第38話 四回目の大市、友達の性格、大口顧客とはならず




 シロイが大市に参加するのは四回目になる。隣近所の出店への挨拶も慣れたものだ。ほとんどが顔見知りばかりで、場所が少し変わるぐらいだったから余計に安心している。

 しかもヴィルフリートが毎回手伝いに来てくれた。この日も授業で疲れているだろうに「しばらく会えていなかったから」と、アルベルトと共に駆け付けた。


「ヴィルフリート、忙しいのに、ありがとう」

「構わない。それにシロイにはルルを預かってもらっているからな」

「素直にシロイが心配だからだと言えばいいのに。ヴィリはひねくれてるよなぁ」

「えぇ?」


 シロイが驚くと、アルベルトが「なに、どうした」と顔を近付ける。

 ヴィルフリートは面白くなさそうな顔だ。


「だって、ヴィルフリートは素直で真面目だよ。魔法の話になると長くなっちゃうけど、その分丁寧に教えてくれるもん。優しい人だよ」

「おー、すげぇ褒めるな。確かに、ヴィリは搦め手とか貴族的根回しが苦手だ。そういう意味では素直だよな。魔法の話は、うん、長い。教え方は丁寧だが俺には厳しい。答えを間違えると短杖で叩くんだぞ。優しくはない」

「えぇー。だって補講を受けるアルベルトに勉強を教えてくれるんだよね? 優しいよ」

「そこだけを切り取れば優しいな。でも――」

「お前ら、やめろ。黙れ。もうすぐ客が来る。静かに作業しろ」


 シロイの尻尾がぴんっと伸びる。アルベルトも固まった。

 二人して顔を見合わせ、静かに準備を終わらせた。

 その間、ヴィルフリートはルルとの会話を楽しんでいたようだから、本当には怒っていないのだろう。



 お客さんは回を重ねるごとに増えており、この日も昼過ぎまでひっきりなしだった。

 遅い昼食を済ませると、交代で大市を見て回る。

 シロイは演習に必要な装備品を買いたかったのでヴィルフリートとアルベルトにも聞いて、メモを片手に小走りとなった。


「ねぇ、やっぱり買った方がいい? 師匠の家にあったもので足りるのに」

(魔法学校に通う学生のほとんどが貴族なんですよ。珍しい魔道具を持っていると知られたら、取り上げられるかもしれません)

「仕舞ったら取られないよ?」

(やれやれ。シロイは只人族など強者じゃないので相手にもならないと思っているのでしょうが、貴族とは権力の塊です。もし脅されたらどうするのですか。シロイは気にしなくとも、ヴィルフリートやアルベルトに被害が及ぶかもしれません。フランクたちだってそうです。貴族ではないのだから、潰すのは簡単でしょうね)

「そんなの、やだよ」

(ですから擬態しておこうという話です。アイテムに関しては仕方ありません。商売でもあるので、多少珍しくとも『売買』が成立します。しかし、師匠の残した魔道具はいけません。あれは渡すべきではない)

「そうだね。保管庫も気を付けないとだった」

(そちらは擬装用の腕輪を着けていれば問題ありませんよ)


 ヴィルフリートやアルベルトの腕輪を観察した結果、大体の形や構造は判明している。

 あとは、うっかり時間停止だとばれないように温かいものや冷たいものは出し入れしない。


「アイテム以外の魔法関連は特に気を付けないとだね」

(そうですね。使用するアイテムに関しても、派手な攻撃系の魔法陣は止めておきましょう)

「うん」


 対策しないといけないのは疲れるが、今の時代の魔法をまだまだ理解できていないのだから仕方ない。

 先日使った「風(暴風)」のアイテムも威力が大きすぎた。

 実は西の森の問題が少し落ち着いた先日、魔法騎士団から連絡があったのだ。カール=トラウトという人からだった。手紙を読めば幻獣使いのリーダーだと分かった。内容は「アイテムを定期的に魔法騎士団へ売ってもらえないか」だ。

 シロイは嫌な予感がして商業ギルドに相談した。予感は当たった。シロイでは魔法騎士団に納入できないと判明したのだ。商業ギルドでの階級が低いため、国の定める納入業者の規定に至らなかった。

 理由を添えて断りの手紙を送ったのは数日前のこと。大口のお客様になりそうだったから、シロイは肩を落とした。


「お金を稼ぐって大変だね」

(唐突ですね。もしかして、この間の件でしょうか。定期的に納入できれば毎月の収入の見通しが立ちますからね。大人になると考えなければならない諸々があって大変でしょう)

「うん。師匠も大変だったのかな。わたし、全然気付かなかった」

(師匠は違うでしょう。彼の資産、べらぼうにありましたよ。整理を手伝わされたましたからね)

「それは四回も転生したからだよね」

(いいえ? 師匠ご自身が仰いました。あなたを気軽に引き取れたのもお金の苦労がなかったからです)

「でも、たまに小麦粉が買えないって言ってたよ?」

(別の理由じゃないでしょうか。たとえば、大きな貨幣を持っていったとか。あの性格なら有り得るでしょう)

「……そうかも」

(師匠を見本にしてはいけませんよ。ヴィルフリートたちもです。なんだかんだ言っても彼等は貴族の出ですからね。それなりのものはもらっていると思います。シロイは平民なのですから、身の丈に合った生活を目指しましょう)

「う、うん」

(とはいえ、あなたは無駄遣いをしませんからねぇ。たまには贅沢をしてもいいんですよ。一応、今のところ生活費はなんとかなっているでしょう?)

「今月は大黒字だと思う。オーガの素材代と、冒険者の皆がアイテムを買ってくれたからね」


 ファビーが「チチチッ」と鳴いた。むふふと笑うような鳴き方だ。

 実際に彼は笑っていた。


(いいですね、黒字。僕の好きな言葉です。しかし、一時の収入に頼ってはいけません。やはり大市は毎月参加しましょう。夕方にまた波が来るので頑張って売りますよ!)

「はい!」


 突然声を上げたため視線が集まった。シロイは衆目の中、こそこそと逃げた。


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