3日目、ハウステンボスの夜

「美味しかったわね〜」

「お肉柔らかかったね」

「豆美味かったな」

「何気にスープが一番好きだったわ」

みんな満足したんだね。


フレンチのあとラーメン食べちゃう気持ちがわかる。

今猛烈に餃子が食べたい。


エレベーターを降り、龍子さんたちの部屋の前で別れた。

あとでどっちかで飲もうとか飲みに出かけようとかもなく。

こんないい雰囲気のヨーロピアンだし、別行動なのかな。


とりあえず私もベッドで転がって休憩したい。

疲れた。


ガチャ

「ただいま〜」

「おかえり〜」

部屋に入るなりガバッとギュッと捕らえられた。

「待って、転がりたいの足疲れた〜」

腕の中から脱け出ようとすると


「ユイランドへようこそ」


耳元で囁かれた私のセリフ。


「えーっとお客様

 やり放題フリータイムでしたね」

「やり放題とやりたい放題じゃ意味変わってくる」

「同じじゃん」

「違います

 ただやるだけじゃ面白くないんで」


怖いですよその微笑み。

何する気よ。


その微笑みのままチュッとキス。

でも次の瞬間にはチュッどころじゃない、完全やりますよモードのキスが始まった。


ま、いっか


私もしたかったもん。

もうちょっとロマンチックなのがよかったけど。

こんな現実離れした甘い世界で風俗ごっこって。


キスしながらグイグイ押され、ベットに向かって一直線。


「お客様、まずシャワールームで

 全身洗って差し上げますが」

ニットの下から手を入れて、中のシャツのボタンを外そうとしたら

「やりたい放題コースだろ?」

「そのようにご予約承っております」

「じぁあまず」

一之瀬さんは私の手を払い立ち上がる。

「先に抜いてあげよっか」

↑気にしないで笑


「それはあとで頼もうかな」

ベッドに座ってた私を引っ張って立たせた。

「やりたい放題、まずは付き合って貰おうか」


一之瀬さんはクローゼットから上着を出し、私の肩に掛けた。


「散歩しない?ヨーロッパな夜の街」


「それやりたい放題?」



「ジャンクなもん食いたいんじゃない?

 満足そうじゃなかった、フレンチ」



今夜のユイランドは業種変更。


「じゃあデートクラブね!」

「風俗付きのやつな」

「はい喜んで〜!」




すっかり夜になったハウステンボスは昼間とは違う。

街のいたるところからキラキラと光をこぼす。

光の街並み。


それは夜空からも。


「きれ〜…」


「デートにピッタリだな」


「ねぇ手にする?腕にする?」

「好きな方でどうぞ」

「じゃいいや」

「腕でお願いします」

プププ

くっ付きたいくせに。

「巨乳が腕に当たる感じがいいんだけど」

「じゃあ手術代ちょうだい」

ズボンのポケットに手を突っ込んだ一之瀬さんの腕に抱きつく。


一之瀬さんはそんな私を見下ろしてフッと笑う。


「チーズフォンデュの店にしよ。

 チーズ食いてえ」

「ねぇクリームチーズ買って帰ろうよ」

「チーズって冷蔵だろ?

 あと何泊あると思ってんだよ」

「じゃあ一之瀬さんちに送って

 冷蔵庫に入れててもらう!」


「俺んち?」


「や…うちです

 ママにラインしてみます」


最近、よそんち表現したら嫌がられる。

面倒くさい愛情たっぷり。


ポケットに突っ込んでた手を出してパッと手を繋いだ。


「あれ行こう」


一之瀬さんの視線が指すのは


「チーズ行かないの?」

「たまにはデートらしく餌もやっとかないと」


高さ105メートルのドムトールンでございます。



「うわーーキレーー」

「すげーな

 てかこの高さはいいのか」

「足場がしっかりしてるのはいいの」


デートみたい。


キラキラな夜景は、夜だから光だけが見えて日本な山は見えない。


「高いね」

「マンションもこれくらいなんじゃないか?」

「ここが80メートルだよ?

 13階って何メートル?」

「80もねえか

 一階3メーターとして40くらいか」

「半分じゃん」

「だってお前

 この高さのベランダに洗濯干せるか?」

「無理だね

 あ、ねぇベランダ広いっぽいし

 テーブルと椅子置いてさ」

「絶対それ

 貸切眺めながら飲もうぜ」

「誘導の笛の音とかするんだろうね」

「笛聞こえたら米に火つける」

「え、それって私の笛ってわかるってこと?」

「当たり前だろ」

すごい!そんなのわかるんだ!

私エンジンの音聞いても加藤さんしかわからないよ!

だって1人だけハイブリッドだから。

「わかるわけないだろ」

「だよね」

「お前の笛だけホーホケキョにすればわかる」

「ホーホケキョでバックすんの?ウケる」

「そんな笛あてにしねえな」


ロマンチックなデート。

なのにすぐくだらない話になるとこが好き。

くだらないことで笑っちゃう。


一緒にいると楽しい。



大好き



「さ、チーズ食いに行くか」

「行こう行こう!」

泊まってる人向けの遅くまで開いてるお店も数件あって、ムーディーな雰囲気のバーとかカジュアルなカフェとか、そしてやたら食べたがるチーズフォンデュのお店へ。


「「あ」」


そこで偶然、先輩カップルに会った。


「デートしてたんですか?」

「どうしてもチーズフォンデュって

 越智くんが言うからね」

「ユイちゃんどっか行ってきた?」

「ドムトールン登ってきました!」

越智さんは立ち上がり、自分のグラスやお皿を龍子さんの横に移動させ龍子さんの横に座った。

「俺もビール〜」

「私ハイボールがいい」

注文つけながら座ると越智さんが店員さんを呼んだ。


赤い小さなお鍋にとろーりチーズ。

一口サイズのバケットに、ブロッコリーや人参。


そして肉感満載のめちゃうまウインナー。


「やっぱワインでしょ」

「俺スパークリングがいい」

2杯目からはワインだった。


だってここはヨーロピアン。

チーズにウインナーときたらそりゃワインだよね。


私ね、日本酒弱いけど



ワインも弱いの。



ユイランド

やりたい放題フリータイム




「閉店ガラガラ…zzz」

「お前…!」

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