4日目、平戸大橋

しかも起きたら龍子さんとくっついて寝てたっていうね。


もうね

怖くて彼の顔は見れないよね。



「やっぱ唐津から平戸がコース的に正解だろ

 若干戻る感じがイラつくな」

「いいじゃん、高速乗ればすぐ」

「そこまでして橋見たい?」

「見たい」

「まぁまぁ、お昼は平戸牛なんだし。

 悠二、肉好きだろ」

「好きだけど飽きた」

「贅沢な」

運転手越智さん。

ガイド都築ユイ。

だってスナイパーと2人きりで後部座席なのは怖いから。


「夜は出店でジャンク〜」

「俺初めて、この時季」

「私二回目〜

 去年仕事で行った時は梨恵さんだったから

 夜出れなかったけど〜」


そう今夜は、この旅行の目玉とも言える




長崎ランタンフェスティバル!




「その前に平戸だけどね!」


三泊を終え四日目。

疲れもたまり、四日も一緒にいるとさほど会話もなく…

「あ!悠二あれ新型のGALA!」

「え!どれ!」

「向こう車線の日南バス!」

「うわー!ほんとだ!」

なんて事もなかった。

なにこれ、この旅行始まって一番のテンションがそれ。


よくわからないマニアックなバスの話で盛り上がってるのを聞きつつ、車は走る事およそ1時間。



「皆さま、見えてまいりました朱色の立派な橋が

 平戸大橋でございます。

 橋は全長880メートル。

 海面からの高さは満潮でおよそ30メートル。

 平戸島と本島を結ぶ架け橋として」

ガイドは後部座席から棒読みの龍子さん。


「キレーーー!」


青い空、青い海に、赤い吊り橋がよく映える。


「ほんと橋好きだな」

「言っちゃなんだけど

 バス運転してる時の方がバッチリ見える」

「確かに、大パノラマ」

「私たちはじっくり見れないの」

「公園寄ってねドライバーさん!」

「はいはい」


橋を渡りすぐの公園は海に面し、橋がバッチリみれる。


「さっむーー!」


凍える風の強風


「いやー!」

「無理ー!」

髪が方向を見失い右往左往。

風のテンションなのかなんなのか思わず抱きついてしまった。

「キャー!」

「さっみー!」

そして風のテンションなのかなんなのか、笑いながら一之瀬さんは抱きしめ返してきた。

舞い上がる私の髪を雑に抑えつけ、滅多に見せない無邪気に笑う顔。



ズッキューーン!



なんで昨日ワインなんか飲んだの私

イチャイチャしたかった

イチャイチャしたくなった!


出会った頃

好きだと自覚した頃

付き合い始めた頃


一番輝くその頃にはときめかなかったのに、結婚した今がときめきの連続だ。


ときめく恋愛の期間をすっ飛ばした気がする。


「ユイちゃん悠二!こっち見て!」


カシャッ!


旅行が終わった後、越智さんはこの写真を少しだけ大きく現像して、シンプルな木製のフレームに入れてプレゼントしてくれる。


ふざけて抱き合った私たちが

それはもう心から楽しそうに大笑いしていた。




「気が済んだか橋マニア」

「やっぱ吊橋系は平戸〜」

「瀬戸じゃなく?」

「あれはダントツ、現実味ない

 こういうローカル感がいいんじゃん」

「よおわからんわ」

橋を堪能して私たちはお昼ご飯の平戸牛のレストランへ。

「うま!」

「ここまで来てご飯に乗せる?」

「やっぱ肉はご飯に乗せないと」

「このソースが天才」

ステーキ丼にしたのは私と一之瀬さん。

肉飽きたとか言いながらめっちゃ食べた。

そしてまた平戸大橋を渡り、車は長崎へ向けてひた走る。



「うわーーー!」

「すごーーい!」


「大渋滞」


長崎市内に入った途端の大渋滞。

夕方だし土曜日だしね。

土曜の夕方なんて大体どこ行っても渋滞なんだけど。


ランタンが彩る長崎の夕方


「ランタンフェスティバルが

 長崎の年中行事として定着したのは

 実はそう昔でもなく

 1994年に初めて観光向けに拡大され

 今のように盛大なものとなったのは

 それから数年後でございます」

ガイドは龍子さん。

「絶対メガネ橋の方行きたい!」

「出た、また橋か」

「川面に映るランタンの灯りが

 とても綺麗に映えでございます。

 可愛い妻のおねだりは

 二つ返事できいていただきますよう

 お願い申し上げます」

「はい…」


ホテルは街中にとってあった。

こんな時期に好立地なホテルがとれたのは御曹司の素敵な裏ルート。


「悠二、駐車場は?」

「ホテル提携のが裏にあるらしいけど

 そっちから入ると確か通行止だから」

「あぁ、じゃあ回んなきゃか」

道はドライバー任せ。

だけどたぶんこれも職業病。

こんな細々したルート変更はたまに起こる。

しかも突然。

だからそれに合わせてついつい頭の中はガイドしてる。


長崎市内を中心におよそ1万5千個のランタンが彩り中華街や湊公園などでは干支や動物などの大きなオブジェも点灯されとても幻想的な雰囲気でございます皆様左手奥ちょうどこちらからですと建物でご覧いただけませんがこの奥がメイン会場でございます


「ユイ聞いてんの?」

「え…あごめん何?」

「なにぼーっとしてんだよ」

「脳内ガイドしてた」

「あ、わかるよくやるわよね〜」


「窓の外にイケメンでも見つけたのかと思った」


は?


「本当は浮気相手のこと考えてたのよね」


は?


「りゅうぴょん浮気相手は言い過ぎだぞぉ」

「浩介だって〜煽らないの」

「コイツ〜」

「キャッ、もぉ〜」


なにイチャこいてんの。


「今日は別行動ね」

「俺も邪魔されず

 りゅうぴょんとゆっくり寝たいし」


邪魔って私のこと?


でもよかった

今日はどうしてもイチャイチャしたかったの。


いやごめん

イチャイチャっていうか



ムラムラ?



絶対したいの

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