第40話 打ち上げ、飲んでないのに混乱中、幻獣の話題
カールにはヴィルフリートに説明したのと同じ「育て親の師匠が今はちょっと遠くに行っているので待っている間は一人でお店をやっている」とだけ話した。
心配そうな顔をされたけれど、追及はされなかった。
結局、彼の提案でシロイたちはレストランで打ち上げをすることになった。もちろんヴィルフリートとアルベルトも一緒だ。そうでなければシロイは了承しなかった。
レストランはシロイの店から歩いて行ける距離にあった。学生のヴィルフリートたちが寮に戻りやすい場所を選んでくれたようだ。
カールの話の半分は魔法騎士団の職務についてで、アルベルトは喜んでいた。彼が質問してもカールは嫌がる様子もなく、きちんと答えている。
話の半分はアイテムのことだ。
「個人で買うなら問題ないそうだよ。上司の許可も取ってきたんだ」
「でも、あの、大量すぎるとだめだって商業ギルドの人に言われました」
「そうですよ。個人で買う量じゃありません。言っておきますが、シロイの店は個人経営です。ツケ払いはだめですからね」
何故かヴィルフリートが保護者のような顔で注意してくれる。
アルベルトは「魔法騎士がそんなせこい真似しないって」と笑う。
カールは一瞬無言になった。細かい性格のヴィルフリートが見逃すはずがない。
「まさか、ツケ払いを考えていたのですか?」
「あ、いやぁ、さすがに金額が高価すぎるから分割払いでどうかなって相談をだね」
「ツケ払いじゃないですか!」
「まあまあ、ヴィリ、落ち着けって。カールさんの冗談だよ。冗談ですよね?」
「あー、うん、そう」
ふんわりした返事を見て、ヴィルフリートはもぐもぐ食べているシロイに顔を寄せた。
「いいか、シロイ。こんな大人もいるんだ。シロイは田舎から出てきて物知らずなところがある。いくら逞しくなってきたとはいえ、気を付けないとだめだ。今後も同じような注文が入るかもしれない。契約書を交わすという方法もあるが、詐欺師は悪知恵が働く。必ず、俺に相談するんだぞ」
「うん」
「シロイが素直すぎて、俺そっちが怖いなー。まるでシロイの父親みたいだぞ、ヴィリ」
「待ってくれよ、俺は詐欺師じゃないからね?」
(皆さん、お酒なんて飲んでいないのに滅茶苦茶ですねぇ)
ファビーはルルの面倒を見ながら椅子の上でパンをもちもちと食べている。
ルルは木の実をお腹いっぱい食べて満足したところだ。ファビーの尻尾の上でまったりしている。
ちなみにレストランにも幻獣を連れて入れるらしい。大型だと断られる場合もあるが、人間より小さければ問題ないそうだ。
デリアは戻されている。仕事中でなければ夜は帰すらしい。
「あの、カールさん」
「なんだい? もしかして売ってくれる?」
「そうじゃなくて」
「なんだ」
肩を落とすカールに、シロイは迷いながら幻獣について聞いた。
「デリアやカルラは昼間、こっちに召喚してるんですよね。食事ってどうしてるのか聞いてもいいですか」
「ああ、食事ね。結構みんなそこが気になるみたいだけど、俺は喚んだ時と昼食時に与えているかな。食事を欲しがる子たちだからそうしてる」
するとアルベルトが身を乗り出した。
「他の幻獣使いもそうなんですか」
「人や幻獣によりけりだね。魔力だけ、って幻獣もいるし。中には道具みたいに扱うバカもいる。あ、魔法騎士団にはいないよ? そこらへんは団長が厳しくしてる。幻獣も隊の仲間だって思ってる人なんだ」
「うわ、格好良い。俺、ヘルマン団長に憧れてるんですよ~」
「分かる。あの人すごいもんね」
アルベルトが興奮するのは、魔法騎士団の団長ラルス=ヘルマンがイリスセントアを召喚できたからだという。アルベルトはカールと幻獣の話題で盛り上がり始めた。なんだかんだ言いつつ、ヴィルフリートも興味津々で耳を傾けている。
(イリスセントアとは、虹馬と呼ばれていた幻獣ですね)
「ケンタウロスじゃなかった?」
シロイが小声でファビーに確認すると(そうですよ)と返ってきた。
「ケンタウロスは獣人族だったと思うんだけど」
(今は違うようですねぇ。古代では暴れ馬だったのでしょう?)
「うん。師匠がよく倒しに行ってた。大事な研究素材を滅茶苦茶にされたって怒ってたよ」
(当時は只人族のような顔をしていたのでしたっけ。そのため、他の獣人族と度々戦争になっていたとか)
「戦闘能力は高かったから負けてなかったよ。そのうち獣人族も仲間だと認めたって聞いた気がする」
(ほほう。まあ、師匠が隔離するほどです。そこそこに暴れていたのでしょう)
「あ、そうか。じゃあ、もしかして」
シロイの疑問の答えがすぐ傍から聞こえてきた。
「――本当はクーシーか、ケットシーを喚びたかったそうだけどね」
「イリスセントアの方がでかくて格好良いのに?」
「団長は機動力のある幻獣の方が良かったらしいよ。俺のデリアを見て羨ましそうだったからね」
「へぇぇ」
ケットシーの血を引くシロイは、どきどきする胸を押さえた。
今はどう言われているのだろう。当時のケットシーは戦闘種族で暗躍も得意だった。強者と真正面から戦うタイプではなかったらしいが、とにかく立ち回りが上手だったそうだ。全ての猫系獣人族が一目置いていた。
クーシーは当時も幻獣であった。言葉を持たず、巨体で怖い顔をしている。見た目に反して性格はおとなしい。
獣人族たちの良き隣人として従っていた。
シロイが聞き耳を立てていると、クーシーに関しては今も同じだと分かった。
ではケットシーはどうか。
「でも、俺はケットシーはないと思うって言ったんだよ。ケットシーを相棒にする奴は魔法騎士団にはいない」
カールが笑いながら、そう言った。
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