2日目、いい感じの旅館

本当に買いやがりました。




「ユイ、岩風呂いく?」

「はい!」

オシャレすぎる旅館は、行き慣れた団体の旅館とは違い部屋が一列並びじゃない。


「悠二どうする?露天行く?」

「行く~」

格子の戸がなんともオシャレ。


手前が私と一之瀬さん。

この先、廊下を曲がり奥の部屋が龍子さんたち。


「じゃ、あとでね~」

「そっちの部屋も見たいから呼びに行きまーす」

「はいはい」


格子戸を開けるとふすま

二重玄関



「うわ~すごい!」


さすが高いだけのことある。


窓に見えるはプチ日本庭園

その脇には


部屋露天風呂


「外ですんのはあんま趣味じゃないけど」

「何考えてんのバカ!」

背後からギュッ

抱きしめるんじゃなく、抵抗できないように腕ごとロックオンの方。

わざとらしく音を立てて首にキスが吸い付いた。

「夜まで待てない場合は

 今テキパキと済ませてもいいでしょうか?」

「ダメに決まってんでしょ、離して」

2、3回チュッチュやられ

「りゅうぴょん待たすと怖いから行こ~」

あっさりはなした。


「一之瀬さん温泉大丈夫?」


ふっと笑う優しい目元


「心配すんな」


髪を撫でながら

キスが額に



「オッチーに抱っこしてもらって入るから」



「冗談でも本気キモい」



龍子さんたちの部屋も同じような感じだった。

飾ってある物が違ったり板間が濃い色だったり。

プチ日本庭園に小さな露天風呂なのも同じ。

龍子さんのコートをハンガーにかける越智さん。

「龍子さんマジでアル中じゃねえ?」

「じゃねえし」

龍子さんはもうビール

「私も~」

「ワタシモ~」

「真似しないで」

「アル中呼ばわりした人は飲まないでください」

みんなで瓶ビールを一本空け、それぞれお風呂へ行く事にした。


「俺たちの方が遅かったら笑う」

鍵は男子へ。

「越智さん、抱っこしてあげてね」

「うん、その予定」

お風呂の前で別れ、しばしの女子タイム。


「絶対太ったわ」

ブラパン一丁でお腹を揉み揉みする龍子さん。

「私も」

「帰ったらスープ置き換えやろ」

「旅行中は食べたいし忘れましょう」

「そうね!明日はイカだしね!」

「しかも夜はテンボスですよ!」

「異国でワイン〜!」

※日本です


ええ雰囲気の薄暗いヒノキ風呂。

水垢の付いてない全面窓から星空が見える。

「水滴に電気写ってる

 曇ってるから星見えてないわよ」

「龍子さん最近仕事被りませんね」

「この前カモさんとチーフでさ」

いきなり何を話し出すのこの人。

「無駄に幸せアピしちゃった」

「は?」

「だってさ〜

 結果的に越智くんがいるけどさ

 あっちは私とダメになっても

 幸せなお家があるじゃん?じゃあ私は?

 終わったら終わりしかないのよ。

 よく考えたら酷くない?」

「うんまぁ…」


言っちゃダメだよね



『一緒になりたいと思ったと言ったら

 軽蔑するか?』




「だけどさ」


龍子さんがお湯を掬い落とし、目線を私に上げて笑う。


「何そんな顔して〜」

「カモさんは…なんて?

 龍子さんの無駄な幸せアピ」


「笑ってた

 よかったって」


カモさん…


「だけどやっぱりね

 あの10年間は必要だった」


星のない窓の外を


龍子さんは見上げた。



「じゃないとだいぶ前に辞めてた」


「カモさんがいたから…?」


「どう考えても

 続けてこれたのはあの人のお陰なの。

 続けてきたから今がある…」


「越智さん…?」


「越智くんも…

 ユイも凛子も沙織も清美もみんな」




「今が一番楽しい」




余計なお節介してよかった。



「龍子さん今日一緒に寝よ!」

「嫌よ」

はい?

今のは流れ的に仲良しこよしでしょ?

「こんないい雰囲気の旅館なのに」

「あ、ですよね…

 越智さんとイチャラブですよね」


「ユイのこととったらイッチーに恨まれる」


確かに。

アレまで買ったんだった。

イチャラブ部屋露天だった。








「うわーーー!」


すんんんごいご馳走!


「声がでかい」

「だってスゴイじゃん!」

「仕事じゃ出ないもんね、こんな舟盛り」

「だよね!すごいね!殺したてだよね!」

「新鮮…って言おうか…」

「ガイドの語彙力と思えない」

「美味しそう!」


夕飯は龍子さんたちの部屋でお部屋食。

旅館らしく4人とも浴衣だった。

一之瀬さんはモスグリーンで越智さんはグレーに縞模様。

龍子さんは裾に水仙の描かれた紺で、私のは幾何学に梅の花の描かれたえんじ。


「ではごゆっくりどうぞ

 御用の際はそちらの電話から」

「はい、ありがとうございます」

準備してくれた仲居さんが襖の向こうへ。


「あ!待ってください!」


「なになに」

「ユイ、少し黙れ」


「写真を撮ってもらっていいですか?」


豪華ご馳走を間にみんなオサレな浴衣

頬はポカポカ桜色


カシャ


コボリンに送信


「可哀想」

「泣くだろうな」

「長門峡に身を投げるかもしれないわね」

「そうだ、インスタにのせよ!」

カシャ

カシャ

お料理をとってアップ。


「早くいいねしてよ」

「いいねを催促するな」

誰からも注目されない私のインスタ。

「知り合いしかしてくれないんだよね

 しかもりんりんたちほとんど見ないし」

「滅多に更新されないのに見ないだろ」

「インスタって

 世界中に友達出来るんじゃないの?」

「そりゃ♯つけないと

 世界中のお友達は見ないでしょうね」

「え、そうなの?」

「そうなんだ」

↑ほぼフォロワーのイッチーしかいいねしないインスタ




「「「かんぱーい」」」


ビールも奮発してプレモル。

「最高!」

「うん、美味しいね」

「あーー…沁み渡る」

「カラカラだから?」

「あんたも殺したてに並べてあげようか」

お約束の喧嘩。

「ウニーー」

「浩介、四当分にしろ

 全部食われるぞ」

「ユイ、あとで佐賀牛も来るわよ」

「そうだった!」

「モーーって来たらどうする?」

「笑うー!」

「そこの庭に放す」

「葉牡丹食いまくりだな」

「温泉入るかもよ」

「きもちいーもー」

「モー」

そんなどうでもいい佐賀牛の話で

「ちょ…」ククククク

「あ、ツボってる」

「笑いの沸点が低い」

越智さんがツボる。

「だってリアルに想像したら…!」

「ユイ、今のうちに浩介のウニも食っちゃえ」

「うん!」

「や…!ダメ!」


そんな楽しいお夕飯

旅行二日目の夜


「じゃ私は鍋島〜熱燗で」

「俺も」

「同じく」

「私ハイボール!」


シラーー


「ここまで来てハイボールって」

「カワムラの無料券で飲めや」

「ハイボールはすみません…」

なかった。


「じゃあ私もアツカンで…」


日本酒は得意じゃないの


ほらね

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