第七話 三者連続三振

 試合は終盤、七回表。スコアは1-0。鳳栄高校を相手に一点を守り続ける展開は、もはや練習試合の空気を超えていた。スタンドの保護者やOBたちも身を乗り出し、金属バットの音に一喜一憂している。


 「如月、この回は上位からだ」

 監督の藤堂が短く言った。

 「ここを抑えれば、お前への信頼は確かなものになる」


 頷きながらマウンドに向かう。土の感触が、靴底越しにずしりと伝わった。前世ではこの舞台に立つたびに足が重かった。だが今は違う。仲間が、観客が、そして自分自身が待っている。



 一番打者。三打席目。前の打席ではファウルで粘り、四球を勝ち取ったしぶとい男だ。

 初球、外直球。ストライク。

 二球目、外スライダー。わずかに我慢して見送られる。

 (三巡目、やはり簡単には手を出さないか)

 三球目、内角シュート。詰まらせた音が響き、ベンチ脇まで飛ぶファウル。カウント1-2。


 ここで山根が外角低めにミットを据えた。

 (振らせる。最後は逃げ球を全力で)


 腕を振り切った瞬間、視界が淡く光った。

 【奪三振◎ 発動】


 ——スパァン!


 白球はミットの芯に突き刺さり、打者は空を切る。三振。

 観客席がどよめき、ベンチも立ち上がった。



 二番打者。器用なタイプで、前打席ではしつこくファウルで粘った。

 初球、外スライダー。空振り。

 二球目、外直球。見逃し。あっという間に0-2。

 (三巡目にしても、まだ振り遅れている。なら——)


 三球目、同じ軌道から鋭く落とすスラッター気味の変化。

 「うっ……!」

 バットは途中で止まらず、空を切った。

 二者連続三振。


 ベンチからは「よっしゃ!」「凄えぞ隼人!」と歓声が飛ぶ。水島はフェンス越しに叫び、篠原は拳を振り上げていた。



 そして三番。長身のスラッガー。これまでの打席で粘りを見せ、手強さを印象付けていた。観客のざわめきが一段深くなる。

 「来いよ、サイドスロー」

 挑発めいた声を出し、バットを高く構えた。


 初球、外直球。見逃し。

 二球目、外スライダー。ファウル。カウント0-2。


 (追い込んだ。ここからが本番だ)


 三球目、外直球をボール気味に外す。四球目、内角シュート。ファウル。粘られる。

 (簡単には終わらせてくれないな……だが)


 山根のミットが、外角低めに沈む。俺は頷き、全力で腕を振り抜いた。

 白球は一直線に走り、最後の十センチで鋭く逃げた。


 ——ブンッ。


 空振り三振。三者連続三振。


 「うおおおおっ!」

 ベンチが総立ちになり、観客席からも大きな拍手が湧き上がった。



 ベンチに戻ると、篠原が豪快に肩を抱きしめた。

 「隼人、お前……一年でこれかよ!」

 水島は苦笑混じりに「俺も頑張らねえと置いてかれるな」と呟き、山根は冷静に「今日で証明されたな。お前は、チームの武器だ」と言った。


 スタンドでは、保護者やOBたちの拍手がまだ鳴りやまない。その中に、見慣れないスーツ姿の男がひとり、腕を組んで試合を見つめていた。

 誰も気づかない。だが、俺たちの投球はすでに“外”の目を惹きつけ始めていた。


 ミットに突き刺さった最後のスライダーの音が、耳の奥でいつまでも残響していた。

 あの音は、前世で一度も浴びられなかった音だ。


現在の能力表(如月 隼人)


球速:135km/h


コントロール:B−


スタミナ:B−


変化球:スライダー5(進化!)/シュート3


特殊能力:奪三振◎(発動)/対ピンチ○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る