第二十五話 蒼志館の夏が終わる日
蒼志館のベンチ
スコアボードには「2−3」とだけ灯っていた。
延長十二回、サヨナラ。
蒼志館の夏は、ここで終わった。
ベンチに戻ると、キャプテン篠原が両手で顔を覆っていた。
「……ここまで来れたのにな」
声は震えていたが、涙を隠そうとはしなかった。
高城はマウンドで最後の球を投げ終えたまま、グラブを見つめていた。
俺がそっと隣に立つと、彼は小さく笑った。
「これで終わりだ。……でも、最後まで投げられて良かった」
その笑みが、かえって胸を締めつけた。
三年生の言葉
整列のあと、校歌が流れた。
涙で歌えない者、声を張り上げる者。
高城は静かに歌い終え、後輩たちに視線を向けた。
「お前ら、次は託した。……如月、お前が引っ張れ」
「……はい」
声が震えないようにするのが精一杯だった。
キャプテン篠原も言葉を残す。
「奇跡なんかじゃない。ここまで来たのは、お前らの力だ。……胸を張っていい」
その言葉に、涙を堪えていた二年、そして一年たちの嗚咽が一気にこぼれた。
鳴神工業ベンチ
一方のベンチでは歓喜の声が響いていた。
だが鷺沼は騒ぎに加わらず、静かにベースを外野方向へ見つめていた。
(如月隼人……まだ一年。あの左腕は、まだ伸びる)
バットを握る手に、かすかな震えが残っていた。
「次に当たる時が怖いな」
隣に立った監督の言葉に、鷺沼は短く頷いた。
観客と掲示板
帰り道、観客たちの口々にする声が耳に残った。
「蒼志館がここまで来るとはな」
「如月と高城、二枚看板は本物だった」
「来年は、もっと怖いチームになるぞ」
試合直後の掲示板にも、静かな言葉が並んだ。
1910 :名無しさん@観戦民
負けたけど蒼志館、胸張っていい。
1913 :名無しさん@野球好き
如月、あの一発忘れるなよ。絶対に糧になるから。
夜の寮
蒼志館の寮は静かだった。
高城の部屋の前を通ると、灯りは消えていた。
ノックしようとして、やめた。
(あの人の夏は終わった。……だけど、俺の夏は、まだ続く)
窓の外、夏の夜風が流れていく。
掌に残るボールの感触と、あの一発の音が、耳から離れなかった。
(鷺沼の打球。あれを打たせない球を、俺は投げなきゃいけない)
静かに、そう心に刻んだ。
現在の能力表(如月 隼人)
球速:137km/h
コントロール:B+
スタミナ:B
変化球:スライダー6/シュート3
特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/低め○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○/球持ち○
備考:準々決勝・延長で敗退/鷺沼に痛烈な本塁打を浴びる/「もっと速い球が必要」と強く自覚/三年生引退 → 主人公世代へバトンが渡る
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