No.3 (第6話)の感想
6つ目のお話です。
>或る当事者の独白
当事者。何かをやった人物のようです。
> 私は一度、目の前の人を殺めようという強い衝動に苛まれたことがあります。
ほう?
> キッカケは……すみません。
> ただ、私はその瞬間を今でも信じられない思いでいるんです。
突然の衝動にご自身で驚いたと。
> それまでの私は、こう、自分で言うのも烏滸がましいんですけど、本当に"善良"であったと思うんです。
> 車が来ていなくても、その道がどんなに狭くて一瞬で渡れるものでも、私は信号を待つ人間でした。今だってそうです。
堅実で、ルールを守る善良な人というわけですね。
> けれどだからといって、目の前で他の人が信号を無視しても、義憤に耐える必要もありませんでした。特に何も思わず、『私はルールを守ろう』と思うだけでしたから。
> 攻撃的な正義感を宿している訳でも、きっとなかったんだと思います。
正義を人に押し付けるわけでもなく、大人しい方であったと。
> だから、そんな私が本当に殺意なんて抱く日が、"その瞬間"が訪れるなんて……考えたこともなかったんです。
一体、何があったのでしょう?
> …………はい。"その瞬間"に考えていたのは、『目の前の人に抵抗されてもことを為せてしまえる』ことと、『周囲に人はいないし、監視カメラもおそらくない』ということでした。
> いえ、本当に……本当に、そんなことが、あの時の私の頭を満たしたんです。
状況が許した、と……。
でもそれだけじゃないですよね。どうして駆られてしまったのでしょう。
> けれど、直後に浮かんだのが…………両親の顔でした。
> 私の家は、特別裕福でもありません。なのに、なに不自由なく育ててくれた両親に、私は本当に感謝してるんです。
> 浮かんだのは、そんなお父さんとお母さんの顔だったんです。
ご両親がストッパーになってくれたわけですね。
> 私はこれまでで一番強い葛藤の果てに、この状況で相手を生かすことを、わざわざ多大な精神力を振り絞ることで“選択”しないといけませんでした。
> 本当に懸命に、振り絞って、『殺さない』って! 目の前の相手を『今後も生きさせる』って! そう、選ばないといけませんでした。『生かす』を、しないといけなかったんです。
まるで逆転の発想ですね。
殺すのが当たり前の状況だった、と。
> 時折恐ろしくなるのは、このときにすでに両親が他界していた場合、私が私を止められる理屈が他にあっただろうかって……そんなことを、考えるときなんです。
つまり両親がいなければ実行してしまいそうなのですか。
> いざ"その瞬間"になると、『殺人罪』なんていう高尚な単語は浮かびませんでした。そんな高度で複雑な考え、あのときの私には遠すぎたんです。
> それ以降、私は私を信じていませんし、私がこうなるんだったら他の人だって、タイミングと適切な感情的刺激を与えさえすれば、どのようなことでもするんだっていう確信を抱くようになりました。
恐ろしい話ではありますが「カッとなってやった」という自失の状態はありますから。
あなたが特別に危険というわけではないでしょう、ご自覚されたのは良いことと思います。
> 『自分はそんなことはしない』と当然に信じ切っていたかつての私が、今の私には『私は差別なんて絶対にしたこともないし、今後も私だけはしない』なんて口にするとても胡散臭い人間と同じように写るんです。
なるほど。
「嘘はついたことがない」という人と同レベルなわけですか。
それを言うならあなただけでなく、皆がそうでしょうね。
> 知ってます。誰だってそうだって。
> けど、本当に自分も他人も犯罪者予備軍なんだって——その、当事者なんだって警戒するのが、かつての私にはできていませんでした。気づきもしませんでした。
実感は理屈と違いますからね。
> こういう、今の私みたいなことを言っている人に、「はいはい、知ってますよ。知らなかったんですか?」って、そう思ってたんです。
気づいたことは素晴らしいと思います。
> あの、さっきからよく気づけたねって感心してますけど————
うん?
> ————あなたのことを、言ってるんですよ?
え――?
以上です!
今回は感想含めて会話風にしてみました。
これ、私が合いの手を入れているのですらっと読めるかもしれませんが、引用符だけで読んでみてください。
行間が多く、読み手が補完しないと色々考えてしまいます。
まさにこの実況感想文のためにあるような作品です!(違
えー、改めてこのお話の雑感です。
「友達の話だけど」と、誰のことかはぐらかして話すことはよくあります。
この話し手も気付いてほしいと思って受け手(読者)に語り掛けているように思います。
内容は殺人衝動を、よく思い止まったな、ということでしたが……。
「むしゃくしゃしてやった。今は反省している」と供述しないために気を付ける話ですよね。
この、我を忘れるという衝動、ほんとうに恐ろしいものです。
私も生涯で1度だけ経験したことがあります。
でも何故、そこまで怒ったのかは覚えてません。
今考えれば大した話ではなかったようにも思います。
その時は幸いにして何事もなく事態が収まりました。
恐ろしいのは、衝動が収まった後、記憶が全くないのですよね。
「こうして事件を起こすのか……」と茫然とした記憶が残っています。
そんなわけで。
突発的な衝動は存在しますので、自分は大丈夫と過信しないでください。
これを読んでいるあなたのことですよ?
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