第58話 聞き取り調査、打ち合わせ、報告さらり
魔法騎士は不穏な発言をさらっと告げるや、またダンジョンに戻っていった。
シロイとヴィルフリートは顔を見合わせ、溜息を漏らした。
その日は野営もせずに戻った。シロイたち冒険者は東門で別れる。護衛の依頼はここまでだ。
後日、聞き取り調査があるかもしれないと言われて、冒険者たちがぶーぶーと文句を言う。時間が取られるからだ。
交渉の末、調査の間も依頼料がもらえることになった。途端に皆の機嫌が良くなる。東門で待ち構えていた騎士団や学校関係者は呆れていた。
シロイの聞き取り調査はカチヤたちと一緒だった。子供だからと冒険者ギルドが調整してくれたらしい。報告書がその場で作成され、半日で解放された。
調査内容を確認したのはカールだ。本来であれば彼が担当するようなことではないらしい。知り合いだから、ではなく、ヴィルフリートの根回しのおかげである。
この前日に、シロイはヴィルフリートに自分の身に起きた事情をほぼ話した。彼は驚いたものの「シロイは嘘をつけるような子ではない」と断言し、信じてくれたのだった。
「それより、先に打ち合わせだ。いいか、聞き取り調査で生い立ちなんて話す必要はない。最低限を言えばいいんだ」
「大丈夫かな?」
「問題ない。いいか、さっきの内容は俺だから信じられるんだ。カールさんは比較的頭が柔らかい方だと思うが、三千年もの間寝ていたとか師匠が稀代の魔法使いだったなんて、荒唐無稽すぎて信じてもらえない。そこで疑われたら、事件についても勘繰られてしまうだろう。だから言わなくていいことを選別するんだ。最低限、幻獣を召喚したことだけは話す必要がある。学生を運ぶのに使ってしまったからな。皆に見られている。あいつらが黙っているとは思えない。特にベルタはお喋りだ」
「そっかぁ」
「落ち込むなよ? シロイは人助けのために力を貸した。そこは誇っていい」
「うん、ありがとう」
というやり取りの末、カールには「幻獣召喚のアイテムを師匠にもらっていた」と説明した。
実際に使用したペンダントも見せたが「これは形見です」と言い張ったことで没収されずに済んだ。
事件に関わった貴重なアイテムや魔道具を平民が持っていると、奪われる場合もあるらしい。
幸い、カールはまともな人だったし、形見という重みのある言葉が効いたようだ。
カールは最後まで研究したそうな顔を隠さなかったけれど、無理に奪う真似はしなかった。
その代わり「またお店にお邪魔させてね」と言われた。
言葉通り、カールがシロイの店に現れたのは事件から十日後のことだった。
夕方だったのでヴィルフリートとアルベルトもいる。というより、二人がいる時間帯を選んでくれたのだろう。
アルベルトにもシロイの事情は薄らと話してある。ただ、三千年も寝ていたとか、師匠が転生を繰り返して今は異世界にいるなんてことまでは言えなかった。
ヴィルフリートに「あいつは悪気なく、誰かにぽろっと零しそうなんだよな」と心配されたからだ。一応、魔法騎士団にばれても問題なさそうな内容で説明している。たとえば「師匠は古代の魔法を研究する天才で、契約中のファビーを通して話ができた」などだ。勉強が得意でないアルベルトは素直に信じた。
彼の口の堅さに問題がないとヴィルフリートが判断できたらシロイの事情を話すつもりだ。
そのため、グリフォンについてはヴィルフリート以外には秘密のままだった。カチヤも内緒にしてくれている。
といっても、カールには「秘密があるのだろう」と思われているようだった。
「さて、まずは事件の顛末について話そう。さっき学校側にも報告してきたからね」
「いいんですか? わたし、部外者なのに」
「部外者だって? まさか! 一番の功労者だ。学生たちを守ってくれただけでなく、魔物も減らしてくれた」
「あ、えっと、その」
「はいはい。幻獣の活躍については触れられたくないんだよね? 分かっている。で、だ」
カールはシロイの態度を気にせず、さくさくと話を進めた。
「どうあれ、おかげで三階層までは魔物がいなかった。助かったよ。力を温存できたからね」
「そういえば、四階層にも異変があったと先生が話していましたね」
「あ、だよな。俺も知りたかったんだ。でも教えてくれなくてさ」
「先生方には調査が終わるまで、たとえ当事者の学生であろうと迷宮内の件は話さないようにと釘を刺していたんだ」
そう言うと、カールは狭い店の中でとうとうと語り始めた。ちなみにヴィルフリートは硝子棚の手前に回って座っている。椅子は台所から持ってきた。アルベルトは壁にもたれかかっている。
ファビーとルルは我関せず、天板の上でごろごろしていた。
「我々が四階層に着いた頃には混沌としていた。原因は隠し部屋からの魔物氾濫だ。オーガが何匹もいて驚いた。あ、東の森にいたオーガだけど、ダンジョンから溢れた個体だと断定されたよ」
「えっ、そうなの?」
「隠し部屋の奥に穴が開いていたんだ。有り得ないだろ。でもまあ、原因はあった。そこで魔道具の実験を行っていたらしい」
「え、えー」
「まさかそんなことが」
「隠し部屋を見付けた奴は国に報告しなかったんすか?」
「そもそも勝手にダンジョンへ入っていたからね。合鍵も作っていた。奴等は隠し部屋の頑丈さに目を付け、保管庫にする前に実験しようと考えた。魔道具の実験だ。最近、不良品の噂が出回っていただろ? あれは実験で失敗した魔鉱石を使っていた。しかも、処理を済ませていない魔物の魔石も混ぜていたんだ。魔石は基本的に魔道具の動力には使えないのにね」
「どうして使えないの?」
「瘴気と言えばいいのかな。魔物の持つ淀みみたいな魔力が混ざっているんだ。魔鉱石は自然の中で生まれるものだ。長い年月を掛けて瘴気が抜けていく。魔石はできたてほやほや、って感じかな。浄化するなり、時間を掛けて処理しないと危険なんだよ。魔道具がきちんと稼働しなくなるし、どうかしたら暴発もある。実際に魔石のせいで暴発したと思しき跡もあった」
シロイはびっくりして目を丸くした。
古代では、魔石の中の濁りを踏まえた上で魔道具が作られていたからだ。魔法陣の中に濁りを排除する術式が描かれていた。
そんなことは言えない。シロイは黙ってカールの話を聞いた。
「リーツ魔道具店は下請けがやったと言い張っていたけれど、幾つかの店との談合もあってね。それが不良品を出した店と一致している。魔道具の実験も彼等が共同でやっていたんじゃないかな。まだまだ取り調べには時間がかかりそうだよ」
「この数日、ベルタ嬢が学校に来ない理由はそれか。ヴィリが追いかけ回されなくて平和になったとしか思っていなかったな」
「おかげでゲアリンデ嬢も静かになった」
「彼女、最近は俺狙いでさ。ヴィリのところに行けって言ったのに」
「やめろ」
「はは、二人は人気者なんだな~」
大きな事件の話をしている割には気の抜けた会話が続いた。
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