十二月四日(モラ逃げ一〇三日目)、とりかへばや

 明日の“Enjoy Simple English”の予習としてテキストを読む。

 金曜日は日本の古典で先週までは古事記だったが、明日からは四大亜流物語(源氏物語に影響を受けた『羽衣物語』『浜松中納言物語』『夜の寝覚め』『とりかへばや』の四編)の一つである「とりかへばや」の抄訳である。

 主人公である男性的な姫君が“Haru(春)”、女性的な男君が“Aki(秋)”、男性として暮らす姫君の親友であるプレイボーイ宰相中将が“Natsu(夏)”、そして姫君と結婚する右大臣の娘・四の君が“Fuyu(冬)”と中心人物四人に本来の原文にはない名前を仮に与えている*1

 「宰相中将」「四の君」など原文を直訳、またはそのまま用いても英語としては分かりづらいのでこの方が確かに抄訳としては妥当かもしれない。

 それはそれとして「とりかへばや」は昔、ちくま文庫で中村真一郎の現代語訳を読んで面白かった記憶がある。

 当初は男性になりすました姫君を同性と思い、親友として付き合ってきたプレイボーイの宰相中将がある時、その美しさに欲情して襲い掛かり、そこで初めて女性と気付く。

 それからの中将は姫君を軟禁して愛欲の対象とし、男児を産ませるが、姫君は子供を置いて姿を消す。

 物語の結末は姫君と男君が本来の性別の人生に戻ってそれぞれ中宮、関白と位人身を極める。

 しかし、宰相中将だけは姿を消した男装の姫君の行方を知らぬまま彼女への愛執に囚われて嘆く。

 取り残され真相から隔てられた彼の涙を浮かび上がらせる幕切れである。

 この宰相中将は源氏物語の頭中将、柏木、匂宮、そして薫大将を一人で兼ねたようなキャラクターだ。

 妙な言い方になるが、元になった源氏物語の人物たちより源氏物語的に思える。

 この「哀しい愛欲の男」という形象が拙作「The female」の陽希にも繋がった。


*1 テキストを読み返したところ、田辺聖子による講談社刊の現代語訳を参考にしたとの記述がありました(二〇二五年十二月八日追記)。

 

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