第41話 ケットシーの性格、嫉妬、師匠の話、演習開始前
シロイがどうしてケットシーが幻獣として相棒にできないのか聞こうとしたら、先にアルベルトが質問した。
「どうしてだめなんですかね」
「だめってわけじゃないよ。ただほら、ケットシーって、いたずら好きだから」
「あー、確かに。教授のケットシーがたまに怒られてますね。時々『命令を聞きなさい~』って追いかけてますよ」
「もしかしてコリンナ先生?」
「分かりますか。昔から変わっていないんですね。ケットシーは女子には人気があるんですよ」
「可愛いからなぁ。だけど、肝心な時に命令を聞かない、ってのは困る」
「そりゃそうですね」
二人がはははと声を上げて笑う。
シロイが笑えなくて戸惑っていると、ヴィルフリートが気付いた。
「どうした。疲れたか? 顔がおかしいぞ」
(女の子に顔がおかしいとは、紳士と言えませんねぇ)
「ファビーったら」
「ファビーはなんと言ったんだ?」
「あ、ええと、その」
「そういえばルルをずっと見てもらっていたな」
「そ、そう、ルルが眠そうだって」
(僕はそんなこと言ってませんけど?)
「ル、ルル、寝るなら籠に入る?」
シロイはファビーの尻尾で寝転がっているルルに声を掛けた。
「チュチュッ」
ルルは(かご、はいる)と答え、手を出したシロイにしがみついた。
横に座っていたヴィルフリートが「む」と唸る。シロイが振り返ると、複雑そうな表情だ。
「……ルルがシロイに懐いているのが羨ましい、ような気がする」
「あ、そっか。ごめんね。はい、どうぞ」
籠ごと、ルルを渡す。ヴィルフリートはほんのり顔を赤くして受け取った。
テーブルの向こうでカールとアルベルトが話題を変えた。
「やっぱり、小さい幻獣もいいな」
「俺もちょっと思います」
「だけど、君は魔法騎士になりたいんだろ? だったら召喚するのは大型種がいいよ。出世もしやすい」
「出世はどうでもいいですけど、戦いの場で活躍はしたいですね」
「まだ召喚には成功していないのかい?」
「補講が終わらなくて、そもそも授業を受けさせてもらえないんすよ」
「だめじゃないか。魔力は?」
「多めなんで、大型種はいけるって言われてますね」
ヴィルフリートの顔がほんの少し陰る。まだ魔力について劣等感があるようだ。シロイは慰めていいものかと迷いながら、カールたちの話を聞いた。
「昔の話だが、フェンリルを召喚した魔法騎士もいるんだ。頑張ってくれよ」
「はは、頑張ります~」
「うちの国だと、ユニコーンとシルフが一番上なんだよな」
「陛下に仕える魔法使いですよね。他国はどうなんすか」
「グリフォンを喚んだ魔法使いもいるよ」
「へぇぇ。じゃあ、聖竜や大精霊もいますかね」
「まさか。あんなの伝説だよ。グリフォンですら当代一の魔法使いがようよう召喚できたんだ。ドラゴンや精霊王なんて無理さ」
「やっぱそうですかぁ。残念。俺の魔力はそこまでじゃないし、せいぜいサラマンダーあたりが限界かな」
シロイがちらっとヴィルフリートを見れば、彼はもう普段通りの表情に戻っていた。
魔力を増やそうと日夜頑張っているはずだし、折り合いが付いているのだろう。でもたまに劣等感が顔を出す。
シロイだって過去の嫌な出来事が不意に思い出されてしまうから、ヴィルフリートの気持ちは分かった。
いつか、ヴィルフリートに古代の話ができればいいのにと思う。
師匠がドラゴンを使役していたと聞けば、驚いたあとに「どうやって?」だとか「どんな命令をしたんだ」と質問しそうだ。
大精霊と呼ばれる精霊王たちが師匠の茶飲み友達だと知ったらヴィルフリートはどんな顔をするだろうか。
ユニコーンとバイコーンが喧嘩ばかりだった話もしてみたい。
ヴィルフリートになら大丈夫だ。
シロイはそんな気がした。
* * *
ダンジョン演習に行く日がやってきた。
シロイたち冒険者は東の門を出てすぐの広場で学生が来るのを待った。
荷物はすでに各自へ分配され、学生の組み分けも済んでいるらしい。シロイたちにも担当する組の数字が渡された。名前がないのは個人情報になるからだろうか。シロイは十四組の担当だった。フランクも一緒だ。ギルド側が調整してくれたらしい。
フリッツとカチヤも同じ組を担当する。
やがて学生たちがやってきて、合流した。
残念ながらヴィルフリートやアルベルトとは別の組のようだった。ただ、十四組にはクラスメイトがいるらしく、彼等の組番号も近かったため合同で動けると分かった。
合同になったのは女子学生のためらしい。
「ヴィルフリート様、同じ組になれてとても嬉しいです~」
「まあ、ベルタ様、ここはサロンでもお茶会でもありませんのよ」
「やだぁ、ゲアリンデ様、怖いです!」
「怖いのでしたら今からでも遅くはございません。辞退なさいませ」
「なんですって!」
「ゲアリンデ様、わたくしたちの組はヴィルフリート様の組とご一緒いたしましょうよ」
「そうだわ、それがいいわね」
「まあ、皆さん。そうね、ヴィルフリート様でしたら安心ですわ。よろしいわよね、十六組の方々」
「ちょっと、なに勝手なことを言ってるの?」
「あら、相変わらず言葉遣いがなってないこと」
「あの方、平民ですものね」
と、やりあっている。先生も慣れているのか誰も止めない。
シロイがフランクを見ると、彼は肩を竦めて「こういうこともあるんだ」と苦笑した。
そのままヴィルフリートに視線を送れば、こちらは無表情だ。全く感情が籠もっていない。
しかし、片手が腰から下げた小さなポーチに向かっている。
離れていてもシロイには見えた。ルルの頭がぴょこんと出ている。ヴィルフリートはルルの頭を撫でて気持ちを落ち着かせているようだった。
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