第37話 逆召喚をしない理由、呼び出しと指名依頼、報告




 逆召喚すれば怪我が治るのに何故この場で治癒魔法を使うのか。

 それは帰り道で幻獣使いの魔法騎士が教えてくれた。


「怪我を負って痛い思いをしたまま帰したくないんだ。俺たちのために働いてくれたのに可哀想だろ。それに、この後も働いてもらいたい。デリアには悪いけど」

「ガウッ」

「そうか。相変わらず我慢強いな」

「ギャッギャッ」

「ははっ、カルラもありがとう。助かったよ」


 仲の良い様子に、シロイは幻獣もちゃんと愛されてるんだなと思った。

 古代では道具のように扱われていることもあった。なにしろ強さが全ての世界だったから、幻獣にも失敗は許されなかったのだ。

 今は幻獣だけでなく馬も大事にされていて安心する。


「で、さっきの件を聞きたいんだけど、あれは君のアイテムなんだよね?」

「うん。あ、はい」

「普段通りに話していいよ。俺は気にしない」

「えっと、はい」

「騎士さんよ、シロイちゃんはまだ小さいんだ。尋問するにしても気を遣ってやってくれよ?」

「分かってる。こちらは助けられた身だ。無理難題は言わないさ」

「そりゃ良かった。俺らもシロイちゃんには助けてもらった。試作品とはいえ、魔法のアイテムは高いんだ。金の掛かったもんを使わせちまったからなぁ」

「それは俺たちもだ。助かったよ。調査で森の縁を見て回っていたが、まさかオーガの群れにぶつかるとは思ってなくてな」


 そこからはオーガの話になったため、シロイは黙って話を聞いた。ファビーもリュックの中でおとなしくしている。魔法騎士たちには「君も幻獣を持っているのか」と驚かれたけれど、いつもの「師匠のです」で誤魔化した。


 結局、それ以上シロイのアイテムについては聞かれなかった。

 後日問い合わせがあるかもしれない。その場合はギルドに連絡が行く。

 この場で追及されなかったのは、そんなことよりもオーガの方が問題が大きいからだ。

 魔法騎士たちは急いで王都へ帰り、討伐隊を率いて舞い戻ることになる。どうやら八匹は群れの一部だったらしい。

 シロイとフランクたちは少しでも場所がずれていたら巻き込まれていた。

 当然、冒険者ギルドにも報告した。この件はすぐさま他の冒険者にも伝えられ、シロイたち四人には情報代が入った。




 * * *




 夏が真っ盛りになってきた頃、シロイは冒険者ギルドに呼び出された。


「え、わたしがクレアーレ魔法学校の演習に付き添うんですか?」

「あなただけじゃないわよ。多くの冒険者に護衛依頼が入っているの。シロイさんはまだ護衛の依頼は受けたことがないでしょう? ちょうどいいと思ったのよ」

「でも、あの、泊まりがけでダンジョンにも入るんですよね?」

「あら、詳しいわね」

「と、友達が、通ってるの」


 自分から友達だと宣言するのは妙に気恥ずかしいが、シロイは照れながら職員の女性に説明した。彼女は微笑ましそうにシロイを見て「尚更ちょうどいいじゃない」と言った。


「組み合わせは向こうとの協議になるから必ずしも同じ班になるとは限らないけれど、休憩時間に話せるわよ。友達を守りたいと思わない?」

「守る?」

「西の森の騒ぎは落ち着いてきたけれど、念のため北側のダンジョン周辺も気を付けようという話になったの。今のところ異変はないわ。でもダンジョン内に限っては、必ず大丈夫とは断言できないもの」

「あ、そう、ですね」

「最近お店が忙しくなったという話は聞いているわ。でも、今回の演習にはいつもより多くの冒険者を投入しなきゃいけないのよ。人数が足りなくて困っているの。シロイさん、お願いできないかしら」


 熱心に頼まれると、シロイも断れなくなった。

 それに店が忙しくなったのはギルドのおかげでもある。冒険者に西の森の件を話す際、オーガを倒した手段として「シロイの作ったアイテム」が使われたと事細かに説明してくれたからだ。

 フランクたちも知り合いに喧伝したらしい。

 おかげで徐々にお客さんが増えている。

 ただ、彼等の来る時間帯は夕方から夜だ。昼間は相変わらず暇だった。なので昼間はギルドの依頼を受けている。そんなこともあって、シロイは付き合いとして依頼を引き受けた。



 ヴィルフリートとアルベルトには翌日の大市で伝えた。

 初夏頃までは店に入り浸っていたヴィルフリートだったが、召喚魔法の授業の他にも魔力を必要とする錬金魔法の授業が続いて来られなかったのだ。一応、ルルを経由して伝言は受けていた。

 アルベルトも補講が続き、たまに顔を見せに来てくれても挨拶したらすぐ帰る。

 ちょっと寂しい思いをしていたシロイは、久しぶりに会えて笑顔になった。

 すると、アルベルトがシロイを見て驚いた。


「逞しくなってる!」

「え、え、そう?」


 シロイは自分の体を見下ろした。そんなに強くなっただろうか。

 ヴィルフリートが首を横に振った。


「シロイ、そういう意味じゃない。君がしっかりしてきたから驚いたんだ」

「え、わたし、しっかりしてる?」

「ああ。アイテムの並べ方も説明書きもどんどん上達はしていたが、なによりその笑顔だ。少しずつ人慣れてしていたのだろうが、毎日見ていたから気付かなかったんだな。二十日ほど会わない間にすっかり成長したように感じたみたいだ」

「あ、なんだ、そういうことかぁ」


 シロイは恥ずかしくなって照れ隠しに頭を掻いた。


「冒険者の副業をやると聞いた時は驚いたが、着実に力を付けているんだな」

「そう、そうだよ。俺はそっちの意味でも逞しくなったと思ってだな」

「分かったって。それより、シロイも演習に参加するなら俺は嬉しいよ。信頼してるアイテム師だ。なにかあっても相談できる」

「うん」


 頼りにされるということがこんなにも嬉しいとは知らなかった。シロイは照れ笑いで、出店の準備を始めた。


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