第60話 パーティー結成、過去の話、師匠に話したいこと




 カールは店を出る前にアイテムをごっそりと買っていった。特に連絡鳥と往復鳥に感動していた。各種全部をまとめ買いだ。

 シロイは疲れ顔のヴィルフリートとアルベルトを夕食を誘った。

 そこで今後の話になった。


「なぁ、今度さ、三人で森に行かないか? 魔物を倒したい」

「いきなりどうしたんだ、アルベルト」

「ダンジョン内でのこと、俺、これでも落ち込んでるんだ」

「ああ、うん。それは分かる。俺も同じだ」


 落ち込む二人を見て、シロイはなんとなく嬉しくなった。自信満々に見えて、二人もシロイと同じように悩むし落ち込むと分かったからだ。


「実は、シロイにはもう仲間になってほしいと頼んでいるんだ」

「えぇー、ヴィリ、抜け駆けしたのかよ」

「そうじゃないって。前から、俺の夢を語っていたからさ。相棒になってほしくて頼んだ」

「シロイはなんて?」

「いいよって答えたよ。ヴィルフリートに魔法を教えてもらう条件で相棒もやるって決めたの。それに友達だから」

「えー、いいなー! 俺も!」


 騒ぐアルベルトに苦笑し、ヴィルフリートはシロイに「いいか?」と確認した。もちろん「いいよ」と答える。


「じゃあ、冒険者登録しないとだね。わたし、階級が上がってるから、いっぱい頑張らないと一緒にダンジョンへ行けないよ」

「分かっている」

「え、そうなの? うわ、俺ここでも補講かよ」


 アルベルトのぼやきにヴィルフリートとシロイは笑った。




 * * *




 ヴィルフリートには、シロイの事情だけでなく今後の目標についても話してある。

 転生魔法を覚えたいから魔法の基礎を学びたかった、と。

 ヴィルフリートは驚きつつも、シロイの師匠を追いかけたい気持ちを理解してくれた。

 何故そこまでして師匠を慕うのか。それについても語った。


「わたしね、白猫獣人族として生まれたの。古代では獣人族は獣の顔と体を持っていた。現代では先祖返りって呼ぶんだってね。今の獣人族のほとんどは只人族の顔と体に耳や尻尾といった特徴を持つだけになってる。当時とは逆なんだよ。わたしみたいな子は少なかった。そして、今と違ってとても差別されてたの」

「そう、だったのか」

「それだけじゃない。わたしにはケットシーの血も流れてる。お父さんはケットシーだったの。お母さんはケットシーの能力を引いた子が欲しかったのに、わたしはこんな顔と体で生まれてきた。耳と尻尾も黒くない。だから、自分の子じゃないと言って、わたしを捨てたの。戦えなくなった老婆だけが食べ物をくれた。でもずっと一人だった」

「なんて酷いことを」

「うん。師匠が助けてくれなかったら死んでたと思う。……師匠はそういう世界を嫌ってた」

「だから、君を助けようとして危険な賭に出たのか」


 幻獣を隔離し、危険な魔物を排除した。全てがシロイのためだった。


「不思議なのは、ケットシーが今は幻獣として存在してることなんだ。よく素直に従うなぁと思って」

「昔はケットシーも獣人族だったのか?」

「たぶん。猫系獣人族の高位種だと聞いたよ。同じ高位種の熊系獣人族や竜人族とも対等に渡り合っていたんだって。立ち回りが上手くて魔法も得意だったらしいの。魔力も豊富だから、現代風に言えば高位貴族になるのかな」

「へぇ」


 ヴィルフリートから聞く、召喚されたケットシーは知能がそこまで高くないように思う。

 もしかすると、若い個体や好奇心旺盛な子しか残らなかったのだろうか。師匠は危険なものを全て排除したと言っていた。


「前に、ケットシーはいたずら好きだって言ってたよね。あれも不思議だった」

「本来はそんな性格じゃない?」

「うん。プライドが高くて、弱い人間は嫌いだって話していたらしいの」

(もしや、安全だと判断されたケットシーにも、本来の性質が残っているのではないでしょうか。本能のようなものです)

「本能?」

(自分より弱い者に従いたくない、という本能です。でも契約はしてしまったから従うしかない。そのジレンマでいたずらをするのでは? あくまでも僕の考察ですが)


 ファビーはヴィルフリートにも分かるように念話を繋げたらしい。彼はシロイの通訳を待たずに「当たっているかもしれない」と答えた。


「よし、今度、コリンナ先生にケットシーの様子を観察させてもらおう」


 わくわくと話すヴィルフリートには思うところなどなさそうだ。シロイをおかしな子だと見る様子もない。彼はシロイがケットシーの血を引いていると聞いても、嫌な顔はしなかった。

 ずっと、親身に聞いてくれた。

 それが嬉しい。



 アルベルトとパーティーを組もうという話の時も、ヴィルフリートはシロイの秘密を話そうとはしなかった。

 ただ、もう相棒になったと報告しただけだ。

 取り引きである「魔法を教える」についても「何故なのか」を言わなかった。

 誠実で、優しい。


 そんな友達と、これからも一緒に過ごしていける。


「わたしね、王都に来て良かった。ヴィルフリートがお客様第一号で良かった」


 ヴィルフリートが真面目な顔で頷いた。


「俺もだ。シロイはアイテムの面白さを教えてくれた。煮詰まっていた勉強も進んだ。悩んでいた召喚魔法の突破口も開いてくれた。ダンジョンの秘密を知ったのもシロイのおかげだ。保管魔法に関しては驚いたが、益々研究したくなった。今の俺では君の師匠のような亜空間は作れないが、ダンジョン内の隠し部屋をもっと研究して使い勝手を良くしてもいい。そのためにも――」

「強くならなきゃだね」

「そうだ。相棒、これからもよろしくな」

「うん!」


 いつの間にか、つかえて話すことのなくなったヴィルフリートと心の底から笑い合っている。

 不思議な気持ちだ。

 師匠に話したい。本当の・・・お父さんに、報告すべきことがたくさんできた。

 そう思うと、シロイはまた笑顔になった。








*************


お読みいただきありがとうございました

番外編か続編かは書くつもりですが、一旦ここで終わりです

(まとめて書いた方が多少マシっぽい気がしまして…! 自転車操業のまほゆかをご覧くださいよ、直しもしてないんですよ…ヤバヤバのヤバ!)




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