第七話 三者連続三振
試合は終盤、七回表。スコアは1-0。鳳栄高校を相手に一点を守り続ける展開は、もはや練習試合の空気を超えていた。スタンドの保護者やOBたちも身を乗り出し、金属バットの音に一喜一憂している。
「如月、この回は上位からだ」
監督の藤堂が短く言った。
「ここを抑えれば、お前への信頼は確かなものになる」
頷きながらマウンドに向かう。土の感触が、靴底越しにずしりと伝わった。前世ではこの舞台に立つたびに足が重かった。だが今は違う。仲間が、観客が、そして自分自身が待っている。
◆
一番打者。三打席目。前の打席ではファウルで粘り、四球を勝ち取ったしぶとい男だ。
初球、外直球。ストライク。
二球目、外スライダー。わずかに我慢して見送られる。
(三巡目、やはり簡単には手を出さないか)
三球目、内角シュート。詰まらせた音が響き、ベンチ脇まで飛ぶファウル。カウント1-2。
ここで山根が外角低めにミットを据えた。
(振らせる。最後は逃げ球を全力で)
腕を振り切った瞬間、視界が淡く光った。
【奪三振◎ 発動】
——スパァン!
白球はミットの芯に突き刺さり、打者は空を切る。三振。
観客席がどよめき、ベンチも立ち上がった。
◆
二番打者。器用なタイプで、前打席ではしつこくファウルで粘った。
初球、外スライダー。空振り。
二球目、外直球。見逃し。あっという間に0-2。
(三巡目にしても、まだ振り遅れている。なら——)
三球目、同じ軌道から鋭く落とすスラッター気味の変化。
「うっ……!」
バットは途中で止まらず、空を切った。
二者連続三振。
ベンチからは「よっしゃ!」「凄えぞ隼人!」と歓声が飛ぶ。水島はフェンス越しに叫び、篠原は拳を振り上げていた。
◆
そして三番。長身のスラッガー。これまでの打席で粘りを見せ、手強さを印象付けていた。観客のざわめきが一段深くなる。
「来いよ、サイドスロー」
挑発めいた声を出し、バットを高く構えた。
初球、外直球。見逃し。
二球目、外スライダー。ファウル。カウント0-2。
(追い込んだ。ここからが本番だ)
三球目、外直球をボール気味に外す。四球目、内角シュート。ファウル。粘られる。
(簡単には終わらせてくれないな……だが)
山根のミットが、外角低めに沈む。俺は頷き、全力で腕を振り抜いた。
白球は一直線に走り、最後の十センチで鋭く逃げた。
——ブンッ。
空振り三振。三者連続三振。
「うおおおおっ!」
ベンチが総立ちになり、観客席からも大きな拍手が湧き上がった。
◆
ベンチに戻ると、篠原が豪快に肩を抱きしめた。
「隼人、お前……一年でこれかよ!」
水島は苦笑混じりに「俺も頑張らねえと置いてかれるな」と呟き、山根は冷静に「今日で証明されたな。お前は、チームの武器だ」と言った。
スタンドでは、保護者やOBたちの拍手がまだ鳴りやまない。その中に、見慣れないスーツ姿の男がひとり、腕を組んで試合を見つめていた。
誰も気づかない。だが、俺たちの投球はすでに“外”の目を惹きつけ始めていた。
ミットに突き刺さった最後のスライダーの音が、耳の奥でいつまでも残響していた。
あの音は、前世で一度も浴びられなかった音だ。
現在の能力表(如月 隼人)
球速:135km/h
コントロール:B−
スタミナ:B−
変化球:スライダー5(進化!)/シュート3
特殊能力:奪三振◎(発動)/対ピンチ○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○
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