第50話 アイテムが原因で言い合い、返事、実際のリーダー




 ユリウスは「有り得ないんだよ」と言った。通信の魔法陣をアイテムに落とし込めるなんて、という意味だ。

 シロイがなにか言う前に、ヴィルフリートが怒った。演習の間、ユリウスの皮肉にも応じなかったヴィルフリートが、シロイのために言い返したのだ。シロイは当事者なのに、ぽかんとして二人のやり取りを眺めた。


「実際にあるだろう。シロイの努力を『有り得ない』の言葉で簡単に片付けるな。君はいつもそうだ。自分の知識だけが全てのように語る。勝手に作った物差しで人を測る。学校内ではそれでも良かっただろう。まだ学生だ。俺に突っかかってくるのも勝手にしろという気持ちでいた。だが、外部の、それも年下の女の子にその態度はなんだ。失礼極まりない」

「いや、それは、そんなつもりはなかった。第一、先生だって驚くはずだ。通信魔法は高度なんだ。あんな小さなカードに収まるはずがない」

「その凝り固まった考えが、君の魔法に柔軟さがない証拠じゃないのか」

「なんだと!?」


 二人の横で、アルベルトが「おー、やれやれー、やっちまえ! いい機会だ」と煽っている。全く止めようとする気配がない。

 ゲアリンデは呆れ顔だ。ベルタが「ヴィルフリート様、かっこいい」と応援している。となれば、クラーラがユリウスを応援するのではないかと、シロイは彼女を目で探した。

 ところが、クラーラはビルギットに「なんだか、ユリウス様らしくないわ」と話している。ビルギットは「前からあんな風だったと思うけれど」と答えていた。

 そんな二人にゲアリンデが近付き、ふっと笑った。


「ユリウス様はヴィルフリート様がお好きなのよ。自分にないものを持っていらっしゃるから気になるのね」

「まあ、そうなんですの」

「存じませんでした」

「ヴィルフリート様が座学のトップを取られるものだから、ユリウス様は学年一位になれませんのよ。最初はライバルとして見ていらしたのでしょうけれど、あんなにヴィルフリート様のことを知りたがるのですもの。お好きなのだわ。ほら、まるで、彼女みたい」


 と言って、目を輝かせているベルタをそっと指差す。クラーラたちは「まあ」と言って、くすくす笑った。

 他の女子も集まって、きゃいきゃい言い出す。その流れで、ベルタ以外の女子をゲアリンデがまとめてしまった。


 ヴィルフリートたちの言い合いは、先生からの返事が届いたことで終了した。

 金色の隼がヴィルフリートの前で止まる。


「ピチチチチッ! 『驚いたぞ。なんだ、この鳥は。あ、これは時間制限があるタイプか。だが、ダンジョン内でも階層を超えて届くんだな。っと、こちらにも異常が出ていた。魔物寄せが原因だとは思わなかった。急いでダンジョンを出る準備を始めている。君たちは先に戻れ。わたしたちを待たなくてもいい。後行組にも連絡を入れる。とっておきの通信魔道具を持ってきて良かったよ。通信魔法が全く使えないんだ。強力な魔道具でないと難しい。魔法騎士団にも救援要請を入れるつもりだが、もしものことを考えて、お前たちが外に出たら連絡を送ってくれ。あとは、そうだ、無理はするなよ。冒険者と協力して動くように――』伝言終わり!」


 役目を終えた隼が消える。

 ユリウスはアイテムがちゃんと発動したことでなにも言えなくなったらしい。黙っている。

 指示を始めたのはヴィルフリートだ。


「先生の言葉に従う。俺たちは今から急いでダンジョンを出るぞ。準備をしろ」

「おー、俺らの組は問題ない。ゲアリンデ嬢、フロレンツとローベルトも荷物は片付けたな?」

「ええ。もちろんですわ」

「はい!」

「魔石ももらいました」


 十五組のリーダーも慌てて仲間に声を掛ける。

 ヴィルフリートはベルタを無視して、残りの二人に目を向けた。こくこく頷いて「問題ない」ことを示す二人に「よし」と声を掛ける。

 ベルタは元々、保管庫の機能がある腕輪しか着けていなかった。手には短杖だけだ。荷物を気にする必要はない。強いて言えば前回の休憩時に出していたテーブルや椅子がそのまま置いてきてあるぐらいだ。

 ユリウスも仲間の装備を確認し、十組と十一組の学生に視線を向けた。


「ぼ、僕たちも荷物は集めた」

「大丈夫です」

「冒険者の方々はどうです。怪我の具合は?」


 ヴィルフリートがフランクに聞く。この場の冒険者をまとめていたのがフランクだからだ。


「問題ねぇよ。いつでも動ける」

「では、出発します。その前に、皆、聞いてくれ。これからは組分けではなく非常時のルールを適用して動く。先行は俺とアルベルト、冒険者から数名を出してもらって進む。次に一年男子、それから女子だ。冒険者のベテランもここでお願いします。女子はゲアリンデ嬢でまとめてくれないか。その次に三年の男子を置く。君らは女子を守ってくれ。殿のリーダーはユリウスだ。大事な場所になる。君にしか頼めない」

「……分かった」


 いつの間にか一行のリーダーがヴィルフリートになっていた。誰も異を唱えない。ユリウスもだ。少しだけ悔しそうな顔をしていたけれど、黙っている。

 アルベルトも、他の組のリーダーもヴィルフリートに従うようだ。

 フランクがヴィルフリートに頷く。


「じゃあ、先行には探索が得意なカチヤと、上下にも動けるシロイちゃんを入れる。俺とフリッツ以外の冒険者は中央だ。殿を守るのは、あんたと俺ら二人で十分だろ?」


 フランクが最後に語りかけたのはユリウスだ。彼は微妙な表情で「ええ、まあ」と曖昧に答えた。

 アルベルトが「ヴィリのすごさを知ったか、はは」と笑っている。

 ヴィルフリートは手を叩き、皆の注目を集めた。


「四階層でも異変があった。魔物寄せは一つじゃなかったかもしれない。他の階の様子も分からない今、皆で協力し合わないとだめだ。列を乱すような真似はするな。余計な発言、行動も禁止する。なにかあれば必ず、その場のリーダーに確認してほしい。いいな」


 皆は素直に頷いた。表情がきりりとしている。ベルタの態度だけが不安だったけれど、ゲアリンデがいるから大丈夫だろう。

 シロイも気を引き締めて辺りの警戒に当たった。


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