第2話「初勤務」

この3日、いろんなことがあった。

まず、俺が金を借りたのはいわゆる「闇金」というやつだった。


消費者金融の顔して、莫大な利子を付けてたらしいが、もうすでに多量の借金をこさえていた俺はあまり気にしていなかった。


事務所で借金返済のために肉体労働をすることが決まったのが、つい2日前。


勤め先は、中国のベンチャー企業、「アビス開発」


2050年あたりからとんでもなく発展した国として有名な中国。

2050年。ちょうど「あの事件」があったあたりだな。

まあ、自分の近くの邪魔者がいなくなったらそりゃあ成長するよな。


そんな中国の中でも一二を争うぐらいの企業での肉体労働、その任期は脅威の30年。

30年。頭ではわかっていても…いや、頭ですらわかっていない。それぐらい脳が理解を拒絶している。

任期が終わるまで帰ることはできない。

ああ…漫画でも持ってくればよかったなあ…


屈強な兄ちゃん2人にガンを飛ばされ、俺は渋々震える手でモバイルを操作して、契約書に電子サインを書いた。

それが、たったの2日前。


え?じゃあ、昨日は何してたって?

それは…


「おい!新人!ぼさっとしてねえで、テメエもこっち来いや!」

「っ!はいっ!」


まずい。これ以上目を付けられるのはごめんだ。

俺は今、アビスの労働者用スペースにいた。

労働者用、響きはいいが、クソ汚いし、汗臭いし、狭いし…まあ、言いたいことは察してくれ。

前にはリーダーを名乗るでけえ兄ちゃんが、前に立って債務者たちを大声で整列させていた。

俺の番号は…26。ってことは…ここか。

「いねえ奴もいるが、始める。今日からテメエらクズどもには、レアメタルの採掘をやってもらう!」

いかにもな兄ちゃんだな。

2mぐらいあんじゃねえの?これ。

こういうのは骨格から違うんだろうな。


幼少期に牛乳を飲むと、背が伸びるらしいが…牛乳は市場に出回っているもののうち20%ほどが偽物だからなあ…

昔はほとんど偽物なんてなかったらしいのに…

ま、背が伸びたって根本的なが違うからな。

あーいうふうにはなれん。


「レアメタルは少なくとも深海10000mより深くに埋まっている!」

そっか、10000mか…10km!?

数字がデけえよ……

バトル漫画に出てくる戦闘力じゃないんだから。


「テメエらにはこれから防護スーツを着用してもらう!性能は実験してねえから、防護してくれんのかはわかんねえ!まあ、今までに水圧に耐えられなくて死んだやつはいないから、安心していいぞ!」

はーい!ブラック確定ー!

なんだそれ!絶対他の死に方したやついるやん!

ごめんみんな!俺は第二話で死ぬかもしれない!


奥の方にある紺色の防護スーツは、大気汚染のひどい中国国民が着る防塵スーツにも似ていたが、明らかに布の質が違う。見ただけで重い。宇宙服かよ。


胸元には「Vol.1」と書かれ、あちこちに危険マークが貼られていた。

これ着ていいやつなの?爆発とかしない?

「サイズはXSからXXLまであるぞ!カラーリングは5種類だ!好きなのを選べ!」

そう言って奥から出てきた防護スーツは紺色の他に、

オレンジ、白、赤…ショッキングピン…ショッキングピンク!?


なんでこんなに自由度高えんだよ。金の使い方をミスってんだよ。

ほんでXXLて。デカすぎだろ。絶対着るやついないって。


「じゃあ、防護服を選べ!時間は5分だ!あとから取り替えんのはめんどくせえから無しだ!」

その声と共に、俺と同じ債務者クズ共は一斉に動き出した。

サイズは…まあ、Mで決まりだろうな。

Mサイズの服の周りには案の定人が集まっていた。

まあ、なくなったら、Lでも着ればいいか。

あいにく色にはこだわりがない。

そう、色には…ん?


タケルの目の前には、誰にも選ばれなかったショッキングピンクの防護服たちと、それを着なくて済み、安堵する債務者たちがいた。


「…んー?」

「新人!さっさとしろ!おめえが最後だぞ!」


目の前で、大量のピンクがキラキラと輝いて見えた。


うん。やっぱりこの世はクソばっかだ。

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