番外編

番外編「ルルの一日」

書籍版の発売にあわせて番外編を投稿しました

※以前サポパス用に載せていた分です




*************




 ルルは早朝に一度起きる。以前のルルが「そろそろねよう」と寝床に戻る時間だ。

 これまでは夜に餌を集め、昼間は隠れて寝ていた。幻獣だから夜行性ではないのだが、小型なので魔物に狙われやすい。生きるために行動を変える、それは当たり前のことだ。

 一変したのはヴィルフリートと契約してから。

 いつ襲われるか分からない森の中と違い、安全に過ごせる家の中での暮らしだ。しかも、寝床はぬくぬくだった。

 寝床を提供したのはヴィルフリートの友達、シロイだ。使わなくなったという毛布を小さなサイズに切って縁取りし、ルルのために「ベッド」を作ってくれた。巣は籐籠でできている。森にあった蔓で編んでくれた。

 ルルは毛布の間から顔を出し、カーテン越しに薄ら透けて見える朝日を感じて顔をくしくし撫でる。

「チュッ」

 まだ寝ていられる。

 ちらと反対側を見れば、本物のベッドの上でシロイが寝ていた。隣にはファビーだ。すやすやと気持ちよさそうだった。

 本来の起きる時間になればファビーがシロイとルルを起こしてくれる。

 それまではまた、幸せになれる毛布に潜って寝るのだ。

「チュ……」

 ルルはごそごそと移動し、好きな体勢になると目を瞑った。


 朝はミルクとナッツが食べられる。たまに豆苗が出てきた。これも美味しい。

 ルルがしゃくしゃく食べていると、シロイが顔を近付けた。

「今日は出勤あるかな?」

「チュ!」

「あるといいね」

「チュチュッ」

 ヴィルフリートに召喚される時はルルのお仕事時間だ。シロイとファビーはそれを出勤と呼んでいる。ルルは契約して初めて仕事というものを知ったし、やりがいを感じていた。

 今までは自分が幻獣だという自覚もなかった。他の冬眠鼠と何かが違う。それは分かっていたけれど、そういう個体はどこにでもいる。たとえば白い姿の鹿や狸だ。彼等は本来の色と違うから目立っていた。そのせいで魔物に狙われる場合もあった。異物が目を付けられるという事実は感覚として知っていた。

 そうしたあれこれに言葉を当てはめて教育してくれたのがファビーだ。

 出勤がない日は授業があって、ファビーが手取り足取り教えてくれる。


 昼前後がヴィルフリートに召喚される時間帯だ。そわそわしていると、この日は喚んでもらえた。

 授業の一環らしい。ヴィルフリートはルルにも何をしているのか分かるように説明してくれる。ルルは一生懸命、覚えようと頑張った。

 授業が終わると学食で昼食を摂る。ルルにもパンやチーズがもらえた。

「それだけじゃ物足りないだろ。燻製肉はどうだ。スープも分けよう」

「チュチュ」

 燻製された鶏肉はルルの大好物になった。スープを入れる小さな容れ物はルル専用らしい。ヴィルフリートはいつも素敵なものをルルにくれる。

 感謝の気持ちを込めて指にすり寄ると、ヴィルフリートが微笑んだ。

「可愛いな」

「チュ」

「ヴィリ、顔が崩れてるぞ。ていうか、お前、本当に変わったよな」

「うるさい」

「午後の授業でも幻獣を使役するんだろ。気を付けろよ」

「分かっている。ルルに怪我がないようにするさ」

「幻獣の意味とは」

「チュチュチュ!」

 ルルもヴィルフリートを守ると宣言したら、ヴィルフリートが目を丸くして驚く。それから破顔した。

「前にも嫌な奴から風のベールで守ってくれたよな。助かったよ」

「チュ!」

「ありがとう。だけど、無理はするんじゃないぞ」

 ルルの幻獣としての能力は低い。無理をして死んでしまうと、一番悲しいのはルルではなくてヴィルフリートになるそうだ。ファビーが授業で教えてくれた。

(いいですか、ルル。あなたは絶対に死んではいけません。自分の命を守りつつ、契約相手をも守る。そうでなくては契約獣とは言えません。あなた自身が生き残ることで、ヴィルフリートも生きていられるのですよ)

 ルルは小さな頭で一生懸命考えた。

 大好きなヴィルフリートを守りたい。生きてほしい。だから、自分は生き残る。

「チュチュチュ」

「うん、よかった。ルルがいてこその俺なんだ。無理は絶対にだめだからな」

 指で撫でられる。ルルは顔を寄せた。耳や頬をこしょこしょされるのが、こんなにも気持ちいいとは知らなかった。

 森の中で暮らしていた頃よりもずっと今が幸せだ。ルルはヴィルフリートにこれからも大事にしてもらうため、言いつけをちゃんと守ろうと思った。


 夕方、ルルは召喚を解除されてシロイの家に戻る。

 たまに夜まで一緒の時もあるけれど、寮の食事は「いまいち」らしいから早めに帰されるのだ。

 ちょっと寂しいけれど、ヴィルフリートが申し訳なさそうな顔をするのは見たくない。だから素直に逆召喚される。

 夕食をもらって、ファビーにもちもちされ、たまに水浴びをしてから寝床に入る。

 ぬくぬくの毛布の中だ。

 冬になったら、もっと素敵な布団をもらえるらしい。

 なんて幸せなのだろう。

 シロイに掴まれたときはもうだめだと思ったけれど、今は紹介されたヴィルフリートと契約できてよかったと思う。

 いつも優しくて、ルルを可愛がってくれるのだ。魔力もたまに流してもらった。暖かい魔力だ。

「ごめんな、少ししか分けてやれなくて」

「チュチュ」

 いいの。ちょうどいいんだよ。それに、あたたかい。


 ルルは小さい頃にいなくなった両親を思い出した。いつも間に挟んでくれて暖かかった。ぬくぬくで幸せだった。

 ファビーが教えてくれた「家族」。ヴィルフリートはきっとルルの新しい家族だ。

 今は毛布の中でルルひとりがぬくぬくしているだけ。でも、そのうちヴィルフリートが学校を卒業したら一緒にいられる。ずっとだ。その時はファビーみたいに、同じベッドで寝るつもりだった。

 ルルは幸せな想像でふふっと笑い、大事な巣の中に潜り込んだ。

 今日も素敵な夢が見られそうだった。





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書籍が発売となりました!

応援してくださる皆様のおかげです🙏


タイトル:モフっと少女の人生リスタート~長い眠りから目覚めた白猫獣人は、伝説級アイテムを作って今度こそ自由な人生を切り拓く~

ISBN-13 : 978-4813795346

イラスト:桧野ひなこ先生

書き下ろしアリ


桧野先生の可愛いシロイやファビー、格好良いヴィルフリートをぜひご覧ください~



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