第28話 契約、バレバレ、友人宣言
「グリルルスは寒いと冬眠しちゃうの。元の獣性が残ってるみたい。だから暖かくしてあげたらいいんだよ。洋服を作ってあげたらどうかな。おうちも用意しよう。そこに木の実をいっぱい詰めておくって約束すればいいよ。木の実だけじゃなくて美味しい食べ物もいっぱいある、ってね」
「食べ物って、木の実以外も食べさせていいのか?」
「幻獣は雑食だよ」
「そうなのか。よし、聞いてみる」
ヴィルフリートはシロイの言葉をそのまま伝えた。
グリルルスは袋の中でぴょこんと飛び上がった。袋だから安定しなくて、ヴィルフリートの手の平の上でころころと転がる。
その姿はシロイが説明するまでもなく、喜んでいると分かった。
ヴィルフリートの顔が自然と柔らかくなっていく。
「嬉しいのか。そうか。じゃあ、俺と契約してくれ」
グリルルスがこくこくと頷く。
ヴィルフリートは短杖を手に、契約魔法の詠唱を唱えた。魔法陣が浮かぶ。そこにグリルルスが重なるようヴィルフリートが手を動かした。
「汝の名は『ルル』。我、ヴィルフリート=カロッサとの間で結んだ契約は、双方からの申し立てで解除できるものとする」
解除について告知するのは珍しい。ヴィルフリートは真面目だ。師匠が言うには普通はどちらかが死ぬまで契約が続くものらしい。
だから魔法陣にも自動で契約する内容だけだ。対価に関しても先に話し合いはするものの口にはしない。そのため、守らない人間もいたようだ。
ただ、そうなると信頼関係が薄れるので力関係が拮抗している場合は強制的に解除される。契約魔法の縛りは互いの信頼の上で成り立つのだ。
師匠に対して文句を言った幻獣も、なんだかんだ言いながらも害そうとはしなかった。師匠が対価をきちんと支払っていたからだ。
シロイが物思いに耽っているうちに契約魔法が完了した。
魔法陣の光が消えてグリルルスが袋から顔を出す。
「ルル、よろしくな」
「チュチュッ」
グリルルスはもう逃げようとしなかった。ヴィルフリートの手の上で二本足で立ち、じっと顔を見つめている。
シロイが「良かったね」と声を掛けると視線が向いた。
「チュチュチュチュ」
「そう、びっくりしたんだね。驚かせてごめん。ヴィルフリートを紹介したかったの」
「チュッ」
「許してくれてありがとう」
そっと手を伸ばすと、シロイの人差し指にすりすりした。ファビーと違って可愛らしい。
それが伝わったようで、ファビーがシロイをじとっとした目で見ている。
なにか言うだろうかと思っていたら、その前にヴィルフリートが話し始めた。
「契約していないのに、シロイはルルの言葉が分かるんだな」
「あっ」
「そもそも特殊個体だと説明されたが、契約していないファビーと会話ができているのが不思議だった」
「あ、えっと、その」
あわあわしていると、ファビーが大きな溜息をついた。
(仕方ありません。彼にある程度までは話しましょう。というか、認めてしまった方が楽です。開き直ってしませば問題ありません)
「いいの?」
(シロイは演技が下手ですからね。今もばればれでしょう?)
「あっ」
口に手をやるがもう遅い。シロイはそっとヴィルフリートを見上げた。彼は苦笑で頷く。
「俺は、秘密は守る。シロイには世話になったし、それに、あー、俺たちはもう友人だろ?」
「……うん!」
「そんなに喜ばれると恥ずかしいんだが」
ヴィルフリートの視線がシロイの耳や尻尾に向かう。シロイ自身はそこまでじゃないと思っていたが、凝視されぐらいには動いているらしい。とはいえ、嬉しいのは確かだ。
「友達、欲しかったから」
「そ、そうか」
「アルベルトがいいなと思ってたの。親友なんだよね」
「親友は、あいつが勝手に言ってるだけだ」
「そうなの?」
「最初から、ああいう奴だった。まだよく知りもしないうちからだぞ。おかしいだろ」
「ふふっ」
アルベルトの明るい笑顔を思い出し、シロイは笑った。
「やっぱり親友なんじゃないかなぁ。ヴィルフリートのこと、すごく好きなんだと思う」
ヴィルフリートは目を丸くしたあと、嫌そうな顔で「やめろ」と答えた。
「そういうんじゃない。いいか、あいつと俺はただの友人だ」
「わたしと同じでいいの? すごく仲が良さそうなのに」
「いいんだ」
シロイはやっぱり嬉しくて、また笑った。尻尾もふわふわ揺れている。
ファビーが(良かったですね)と言い、ルルも(なかよし、だいじ!)と応援してくれた。たぶん、応援だ。グリルルスは小さい幻獣なので考えが少々単純だ。まして、ルルは若い個体のようだった。会話が幼い。
その分、契約者との絆を深められる。
成体になって契約した師匠の幻獣の中には、新しい考えに馴染めない子もいた。歳を取れば取るほど頭が固くなるそうだ。
とはいえ、師匠とは喧嘩友達のような関係だったから楽しそうではあった。
信頼関係の上に成り立つ契約であれば年齢は関係ないのかもしれない。
「これで、召喚魔法の問題はなくなったね」
「ああ。シロイ、本当にありがとう。助かった。あとはルルの召喚を試しておきたいが、今やっても大丈夫か?」
「チュッ」
「そうか。じゃあ、少し離れてやってみる」
そう言うと、ヴィルフリートは独学で覚えたばかりの召喚魔法を発動させた。
ルルが難なく彼の手の上に現れる。
「わ、良かったね。魔力はどうだった?」
「近いからだろうな。思った以上に減ってない。これならいける。ルル、ありがとうな」
「チュチュチュ」
ルルは嬉しそうにヴィルフリートの手の中でくるくる周り、それから腕を伝って肩まで走った。
ヴィルフリートはくすぐったそうに肩を揺らし、もう片方の手でルルをそっと掴んだ。
「いたずらっ子だ」
「チュ」
シロイとファビーは顔を見合わせ、同時に「見てられない」とそっぽを向いたのだった。
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