番外編
番外編「ルルの一日」
書籍版の発売にあわせて番外編を投稿しました
※以前サポパス用に載せていた分です
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ルルは早朝に一度起きる。以前のルルが「そろそろねよう」と寝床に戻る時間だ。
これまでは夜に餌を集め、昼間は隠れて寝ていた。幻獣だから夜行性ではないのだが、小型なので魔物に狙われやすい。生きるために行動を変える、それは当たり前のことだ。
一変したのはヴィルフリートと契約してから。
いつ襲われるか分からない森の中と違い、安全に過ごせる家の中での暮らしだ。しかも、寝床はぬくぬくだった。
寝床を提供したのはヴィルフリートの友達、シロイだ。使わなくなったという毛布を小さなサイズに切って縁取りし、ルルのために「ベッド」を作ってくれた。巣は籐籠でできている。森にあった蔓で編んでくれた。
ルルは毛布の間から顔を出し、カーテン越しに薄ら透けて見える朝日を感じて顔をくしくし撫でる。
「チュッ」
まだ寝ていられる。
ちらと反対側を見れば、本物のベッドの上でシロイが寝ていた。隣にはファビーだ。すやすやと気持ちよさそうだった。
本来の起きる時間になればファビーがシロイとルルを起こしてくれる。
それまではまた、幸せになれる毛布に潜って寝るのだ。
「チュ……」
ルルはごそごそと移動し、好きな体勢になると目を瞑った。
朝はミルクとナッツが食べられる。たまに豆苗が出てきた。これも美味しい。
ルルがしゃくしゃく食べていると、シロイが顔を近付けた。
「今日は出勤あるかな?」
「チュ!」
「あるといいね」
「チュチュッ」
ヴィルフリートに召喚される時はルルのお仕事時間だ。シロイとファビーはそれを出勤と呼んでいる。ルルは契約して初めて仕事というものを知ったし、やりがいを感じていた。
今までは自分が幻獣だという自覚もなかった。他の冬眠鼠と何かが違う。それは分かっていたけれど、そういう個体はどこにでもいる。たとえば白い姿の鹿や狸だ。彼等は本来の色と違うから目立っていた。そのせいで魔物に狙われる場合もあった。異物が目を付けられるという事実は感覚として知っていた。
そうしたあれこれに言葉を当てはめて教育してくれたのがファビーだ。
出勤がない日は授業があって、ファビーが手取り足取り教えてくれる。
昼前後がヴィルフリートに召喚される時間帯だ。そわそわしていると、この日は喚んでもらえた。
授業の一環らしい。ヴィルフリートはルルにも何をしているのか分かるように説明してくれる。ルルは一生懸命、覚えようと頑張った。
授業が終わると学食で昼食を摂る。ルルにもパンやチーズがもらえた。
「それだけじゃ物足りないだろ。燻製肉はどうだ。スープも分けよう」
「チュチュ」
燻製された鶏肉はルルの大好物になった。スープを入れる小さな容れ物はルル専用らしい。ヴィルフリートはいつも素敵なものをルルにくれる。
感謝の気持ちを込めて指にすり寄ると、ヴィルフリートが微笑んだ。
「可愛いな」
「チュ」
「ヴィリ、顔が崩れてるぞ。ていうか、お前、本当に変わったよな」
「うるさい」
「午後の授業でも幻獣を使役するんだろ。気を付けろよ」
「分かっている。ルルに怪我がないようにするさ」
「幻獣の意味とは」
「チュチュチュ!」
ルルもヴィルフリートを守ると宣言したら、ヴィルフリートが目を丸くして驚く。それから破顔した。
「前にも嫌な奴から風のベールで守ってくれたよな。助かったよ」
「チュ!」
「ありがとう。だけど、無理はするんじゃないぞ」
ルルの幻獣としての能力は低い。無理をして死んでしまうと、一番悲しいのはルルではなくてヴィルフリートになるそうだ。ファビーが授業で教えてくれた。
(いいですか、ルル。あなたは絶対に死んではいけません。自分の命を守りつつ、契約相手をも守る。そうでなくては契約獣とは言えません。あなた自身が生き残ることで、ヴィルフリートも生きていられるのですよ)
ルルは小さな頭で一生懸命考えた。
大好きなヴィルフリートを守りたい。生きてほしい。だから、自分は生き残る。
「チュチュチュ」
「うん、よかった。ルルがいてこその俺なんだ。無理は絶対にだめだからな」
指で撫でられる。ルルは顔を寄せた。耳や頬をこしょこしょされるのが、こんなにも気持ちいいとは知らなかった。
森の中で暮らしていた頃よりもずっと今が幸せだ。ルルはヴィルフリートにこれからも大事にしてもらうため、言いつけをちゃんと守ろうと思った。
夕方、ルルは召喚を解除されてシロイの家に戻る。
たまに夜まで一緒の時もあるけれど、寮の食事は「いまいち」らしいから早めに帰されるのだ。
ちょっと寂しいけれど、ヴィルフリートが申し訳なさそうな顔をするのは見たくない。だから素直に逆召喚される。
夕食をもらって、ファビーにもちもちされ、たまに水浴びをしてから寝床に入る。
ぬくぬくの毛布の中だ。
冬になったら、もっと素敵な布団をもらえるらしい。
なんて幸せなのだろう。
シロイに掴まれたときはもうだめだと思ったけれど、今は紹介されたヴィルフリートと契約できてよかったと思う。
いつも優しくて、ルルを可愛がってくれるのだ。魔力もたまに流してもらった。暖かい魔力だ。
「ごめんな、少ししか分けてやれなくて」
「チュチュ」
いいの。ちょうどいいんだよ。それに、あたたかい。
ルルは小さい頃にいなくなった両親を思い出した。いつも間に挟んでくれて暖かかった。ぬくぬくで幸せだった。
ファビーが教えてくれた「家族」。ヴィルフリートはきっとルルの新しい家族だ。
今は毛布の中でルルひとりがぬくぬくしているだけ。でも、そのうちヴィルフリートが学校を卒業したら一緒にいられる。ずっとだ。その時はファビーみたいに、同じベッドで寝るつもりだった。
ルルは幸せな想像でふふっと笑い、大事な巣の中に潜り込んだ。
今日も素敵な夢が見られそうだった。
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書籍が発売となりました!
応援してくださる皆様のおかげです🙏
タイトル:モフっと少女の人生リスタート~長い眠りから目覚めた白猫獣人は、伝説級アイテムを作って今度こそ自由な人生を切り拓く~
ISBN-13 : 978-4813795346
イラスト:桧野ひなこ先生
書き下ろしアリ
桧野先生の可愛いシロイやファビー、格好良いヴィルフリートをぜひご覧ください~
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