第十八話 三回戦前夜 それぞれの決意

部室での発表


 県大会二回戦・明神商業戦から二日後。蒼志館ナインは放課後の部室に集まっていた。

 藤堂監督が手にした紙を広げる。

 「次の三回戦、相手は翠嶺学院だ」


 ざわめきが広がった。

 翠嶺学院。毎年ベスト8に食い込む堅実な強豪。打線は派手さこそないが、ファウルで粘り、四球を選び、最後にしぶとく点をもぎ取る“いやらしいチーム”として知られていた。


 「そして、先発は——高城だ」


 高城は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに力強く頷いた。

 「わかりました」


 監督は続ける。

 「如月、お前は後半で行く準備をしておけ。翠嶺は球数を削るのが上手い。高城で流れを作り、最後にお前で締める。二枚看板を最大限に使うぞ」


 俺は帽子を握りしめながらうなずいた。

 (……高城が先発。次は俺が後ろ。これが“二枚エース”の意味なんだな)


蒼志館打順表


小坂 駿(ショート)


篠原 圭介(サード/キャプテン)


海斗 玲央(センター)


佐伯 大和(ファースト)


小畑 翔(レフト)


中西 颯真(ライト)


水島 悠(セカンド)


山根 智久(キャッチャー)


高城 達也(ピッチャー/右腕速球派)


練習後の対話


 グラウンドでの練習を終えた後、篠原が如月と高城を呼び寄せた。

 「お前ら二人がいるからこそ、蒼志館はここまで来られた。次も二人で勝つんだ」


 高城は軽く笑って拳を握る。

 「如月。お前が後ろに控えてるってわかると、不思議と怖くなくなるんだ。俺が抑えられなくても、お前がいる」


 その言葉に俺は一瞬、胸が熱くなった。

 「……いや、俺も同じだよ。高城が先に投げてくれるから、俺は全力で最後を任される」


 二人は無言で拳を合わせた。


如月の悔しさ


 部室に戻り荷物を整理していると、ふと頭に浮かんだのは二回戦での白石の姿だった。

 ——低めを突いても、ファウルで粘られる。

 ——フォームの出どころを読まれる。

 ——最後にはきっちり安打にされる。


 (あの時、俺の球は“見切られていた”……俺には、まだ足りないものがある)


 スマホの掲示板を開けば、試合を見ていた観客たちの声が残っていた。


「如月は凄かったけど、白石には完全に読まれてたな」

「球持ちが浅い? 出どころが見やすいって感じ」

「全国で勝つには、あれを直さないとキツいかも」


 (……球持ち。そうか、俺のボールはまだ打者にとって“見やすい”んだ)


 その言葉が胸に刺さった。

 (もし本当に全国を目指すなら、そこを克服しないと……)


それぞれの夜


 キャプテン篠原はノートに相手のデータを書き込んでいた。

 「翠嶺は簡単に三振しない。粘りに粘って、失投を待つ。……だからこそ、二人の力が必要だ」


 高城は家で父親にボールを見せていた。

 「150kmは出る。でもまだ、制球が甘い。明日は低めに集めて勝負だ」


 そして俺は、布団の中でひとり拳を握りしめていた。

 「明日こそ……俺は新しいものを掴む。白石に打たれた悔しさを、ここで超える」


現在の能力表(如月 隼人)


球速:137km/h


コントロール:B+


スタミナ:B


変化球:スライダー6/シュート3


特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/低め○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○


備考:次戦はリリーフ予定/「球持ち不足」を自覚/成長の契機を探す決意

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