第八話 勝利と称賛
鳳栄高校との練習試合。
スコアは1-0のまま動かず、九回表を迎えた。蒼志館のエース・高城は、最後の力を振り絞るように腕を振る。
「よっしゃ、センターフライ!」
「ツーアウト!」
観客席も立ち上がり、緊張と歓声が入り混じった空気に包まれていた。
最後のバッターが外角直球に手を出せず、見逃し三振。
「試合終了! 一対ゼロ、勝者・蒼志館!」
その瞬間、ベンチから仲間たちが飛び出し、グラウンドに歓声がこだました。
◆
「やったな、隼人!」
「お前のスライダー、マジで魔球だった!」
「一年でこんな投球するやつ、聞いたことねぇ!」
チームメイトが次々に声をかけてくる。篠原は豪快に背中を叩き、水島は「置いてかれねえように頑張らねえと」と苦笑い。山根は冷静に、「お前の球があったから今日の勝ちはある」と断言した。
前世では、一度もこういう光景は訪れなかった。
勝っても負けても自分の存在は薄く、責任だけを押しつけられた。
だが今は違う。仲間と同じ輪の中にいる。それだけで胸が熱くなる。
「如月」
振り向くと高城が立っていた。
「……今日は悪くなかった」
ぶっきらぼうな言葉。だがその眼差しには確かな火が宿っていた。
「ツンデレかよ」
篠原が笑い、水島が「いや、認めてる証拠だろ」と頷いた。
俺は思わず笑ってしまった。
◆
試合後、監督の藤堂が全員を集めた。
「今日の勝ちは大きい。鳳栄を零封できたのは、お前たち一人ひとりの力だ」
少し間を置いて、俺を見据える。
「特に如月。お前の投球は一年とは思えん。これは偶然ではなく必然だ」
仲間たちの視線が集まる。
照れくささを押し殺し、俺は胸を張って答えた。
「はい!」
その瞬間、蒼志館の一員としての誇りが胸の奥で鳴った。
◆
その夜、試合を観戦していた人々の間で噂が広まっていた。
【野球掲示板 蒼志館スレ part57】
421 :名無しさん@野球好き
今日の鳳栄戦見たやついる?
422 :名無しさん@野球好き
1-0で蒼志館が勝ったらしいなwww
423 :名無しさん@野球好き
マジ?鳳栄に勝つとか奇跡やん
425 :名無しさん@野球好き
一年の左サイドスロー出てきたぞ
名前は如月隼人
427 :名無しさん@野球好き
あのスライダー反則だろ
バットに当たる気がしなかった
429 :名無しさん@野球好き
三者連続三振してて草
蒼志館に魔球投手爆誕www
スマホを片手にした誰かが笑いながら書き込んでいる。
そのスレッドを覗き込む影がもうひとつ。
スーツ姿の男は無言で画面をスクロールし、薄く笑みを浮かべた。
——スカウトの目は、すでに蒼志館へ向けられ始めていた。
現在の能力表(如月 隼人)
球速:135km/h
コントロール:B−
スタミナ:B−
変化球:スライダー5/シュート3
特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○
備考:ネット掲示板で「魔球投手」と話題に/スカウトらしき人物が観戦
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