第59話 不良品、魔法騎士団の活躍、学生の処分、嘘と真実




 カールが笑いながら説明を再開した。


「四階層で通信障害が起こったのは学生の使った不良品のせいだね。こちらはアイテムだ。通信魔道具の簡易版として売り出された新作だったらしい。残念ながら全く使えないどころか、辺り一帯の通信魔法に干渉してしまった。魔法陣を解析したところ、通信魔道具にただ乗りする内容だったんだ。お粗末すぎるよ」

「うわぁ」

「でも、先生からの報告で、三階層の学生から通信魔法が届いたと聞いた。分かりやすく、洗練された魔法だったそうだ」

「あ、それ」

「そう。シロイのアイテムだね。君があれこれ持ち込んでくれていたおかげで皆が助かった。怪我した学生を運んだのも君の喚んだ幻獣だ。学生たちを逃すために女性冒険者と二人でラーナを追いやったのもシロイだね? ほら、功労者じゃないか」

「シロイ、素直に受け取っておけばいい」

「そうだぞ。謙遜は良くない。俺なら有頂天になっているところだ」

「アルベルトは調子に乗るんじゃない。補講がまだ終わってないと聞いているが、召喚魔法の授業はどうするんだ。このままだと本当に留年するぞ」

「うっ、それなんだよなぁ」

「はは。アルベルトは基礎が苦手なのか。まあ、魔法騎士にも召喚魔法が使えない奴もいる。自分の得意な分野を伸ばして勝負するしかないな」

「カールさん!」

「だが、留年はだめだ。さすがに卒業できない奴を魔法騎士団は採らない」

「ううう。分かりました。頑張ります」


 しょげかえるアルベルトを見て、カールとヴィルフリートは笑った。シロイは可哀想になったので、台所に走ってお菓子の追加を持ってきた。何故か余計に笑われたが、アルベルトは喜んだ。



 カールは他にも、隠し部屋について魔塔が調べている件や、逃げたオーガを追跡した大捕物について面白おかしく語った。

 シロイはやっぱり、本当の功労者は魔法騎士団だと思った。ダンジョン内に溢れた魔物もそうだが、外に出たオーガを探し出して倒すなど、想像しただけでも大変だ。

 いくら高価な魔道具やアイテムをふんだんに使えるとはいえ、人海戦術だったろう。

 とはいえ、彼等には補佐してくれる幻獣がいる。


「俺のカルラとデリアが一番活躍してたんだよ」

「あれ、団長のイリスセントアも出たと聞きましたが」

「おいこら、ヴィリ、そこは黙っておけよ」

「……確かにヘルマン団長のエマは強かった。だが、最後の美味しいところを攫っていっただけで、それまでの事前準備があったからこそなんだ」


 力説するカールを見て、ヴィルフリートもまずいと思ったようだ。慌てた様子で慰めの言葉を掛ける。


「確かに、目立つ人がいると功績を取られたような感じになりますよね。俺も、魔力が少ないからとクラスメイトの奴にいろいろ言われていました。今回は先生がリーダー役を任せてくれて、俺も指揮という形で関われたから点数がもらえたんです。先生が『裏方や支える人間がいなければ止めは刺せないんだ』と言ってくれて、俺は自分も役に立てたんだと思えました」

「それな。俺の魔法剣だって、盾役が魔物の気を引いてくれるから撃てるんだ。後衛のサポートがないと倒せないって演習でよく分かったよ」

「うんうん。いやぁ、先生方も頑張ったよね。学生もだ。まあ、二分されたかなとは思うけど」


 積極的に行動して自分の持てる力で対応した学生と、他責ばかりで受け身だった学生に分かれたとカールが言う。


「あ、もう一つ、あったか。魔物寄せを使った学生ね、彼は捕まったよ」


 軽い調子で語る。仲間も、全員が退学処分になったそうだ。主犯のグスタフはユリウスやヴィルフリートに嫉妬していたらしい。本人は嫌がらせのつもりだったというが、ダンジョン内で故意に魔物氾濫を発生させたことで、現在は牢に入っている。明らかに悪質な行為だったから仕方ない。女子学生の何人かが「ちょっかいを掛けられて困っていた」と言い出しており、カールはまだまだ余罪が出てきそうだと苦笑する。



 普段は扉を閉めているダンジョンに魔道具店の関係者らが勝手に入れた理由も判明した。

 文官が買収されていたらしい。鍵を新しくしたついでに合鍵を横流ししたという。


「担当部署との癒着?」

「そう。談合もそうだね。今、王宮はあちこちで大騒ぎだ。特に文官は残業続きで大変のようだね。俺たちは捕り物が終わって、ようやく休暇をもらえたところさ」

「その休暇でシロイの店に来たんですか」

「報告ついでだよ? だって功労者には説明しておかないと。ヴィルフリートとアルベルトも一緒にいた当事者だからちょうど良かったよ」

「俺もカールさんの話が聞けて良かったです!」


 アルベルトは単純に喜んでいるけれど、ヴィルフリートはぴりぴりしていた。

 シロイの情報を隠そうとして神経を尖らせているのだ。

 実際、カールには危うい質問もされた。


「あのさ、ダンジョンの話はもうしないと約束するから、別のことを聞いてもいいかい?」

「……なんです?」

「うわ、また敬語に戻った。警戒されてる~」

「そりゃそうです。魔法騎士団は国の機関だし、シロイは普通の・・・女の子なんですよ」

「ヴィリがママになってる」

「アルベルト、黙っておけ。勉強見てやらないぞ」

「あ、はい」


 ヴィルフリートはぎろりとアルベルトを睨み、それからカールに向いた。カールは笑っている。両手を挙げて降参ポーズだ。


「いやほら、ルルを見付けた話とか~」

「それは――」

「ファビーのことも気になる。師匠さんって人、いないんでしょ? 形見って言ってたし。だったら、ファビーの契約、どうなっているのかなと思うじゃん」


 シロイはヴィルフリートを見て、それから口を開いた。ファビーはごろごろしたままだ。


「ルルはダンジョンのある森で見付けた個体だよ。ファビーも、こことは違う場所で見付けたの。同じように、誰とも契約していない幻獣は意外と近くにいるの。師匠が教えてくれた。召喚魔法で別の、えっと、幻獣界から喚び寄せなくても小型の幻獣だったら契約魔法で親しくなれる。契約さえしてしまえば魔力をそこまで使わないでも召喚ができるようになるんだよ。これでいい?」


 嘘と本当を交ぜて説明する。カールにとっては衝撃的な事実だったようだ。幻獣が幻獣界だけにいるのではないという事実を知って、彼はシロイがあえてついた嘘に気付かなかった。

 ファビーもルルと同じ「幻獣」だと思い込んだのだ。

 形見についても、シロイは「師匠の」とは言っていない。カールには「本当に遠いところにいるの」と断言した。もし嘘発見器があったとしても、ばれない自信がある。


 堂々としたシロイの様子を見て、ファビーが念話を送ってきた。


(よくやりました! 僕の演技も上手かったでしょう?)

「ごろごろしてたね」

(平然としていた、と言ってください)


 ともあれ、カールが新事実に食いついてくれたので危機は脱した。


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