第八話 勝利と称賛

 鳳栄高校との練習試合。

 スコアは1-0のまま動かず、九回表を迎えた。蒼志館のエース・高城は、最後の力を振り絞るように腕を振る。


 「よっしゃ、センターフライ!」

 「ツーアウト!」


 観客席も立ち上がり、緊張と歓声が入り混じった空気に包まれていた。


 最後のバッターが外角直球に手を出せず、見逃し三振。

 「試合終了! 一対ゼロ、勝者・蒼志館!」


 その瞬間、ベンチから仲間たちが飛び出し、グラウンドに歓声がこだました。



 「やったな、隼人!」

 「お前のスライダー、マジで魔球だった!」

 「一年でこんな投球するやつ、聞いたことねぇ!」


 チームメイトが次々に声をかけてくる。篠原は豪快に背中を叩き、水島は「置いてかれねえように頑張らねえと」と苦笑い。山根は冷静に、「お前の球があったから今日の勝ちはある」と断言した。


 前世では、一度もこういう光景は訪れなかった。

 勝っても負けても自分の存在は薄く、責任だけを押しつけられた。

 だが今は違う。仲間と同じ輪の中にいる。それだけで胸が熱くなる。


 「如月」

 振り向くと高城が立っていた。

 「……今日は悪くなかった」

 ぶっきらぼうな言葉。だがその眼差しには確かな火が宿っていた。


 「ツンデレかよ」

 篠原が笑い、水島が「いや、認めてる証拠だろ」と頷いた。

 俺は思わず笑ってしまった。



 試合後、監督の藤堂が全員を集めた。

 「今日の勝ちは大きい。鳳栄を零封できたのは、お前たち一人ひとりの力だ」

 少し間を置いて、俺を見据える。

 「特に如月。お前の投球は一年とは思えん。これは偶然ではなく必然だ」


 仲間たちの視線が集まる。

 照れくささを押し殺し、俺は胸を張って答えた。

 「はい!」


 その瞬間、蒼志館の一員としての誇りが胸の奥で鳴った。



 その夜、試合を観戦していた人々の間で噂が広まっていた。


【野球掲示板 蒼志館スレ part57】


421 :名無しさん@野球好き

今日の鳳栄戦見たやついる?


422 :名無しさん@野球好き

1-0で蒼志館が勝ったらしいなwww


423 :名無しさん@野球好き

マジ?鳳栄に勝つとか奇跡やん


425 :名無しさん@野球好き

一年の左サイドスロー出てきたぞ

名前は如月隼人


427 :名無しさん@野球好き

あのスライダー反則だろ

バットに当たる気がしなかった


429 :名無しさん@野球好き

三者連続三振してて草

蒼志館に魔球投手爆誕www


 スマホを片手にした誰かが笑いながら書き込んでいる。

 そのスレッドを覗き込む影がもうひとつ。

 スーツ姿の男は無言で画面をスクロールし、薄く笑みを浮かべた。


 ——スカウトの目は、すでに蒼志館へ向けられ始めていた。


現在の能力表(如月 隼人)


球速:135km/h


コントロール:B−


スタミナ:B−


変化球:スライダー5/シュート3


特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○


備考:ネット掲示板で「魔球投手」と話題に/スカウトらしき人物が観戦

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る