No.3 (第7話)の感想

 7つ目のお話です。



>或る親友の独白


 親友。良いですね親友。



> 本当に安らかだな。

> さぞかし苦しかったんだんだな、オマエにとって、生きるってことがさ。


 おっといきなりです。

 お亡くなりになった……?



> オマエがこれを選んだとき、オレも反対したよな。

> オマエの家族も、友人も、知り合いも……反対したよな。


 「これを選んだ」。

 この時点では自殺をしたのかなと想像します。



> けどオマエは決めてた。懇願したよな。

> その後、オマエはオレだけ呼んだんだ。オレになら、頼めるなんて言いやがって。


 もし「自殺」なら自殺幇助というやつですね……。

 本当に親友に頼まれたら、どう判断するかはその時にしかわからない気がします。



> だから決めちまったんだ。オレが、オマエの人生の締めくくりを、オマエが1番望むものにさせる……て。

> オマエの最期を、オレだけは何としても守ってやろうってな。


 心意気が男前な方です!

 頼られて、その気持ちを汲むことを選んだということも!



> オレにはてんで理解できない考えだが、それでもオマエには大切なんだろ?

> だったらオレは親友だ。やることは決まってる。それに、オレまでオマエの想いを守ってやれなきゃ、誰がオマエの側にいられるんだよ……イヤだろ、独りの最期なんて。


 理解できなくても相手のために――。

 ここだけで感動ものです。



> きっと逆でもオマエはそうしたろ?

> だから……オレは守ったぞ。そんなに安らかな顔できるんだ。これで救われたんだよな?


 ……今、その親友の前にいるんですかね。



> …………もう、聞こえないから言うけど……よ。

> オマエの辛さは、分かった。オレにもどうにもしてやれない。いたずらに苦しむだけになる可能性があるって……分かっちゃいたんだ。

> 治るかもしれないって、オマエの家族は縋るけどよ……それに縋るには、もうオマエはボロボロに疲れ切っちまってたんだ。

> ……そうだろ? そんくらいは、分かったんだ。


 治る。

 不治の病、だったんでしょうか。

 もし癌に冒されていたとしたら……誰しも可能性があることです。



> ただ……オマエのその決断をなんとか折ろうって、そうしたヤツらの気持ちも分かるんだ、オレは。

> オレは心の中じゃあ、結局最後までどっちが正しいかなんて分からなかった。


 「命は大切に」なんて声高に叫びますけれど……。

 その尊厳の選択は本人にしかできないです。

 この方は尊重したがゆえに苦悩しています。



> オマエの本当の味方は、通さないオレに泣き縋るこいつらの方なんじゃないかって……本気で悩んだ。

> 妨げるオレを殺してでもオマエを救おうってしたオヤジさん……本気で怖かったぜ?

> あの歳のジジイにさ、こんなガタイしたオレが本気で気圧されたんだ。あの想いは本気だったね。そのひとかけらでもいいから、オレのクソオヤジに分けて欲しいくらいだった。

> オマエ、本気で愛されてたんだ。


 想像できるシチュエーション。

 病床の親友が、この方に「死にたいので連れて行ってくれ」と。

 家族が止めるも、この方は強い意志をもって、当人を尊重した……。


 どちらが正しいかなんて誰にも分からないですね。

 それでもオヤジさんが敵となって必死に止めたわけです。

 この方、さぞ苦しかったでしょう。



> オマエのお袋さんにもまいったよ。さめざめ泣かれてさ、胸に縋り付くんだ。

> あれは……キツかった。ぶん殴ってくれた方がぜんぜんマシだった。

> オレがクソオヤジと、殺してやるってくらいの大喧嘩したことあったろ。似てたんだよ。あんときのお袋とさ。泣き方が。

> 結局恩を返すこともできずに、ぽっくり逝かれた身としちゃな…………ああ……キツかったんだ。


 お袋さんの悲哀。

 こんなものを聞かされた日には頭から離れなくなりそうです……。

 そりゃキツいです。



> 一番ヤバかったのはオマエの妹だったな。久々に会ったけどありゃ何があったんだ?

> 社会的に殺しに来るなんて随分たくましくなっちまったじゃねえか。あんときが一番手を焼いたぜ、ったく。

> ……まあ……分かるけどな。優しい子だった。変わっちゃなかった。必死によ…………ああ。


 兄のために必死に。

 止めるためのできる手段を行使する。

 間違いなく兄への愛情でしょう。

 その愛情をすべて蹴り飛ばすこの方の辛さ。



> けど、そのほかにもたくさんのヤツらがいた。そんで、こうしてオレは守り切った。約束、守ったんだ。


 この方の救済は、家族や他からは与えることができないものだったのでしょう。

 きっと、様々な妨害を受けたのでしょう。

 それでも全うできたことが、親友への想いの強さが泣けてきます。




> けどな 親友

> オレも……オレだって、……くそっ

> オマエに! 生きて……欲しかったよ


> 絶対に治してやるって!

> どんなに可能性が低くても掴み取って、絶対に生にしがみついてやるって……!


 親友の命。死んでほしいなんて露ほども考えるはずがありません。

 命あっての……ですから。

 無念すぎます。





> そう、言って欲しかったんだ

> 言って……欲しかったんだよ


 …………(涙







 以上でおしまいです。


 これまでのお話の中ではストレートな内容でした。

 そして……それだけに来ますね。

 登場人物の全員が優しさに溢れているがゆえに、余計につらい。

 誰も悪くないという、感情の矛先がどこにも向けられないことがもどかしいです。


 死は誰しも平等に訪れます。

 私にも若くして亡くなった知己がいます。

 その人が死ぬことなんて頭の片隅にさえありませんでした。

 このお話のように、死が避けられないとわかってさえ、こうなるわけです。


 だからこそ、人生は一期一会。

 後悔なく喜怒哀楽さえも愉しんで生きていきたいものです。



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