第二十四話 準々決勝 鳴神工業戦(後編)

四回裏 踏ん張る如月


 鷺沼の一撃で空気は完全に鳴神ペースとなっていた。

 だが、俺はそれ以上の失点を許さなかった。

 五番・吉岡をスライダーで空振り三振。

 六番・平山をシュートで詰まらせ、セカンドゴロ。


 山根が軽く拳を当ててくる。

 「よく耐えた。まだ1点差だ」


 (ここで崩れたら本当に終わる……負けない!)


五回表 蒼志館の反撃


 七番・水島がしぶとく内野安打で出塁。

 八番・山根が送り、ワンアウト二塁。

 九番・如月、バットを持って打席へ。


 「隼人、振ってこい!」とベンチの声。


 相手バッテリーは直球勝負。

 全力で振り抜いた打球は、一塁線を破った!

 水島が一気にホームへ——同点!


 「ナイスバッティング!」

 ベンチが総立ちになった。

 俺はガッツポーズを作りながらも、胸の奥が熱く震えていた。

 (投げるだけじゃない……俺もチームの一員だ!)


六回裏 再び鷺沼


 スコアは2−2。

 ツーアウト、一塁。

 打席に立ったのは、再び鷺沼。


 (今度はやらせない……!)


 初球、外直球。見逃し。

 二球目、外スライダー。ファウル。

 追い込んだ——。


 三球目、インロー直球。

 鷺沼はフルスイング。だが、僅かに差し込んだ打球はファウルスタンドへ。


 「おおおおおっ!」スタンドが揺れる。

 (俺の直球も通じる!)


 四球目、外シュート。

 鷺沼は腰を落とし、見逃した。ボール。


 五球目、低め直球。

 鷺沼は大きく空振り——三振!


 俺は吠えた。

 「よっしゃあああ!」

 スタンドから歓声が巻き起こる。

 (さっきの一発のまま終わらせない……俺はまだ戦える!)


七回裏 交代の時


 球数は100を超えていた。

 藤堂監督がベンチを出てきて、俺の肩を叩いた。

 「よくやった。ここからは高城に任せろ」


 俺は帽子を取ってうなずいた。

 「頼んだぞ、高城」

 「任せろ。お前が繋いだ試合だ」


 背番号1を高城に渡し、ベンチに戻った。

 観客の拍手が、全身を包んだ。


八回表 逆転ならず


 蒼志館は一死一、三塁のチャンスを作るが、あと一本が出ない。

 篠原が悔しげにベンチへ戻ってきた。

 「……一本、出ねぇ」


 ベンチ全体に緊張が漂う。


九回裏 緊迫


 スコアは2−2のまま。

 高城は気迫の直球で鳴神打線を抑え続ける。

 「150キロ……まだ落ちてない!」


 だが、鳴神ベンチも息を潜めていた。

 「鷺沼まで回せば勝てる」

 そんな空気がひしひしと伝わってくる。


延長戦


 十回、十一回。両チーム譲らず、試合はもつれ込む。

 球場全体が息を呑む展開だった。


 十二回表、蒼志館はツーアウト満塁の大チャンスを作る。

 四番・佐伯が打席へ。

 だが渾身の直球に押し込まれ、セカンドゴロ。


 ベンチ全体が悔しさで歯を食いしばった。


十二回裏 運命の打席


 ツーアウト、一塁。

 再び打席に鷺沼。


 スタンド全体が総立ちになった。

 「ここで決めろ鷺沼!」

 「最後はお前だ!」


 高城は汗を拭い、帽子を深くかぶった。

 「如月、お前に繋げてもらった試合だ……俺が決める」


 初球、直球。ボール。

 二球目、直球。ファウル。

 三球目、スライダー。ファウル。

 カウント1-2。追い込んだ——。


 「決めろ、高城!」ベンチから声が飛ぶ。


 四球目、直球。外れて2-2。

 五球目、インロー直球。鷺沼のバットが火を噴いた。


 ——カキーン!


 打球はレフトスタンドへ一直線。

 観客席が総立ちになり、鳴神ベンチが飛び出す。

 「サヨナラホームラン!」


 蒼志館の夏は、ここで終わった。


試合後


 グラウンドに膝をついた高城の肩を、俺は支えた。

 「……すまねぇ」

 「謝るな。最後まで戦ったんだ」


 鷺沼がベースを一周し、悠然とホームを踏んだ。

 その瞬間、俺は心の奥で確かに感じた。

 (まだ俺は足りない。もっと速い球で、もっと強くならなきゃ——)


 涙が滲んだ視界の先で、夏の青空がただ広がっていた。


現在の能力表(如月 隼人)


球速:137km/h


コントロール:B+


スタミナ:B


変化球:スライダー6/シュート3


特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/低め○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○/球持ち○


備考:鷺沼に痛烈なホームランを浴びる/延長十二回サヨナラ負け/「球速の強化」を次なる課題として強烈に意識

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