第38話 初ヒットと初打点


 四月半ば。

 俺は東京レイダースのユニフォームを着て、再びバットを握っていた。今日こそ、プロ初ヒットを――胸の奥で呟きながら打席に立つ。


 五回裏、二死二塁の場面。

 相手は技巧派の左腕。外角へのスライダーで翻弄され、カウントは1ボール2ストライクと追い込まれた。

 「ここで打てなきゃ、プロにいる意味がない」

 歯を食いしばり、外角の直球に狙いを定めた。


 四球目、インコースに食い込むストレート。思い切って振り抜く。

 「カキィン!」

 打球は一・二塁間を破り、ライト前へ。ランナーがホームを駆け抜け、歓声が一気に爆発した。


 プロ初ヒットは初打点。ベース上で小さくガッツポーズをした瞬間、鳥肌が立った。ベンチからも勇気や仲間の笑顔が見える。

 「太陽、やったな!」

 勇気の声が届き、胸が熱くなった。


 その勇気は、同じ試合の七回に代走でグラウンドに立った。

 初球、投手が牽制を投げてくる。それでも勇気は動じず、さらにリードを広げる。

 二球目、投手のモーションに合わせて一気にスタート。キャッチャーの送球より早く、悠々と二塁に滑り込んだ。

 「セーフ!」

 判定にスタンドがどよめく。勇気のプロ初盗塁。あの俊足は、プロでも確かに通用する。


 一方その頃、福岡ホークスターズの和哉は別の球場で投げていた。

 デビュー戦で無失点勝利を挙げた彼は、二戦目でも圧巻の投球を見せていた。

 七回を投げ切り、被安打5、失点1。堂々の二連勝。

 「やっぱり和哉は……別格だな」

 ベンチ裏のテレビで速報を見ながら、勇気が呟く。


 俺はタオルで汗を拭きながら、静かに答えた。

 「だからこそ、いつか打ち砕く。そのためにプロに来たんだ」


 初ヒット、初打点、そして初盗塁。

 一歩一歩ではあるが、俺たちのプロ野球人生が動き出した。

 次に和哉と再びグラウンドで相まみえる日――その瞬間まで、俺は振り続ける。

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