結月に確認を取ってみると。

「うん、バッグだけ」

 小声で返事をした、それを聞き海斗は漆夜の方を見て。

「あいつはきっと帰って来る、だからその時に色々聞いて見な、俺もその時までに覚悟をきめるよ」

 静かにそう言い海斗はその場を後にし、校内に姿を消した、結月は少し心配そうに黒白がいなくなった先を眺めていたが凛香に。

「結月、私たちも中に入ろう、もう少しで夜になるし、何か手伝うことが出来るのであれば手伝おう」

 優しくさとされた結月は。


「そうだね」

 とだけ返し、凛香と瑠奈と共に自分たちの出来る事をするのだった。

 

 その頃、黒白はドラッグストアまでの道のりを出来るだけ音を立てない様に、歩いていた、道中数体のヤツらと出会ったが、帰りの事を考え、静かにヤツらの背後から忍び寄り、的確てきかくに頭部を包丁で刺し、倒して行った、本来ならば十分もかからない距離なのだが、今回ドラッグストアまで来るのに三十分程の時間が掛かっていた、道中はヤツらからの奇襲が無いか、近くにいるのだとしたら、学校に向かわない様に、帰りに襲われない様にと、倒していたからだ、これからの日常は常に死と背中合わせなのだから用心に越したことは無いのだから。

「ようやく、着いた……思っていたより時間が掛かったな」

 黒白は息を整えつつ、周囲を確認していた、すぐ傍にヤツらの姿は無かったが、店の中にはそれらしき影がいくつか見えた、店の入り口は幸い何も障害物が無く楽に入ることが出来たが、店内は恐ろしいほどに静まり返っていた、黒白は周囲を警戒しながら店の中に入り、最初に薬が並ぶ棚に行った、そこは少し物が散乱していたが見通しがよく、周囲を警戒していれば危険性は無かった。

 そしてそこから数歩歩いた先には医療道具もある為、黒白は周囲を警戒しながら、複数の飲み薬や医療道具を手当たり次第にバッグへと詰め込んで行った、そして、大半の薬や医療道具さらにはアルコール消毒液も持って行き。

 外に出てから黒白は入り口を複数のカートでふさいだ後に、あえて入り口側の商品を全て倒してからその場を後にした、倒した際の音に引き付けられた、ヤツらが数体いたが店のガラスは頑丈で、少しくらいなら割れる事は無いが、入り口は何かの拍子で空いてしまう可能性もあり、黒白はそれも危惧きぐして何とか入り口をふさぎ、その場から姿を消した、歩きながらふと空を見上げると、空は薄暗くなっており夜が近づいて来ていた、周囲も徐々に暗くなり始め、世界がおかしくなってから最初の夜がやって来た、かろうじて電気や水道はまだ使えているが、これらいつ使えなくなるかは分からない、電気を確保するのは困難だろうが、水は何とかすれば確保する事は出来る、そして食料もだ……

 しかしどれも有限ではある、いずれは自分たちの手で調達していくしかな無い、昔と同じようにだ、しかしその事実に気が付いている人は恐らく居ない、偵察に出て行った人々の中には救助が来ないと言う事に気が付いてしまった者も数人いただろう、その事に気が付くのは時間の問題ではあるのだが、黒白はもまた救助が来ない事に気が付いたが、まだ可能性は少なからずあると信じようとしていた、避難所にはたまたま避難して来た警察や自衛官に看護師は居るけれど、世界がおかしくなってから、学校には自衛隊や警察そして医者の姿は非番だった人々を除き、誰もおらず、避難者以外に外部から人が来ることはない、日数が立てば来る可能性もあるが、一つの地域では無く、世界規模でのパンデミックだから、救助の可能性は0に限りなく近いだろう、そして黒白が学校に戻る為、歩いているこの時間にも、多くの人々が生きるために覚悟を決めて行き、少しずつ前に進もうとしていた。

 黒白がドラッグストアに向かう途中に居たヤツらを倒して行った事もあり、学校までの帰路は一度もヤツらと出会うことなく、戻ることが出来そうだったのだが、曲がり角を曲がろうとした、その瞬間に左前方から

「た……たすけて」

 か細い声が聞こえて来た、その声に気が付いた黒白は、そのまま左前方に走り出した、声の主と思われる人の一団の背後には三体のヤツらの姿があった、最後尾さいこうびに居た人にヤツらの一体が掴みかかろうとしたその瞬間、黒白は大声で

「伏せろ!」

 叫ぶと、持っていたバッグを先頭にいたヤツら目掛けて力強く投げた、一団は黒白の声に驚いたが、投げる直前に全員伏せる事が出来た

 そして黒白はバッグが当たったのを確認し、すぐに走り出し、最後尾にいたヤツらから仕留めたのだが

 その際に使用した包丁が折れてしまった、すかさず折れた包丁よりも一回り小さい包丁で二体目も仕留めたが、それもまたすぐに折れてしまった、二本とも折れてしまい動揺していると、黒白の判断が遅れてしまい、最初にバッグをぶつけ、一時的に倒したヤツらに黒白は足を捕まれてしまい道路に倒れこんだ

 周りを探すとすぐ隣にブロック片がある事に気が付き、そのブロック片で何度もヤツらの事を殴打おうだし、何とか事なきを得たのだが、黒白の制服は返り血で汚れてしまった、しかし黒白はこれもまた少しずつ日常になってしまうのであろうと、自身に言い聞かせ、気にしない様にして一団に

「中学校なら安全だから……ついて来て」

 と言い、バッグを拾ったのだがバッグは投げた衝撃でなのか、ショルダーストラップが片方千切れていた、だが持ち運ぶ事は何とか出来るので、もう片方のショルダーストラップを肩にかけ、そのまま歩きだした。

 中学校はすぐ傍だった事もあり、数分で着き、校門で警備していた男性は黒白の姿と避難して来た一団を見て、驚いたがすぐに冷静さを取り戻し、黒白達に少し待つように伝え姿を消した、待っている間黒白は、坂の下や正面からヤツらが来ないか常に警戒をしていた事もあり、一団の中にいた黒白の知人や両親は彼に話し掛けられないでいた、黒白はそれに気が付く事は無く、そこにたたずんでいた、そして待つこと数分。

 警備していた男性と海斗、それ以外にも大道など数人が校門に集まって来た、人が集まってきてからはあっという間だった、安否が分からなかった人達の確認をした後に、彼らの怪我の有無を確認してからは再開を喜ぶ声で溢れていた、その中には海斗の両親に黒白の両親も居た、海斗と漆夜も再開を喜び涙を流していたが、黒白は一人その一団から静かに離れ、柔道場外にある水道でヤツらの血を洗い流していた。

 その後に黒白は柔道場に入り、入り口にいた看護師だと言っていた女性にバッグごと渡した。

「これはどうしたの?」

 女性は不思議そうにたずねると。

「どう見ても足りなそうだったから取って来た、こんな事になっているんだから、背に腹は変えられないでしょ」

 落ち着いた声色で、伝えた後に。

おりを見て、また行ってくるよ」

 黒白はそう伝えた後に、屋上に向かおうと振り向くとそこには結月の姿があった。

「どうした?」

 黒白は不思議そうにしつつもどこか優しく聞くと。

「えっと……助けてもらったお礼、ちゃんと言えてなかった気がしたから」

 結月は照れくさそうにしていたが、見掛けるたびにどこかボロボロになって行く黒白の事を心配していた、黒白は結月の言っていた事に対しても。

「礼なんていいよ、あんたが危険な目にあっていて、体が勝手に動いただけだからさ……まぁある意味成り行きってやつさ」

 静かに言い、姿を消そうとすると、結月は続けて。

「そうだったとしても、私も……それに瑠奈ちゃんと凛ちゃんの二人も助けてくれた、ここまで連れてきてくれた、それにこれからだって・・・」

 何とか感謝を伝えようとしていると黒白は

「俺がそうしたいと思ったからするだけだ……いろんな言葉を聞いて来て、嫌な気分になる事もたくさんあったけど、あんたの言葉やあんたの友達の言葉からは嫌な感じは全くしない、あんた達三人からの言葉は素直に受け止めるよ、こっちこそありがとな」

 感謝を伝え、歩き始めると結月が。

「あの時、言い逃したけれど私は戸川結月とがわゆづき……好きに呼んで」

 その後に小声で。

 そう言った後に続けて。

「私はあなたの事をこれから。黒さんって呼ばせてもらうね、そして助けてくれてありがとう」

 黒白に心の底から感謝を伝えると、黒白は何も言わずに階段を上がった、その際に結月に対して小さく手を振り、そのまま屋上に向かった。

 黒白が歩いていると、落としきれなかった血が付いているのを見て、距離を置く人たちがいたが、黒白はそれを気にも止めず、屋上に向かい、その日は外に出る事は無く、誰からも見えない死角になるスペースに身を隠し静かに眠りについた。

 黒白が眠りに着いてから、再び黒白いなくなったと外では、軽い騒ぎになっていた、しかし校門に戻った結月が黒白は校内のどこかで休んでいると伝えると、彼を探していた人たちは安心していたが、彼の家族や彼が先ほど助けた人々はそうではなく、何とかして黒白に会い、感謝を伝えたいと言い、家族もまた彼の無事をちゃんと確かめたいと言っていた、結月は黒白がどこで休んでいるかは分からず、そこに居た人達に謝罪すると、黒白の母親が。

「本当にごめんね、いきなりみんなで質問攻めにして……あなたはこの辺の人?」

 申し訳なさそうに結月に質問すると。

「いえ、友達と旅行で来たんですけど、こんな事になってしまって、困っていた時に他の皆さんと同じように、私達も黒白さんに助けてもらって、本当に感謝してます」

 黒白の母親に対しどこか照れた様子で話しつつも、心の底から感謝を伝えていた、それを聞き母親は嬉しそうに。

「そうだったの、こちらこそありがとう、あの子を気にかけてくれて……またね」

 そう告げ、一足先に校内に戻って行くのだった、そして結月は凛香たちの待つ体育館へと向かった。

 その後、凛香、瑠奈の二人と共に炊き出しの手伝いをおこなっていた、結月達三人は炊き出しを最後まで手伝いつつも、その場に黒白の姿が無いか気にしていた、しかし黒白は一度も姿を現す事無く炊き出しは終わってしまった。

 炊き出しを受け取っていた中には自衛官の男の姿や消防官の男の姿もあった、彼らもまた黒白にお礼を言う為、彼の姿を探していたが、見つけることは出来ずにいた

 そこで彼らは黒白を探す事は一旦諦め、外の現状を考慮こうりょし、夜は数人の交代制で校門や周りを警戒しつつ見回りをしようと話していた、しかしただ見回りをするのでは危険だという意見もあり、何かしら武器になる物を持ち、今は懐中電灯が無い、その為代わりにスマホのライト機能を使用しそれを光源こうげんにしようと話していた、光があればどこかで光を見た人たちが避難してくる可能性もあったからだ、話し合いを終えると。

「俺……あいつらが来たら、倒す自信ないよ……だって」

 一人の男性が震えた声で、そう呟くとその恐怖は周りに伝染していった、すると自衛官の男性が

「俺だって怖いし、可能なら自分の手で誰かを傷付けたくなんてないさ、だけどそうでもしなければ家族を守れない……それにあの学生にだけ重荷を背負わせてはいけないと思う」

 慎重しんちょう面持おももちで言っていた、その後に消防官の男性が

「それにあの学生、俺たちの目を盗んで外に行った時、何を持ち帰って来たと思う?」

 皆に質問すると、誰一人として答える事が出来なかった。

「薬や消毒用のアルコール、それに持って来れるだけの医療道具を持って来たんだ」

 数分待った後に答えた、それに続けて

「本来ならあの学生にしてもらうのでは無く、俺たち大人がするべきなのにだ、彼が手を下した、あの遺体の処理もそうだ」

 自身に苛立ちを覚えつつも落ち着いた様子で話していた、二人の言葉を聞き、集まっていた男性たちは覚悟を決め、そして黒白に会ったときは感謝を伝えようと決めていた。

「とりあえず、教室のいくつかは周辺の見回りや、物資を持ってくるメンバーで使うように交渉をした結果、了承を得られた、だからそこを使って休息を取りながら、周囲を警戒しよう、物資を持ってくるメンバーについては、日が昇ってから決めよう」

 自衛官の男がそう言うと、みんな了承し休む者、警戒する者に別れ、動き出した。


 それから数時間後、日が昇り始めると同時に黒白は目を覚ました、スマホを見てみると時刻は午前四時を過ぎた頃だった、昨日はたった一日でたくさんの事があり、黒白も疲労が溜まっていたのだろ、パンデミックが起こり、今までの世界が崩壊し、黒白自身も命を守るために決断をせざるを得ないことが、いくつもあった、周りには何ともない様に振舞ふるまってはいるが、彼もまた悩み続けていた。黒白は目を覚ましてから、おぼつかない足取りで下の階に降り、手洗い場で洗顔とうがいを行い何とか目を覚ましたのだった。

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