第16話 旅立ち

 俺とセルスが出会ってから一週間くらいが経った。あの日セルスを俺の家に連れて帰ったら親父のオスカーが信じられないと言わんばかりの形相で、座っていた椅子からすっ転んでいた。


 そして俺たちは事前に打ち合わせていたカバーストーリーを親父に話した。


 内容自体は少し無理のある物ではあるが、セルスが前に仕えていた家で些細な嫉妬から主人がいない間に夫人に追い出され、森で途方に暮れていたところで俺と出会い、ここからそう遠くない街に再就職先を探しに行く為、少しの間村に滞在するといった経緯だ。


 勿論そんなのは口から出任せだったが、セルスのあり得んばかりの美貌は金持ちの家すら惑わせたと言う事実に親父は納得出来たのか、暫くの間滞在していいことになった。


 因みに隷属の腕輪と狼の耳はセルスの得意な属性、闇属性魔法の隠蔽魔法で隠して貰った。本人は俺とのつながりを隠す行為で不服だったようだが、流石にこれは見られると説明が厄介なんでな…。この隠蔽は国によっては普通に犯罪なんだが、このディロード王国では奴隷制度が一般的では無いので、禁止されてはいない。グレーゾーンではあるんがな…。


 そしてそれから一週間、セルスは我が家にいた訳だが………コイツの距離感は一体どうなっているんだろうか。

 家主たるオスカーには10歩くらい引いた距離感での会話だが、俺が相手だと0距離だ。もはや一体化してしまいそうなくらいにくっついてくる事がある。


 その度にいい匂いとか、腕や背中でムギュッと潰れる柔らかい双球に理性を削られそうになったが、鋼の精神で持ち堪えている。前世でも前々世でも非リア童貞だった俺を舐めてもらっては困る!!…獣形態で本当に舐められるのも困るが。


 寝る時も別々の部屋にしているのに、俺の部屋に突撃しようとしてくるのは毎日だった。最終的には俺が折れて一緒の部屋で寝る事は許可したが、流石に同じベッドでは色々とまずいのでベッドの横にある床のスペースに敷布団を引かせて、そこで寝て貰った…色々と削られる…。


 そんな事がありつつも今日、俺とセルスはこの村を発って近くにある比較的大きな街のローズベルトに行く日になった。


「これで準備は良しっと…。アイテムボックスは…貴重だからバレると厄介だし、面倒だけど少しはバッグに入れて担いでおくか…」


 セルスを連れて帰って来た夜に親父のオスカーには旅立ちのことを伝えた。冒険者になって、世界中を旅してみたいと。

 キラーベアの一件で死にかけていた(正確には元の人格は命を落としてしまった)ので、ダメだと断られるかと思っていたが、オスカーは苦しそうに悩みながらもOKを出してくれた。


『俺は血は繋がっていなくてもお前の父親だからな…正直に言うとあんな危険な旅には出て欲しくない……が、お前の人生はお前が決める事だ。それに、男がやると決めた事に俺は口は出さん!行ってこい!!世界は広いぞ!ゼルン!!』


 俺は人生三度目だが、一度も父親にはなった事がない。しかし、いつ死んでもおかしくない冒険者という職に就きたいという息子を、俺はオスカーのように送り出す事ができるだろうか…。


「…ホント偉大な父親だよ、勇者なんて呼ばれたハリボテの俺よりよっぽど凄いぜ」


 バッグを背負い、階段を下りて玄関を開けるといつものメイド服に身を包んだセルスと、いつもの革鎧に身を包んだオスカーが待っていた。


「遅いぞゼルン!!セルスさんはお前が出て来る結構前から待ってくれていたんだぞ?」


「分かってるよ、お待たせしてすみませんセルスさん」


「いえ、お気になさらず主j…(コホンッ)……ゼルンさん。私は街まで案内していただく身でございますので」


 俺とセルスはお互いの関係を悟られないよう、親父の前ではあくまで他人を貫いた。知られると色々と面倒だしな…。


「…じゃあ準備も整ったみたいだし、村の入り口まで付き添おう。本当なら俺も街まで同行してやりたいんだが…森の異変もあって村を離れるわけにはいかねぇんだ」


「いいよ入り口までで。そんなに過保護になられちゃ、これから冒険者になろうって旅立ちなのに格好つかねぇよ」


「がっはっはっはっは!それもそうだな!よし、行くぞ?二人共」


 大声で笑った後、オスカーと俺たちは村の入り口まで歩いていく。道中村人のお爺さんやおばさん達に「頑張れよ!」と応援されながら、村の入り口に辿り着いた。


「さてゼルン…。俺はここまでだ、お前の強さは知ってるが…お前のこの先の旅の道中に何があるかもわからん。…くれぐれも気を付けてな」


「分かってるよ、親父も元気でな」


「あぁ、それと…コイツを持っていけ」


 そう言うとオスカーは、オスカーの腰にぶら下がっていた比較的傷の少ない鉄剣を俺に手渡して来た。


「これは俺が昔使ってた剣で、いつかお前が村を出る時に渡そうと思っていた奴だ。希少な魔宝具マジックアイテムとか業物ってわけじゃねぇが…念入りに手入れはしておいた。その辺の剣よりかは切れ味がいい、役立ててくれ」


「ありがとよ、親父。大切に使わせて貰う」


 渡された剣を腰にさし、最後の別れの挨拶を済ませる。


「………まさかこんな日が来るとはなぁ、元気に行ってこいよゼルン」


「親父も元気でな、世界中をまわったら帰って来るさ」


「…あぁ、首を長くして待つ事にする。……これ以上は何も言わねぇ…達者でな」


 そう言うとオスカーは俺たちに背を向け、ゆっくりと去って行った。振り返る瞬間にオスカーの目には涙が浮かんでいた気がするが…野暮な事は言わない。


「…主人様以外の人間は基本的に嫌いですが……あの者ような人間もいるのですね。少なくともあの者の事は嫌いではありません」


「セルスがそう思うとはな、最上級の褒め言葉じゃねぇか。さてと…俺たちも行くか、冒険の旅ってやつによ」


「えぇ、どこまでもお供いたしますよ?主人様」


 そうして俺たちは村を離れ、冒険者としての一歩を踏み出し始めた。……なんか良い話だな〜みたいになってるが、この時の選択のせいで未来の俺が色んな意味で絞り殺されそうになるなんて想像してなかった……………。


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 過去に書いた作品を消すのが勿体なくて再投稿しました。今の所ここまでしか書けてないです。

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【再投稿】勇者から再転生したので今度は気ままに生きようと思う。…なぜか上手くいかないのは気のせいだよな? 笹鬼 @Sasaki_0520

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