溺れた聖域

Butaneko

「債務者の始まり」

第1話「プロローグ」

重力が重い。

それでも、俺は、歩かなければならない。


あれ…でも…俺はなんで歩いてるんだ…?



ピンポーン。


「…っ!」

最悪の目覚めだ。午前8時34分。この時間のチャイム…


「井上タケルさーん、いますよねー。借りたお金は返しましょうよー」

からのドアをドンドンドン。


やばい。これは非常に、やばい。


井上タケル、21歳。

現在複数の消費者金融から借金をしている。

俺の人生は穴の空いたボートのようにゆっくりと沈んでいた。


…え?なんで借金したんだって?

そんなんギャンブルに決まってんだろ。

「今日こそ勝てる」が、今の俺を作り出したんだ。

てか最近、近所に新しいAIカジノが出来たから、早く打ちに行きた…

…そう言えば金なかったわ。


「開けてくださ…開けろ!お前、200万もうちから借りといて、返さないって、どういう了見だよ!」

一気に勢いが変わった。ドアノブが悲鳴を上げる。

これは開けてはダメだ。居留守を使おう。

違法アップロードされた電子漫画を手に取る。

そういえば最近面白い新作が…

「…開けるぞ。」

…え?

しばらくの沈黙の後、チェーンロックが外され…

いや、切断されるガチャリという鈍い金属音がした。


窓から逃げようとする俺を、取り立ての男はがっちりと掴み、黒い車へ乗せた。

兄貴肌な男2人が両サイドに座り、車は出発した。

目的地?そんなん知らねえよ。

まあ、さしずめ、ろくな場所じゃないだろうさ。


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